アートとカルチャー
2020年06月21日 12時31分 JST

「世界が一旦止まるのは良いこと」NYインディ映画の巨匠、ジャームッシュ監督が“ゾンビ”に映した現代人とは

奇しくも新型コロナに翻弄される今の世界を予期したかのようなジム・ジャームッシュ監督の最新作『デッド・ドント・ダイ』。ニューヨーク在住のライター・中村明美さんによるインタビューが実現した。

©️2019 Image Eleven Productions, Inc. All Rights Reserved.
ジム・ジャームッシュ監督

1980年にニューヨーク大学の卒業制作として作られた『パーマネント・バケーション』でデビュー、2作目の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)ではカンヌ映画祭の新人賞に当たるカメラ・ドールを授賞。以来、カンヌの常連で、ニューヨークを代表するアート系インディ映画監督であるジム・ジャームッシュ。

最新作となるブラック・コメディ『デッド・ドント・ダイ』ではゾンビ映画に初挑戦。それだけでも楽しみだが、さらにキャストが豪華で、40年間映画を作り続けてきた監督の作品の中でも一番というくらいのメンツが結集している。

『ロスト・イン・トランスレーション』のビル・マーレイや「スター・ウォーズ」シリーズのアダム・ドライバーに、ティルダ・スウィントン、イギー・ポップという彼の“ファミリー”的なキャストから、セレーナ・ゴメスなどのポップスターまで揃っている。

独自のメッセージ性やスタイルを崩すことなく、映画を作り続けていくことが困難な時代にあって、コンスタントに良質な作品を世に送り出す貴重な存在であるジム・ジャームッシュ監督。

「本当はゾンビは好きじゃない(笑)」というが、尊敬するジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』(1978年)へのオマージュとして製作したという今作。偶然にもコロナ禍によるカオスを描いてしまったようなこの作品について、監督へのインタビューが実現した。

 

コロナは世界が1つだということを再確認させた

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映画『デッド・ドント・ダイ』

本来はNYにて対面で行なわれる予定だったが、外出自粛のため、3月中旬に電話で話を聞いた。過去のインタビュー時同様、ひとつひとつ丁寧に質問と向き合う、真摯で優しい人柄はそのままだった。

「僕は普段はマンハッタンに住んでいるんだけど、新型コロナの影響で外出禁止になってから街を脱出して、(NY郊外の)ハドソン川の上流のキャッツキルにある家に来ているんだ。

今とても悲しくて不幸な状況に世界中の人が立たされてしまったけれど、でもここから何かポジティブなものが生まれてくれればいいと思っているんだよ。

世界が一旦止まるというのは、良いことのようにも思うからね。一旦呼吸するというかね。

もちろん多くの人達にとって辛い状況だ。経済的に困る人も出てくる。でも、例えば衛星から撮った中国の写真を見ると、大気汚染が劇的に改善していたりもする。そこから我々が学ぶことが何かあると思うんだ。

それらが地球に及ぼす影響や、あるいは、世界中の人達は全員ひとつなんだと気づくきっかけになるかもしれない。みんな一緒に地球上にいる人間だってことにね。だから、お互いがお互いの面倒をみなくてはいけないってね。

地球は交通機関だけでなく、インターネットやソーシャルメディアによって、すごく小さくなっている。

でも、それらを操作しているシステムが決して優れているとは言えず、というより、崩壊している。

だから、僕の希望としてはこれを機会にみんなが一歩下がって、『地球を動かしていたのは一握りの者だけが儲かるシステムで、僕らではない』って気づいてくれたらいいと思うよ」

 

温暖化、過剰な消費…現代社会への警告を描く

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映画『デッド・ドント・ダイ』

NY郊外の街がいきなりゾンビに襲われ、危機にさらされるという今作だが、コロナ禍を予期していたようで興味深い。

「そうだね。僕がこの映画を作り始めた時は、2003年に撮った『コーヒー&シガレッツ』みたいな、笑えて、ちょっとバカげた感じの作品にしたいと思っていたんだ。

実際、『デッド・ドント・ダイ』はそういう映画になったと思っているんだけど、でも、僕にとっては映画作りってその過程も大事なんだよね。

脚本をそのままスクリーンで再現すればいいってものではなくて、人とコラボレーションをしながら、さらには世界の状況の中で発展し続けていく。

今作の場合は、世界がダークになっていっていて、とりわけ地球温暖化の危機が重要だと感じていた。その事実を拒否する人がいかに多いかということも含めてね。

それから、限度のない消費社会についても描かれているんだ。地球温暖化に直面しているのに、アメリカ人は、優しさや愛を無視して、欲に支配されている。一体どうしたらいいのか分からないよ(笑)。

人間って本質的には悪者だとは思わない。だけど、限度のない消費社会に、良いエンディングはあり得ない。

この映画はすごく笑える作品であって欲しいと思いつつも、僕が感じている世界のダークな部分も反映してしまっている。映画の終わりは、意識的に警告にしたしね」

 

ゾンビ=愚かなものに取り憑かれる現代人のメタファー 

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ジャームッシュ監督作には4度目の登場となるイギー・ポップ(左)が演じるのは、コーヒーに取り憑かれた「コーヒー・ゾンビ」なるもの

どんなエンディングなのかはネタばれになるので言えないが、これまでの作品ではメタファーを使い明言することを避けてきた監督だけに、いかに危機感を持っているかがよく分かる。

そして、今作に登場するゾンビたち。「コーヒー・ゾンビ」に「Wi-Fiゾンビ」、「シャルドネ・ゾンビ」など、自分にも身に覚えのある現代人のメタファーとなっている。

「ゾンビは、愚かなものに取り憑かれている現代人の分かりやすいメタファーとして使おうと思った。ロメロの『ゾンビ』がメタファーで使われていて、この映画はその延長線上にあるからね。

現代人って何の指針もなく生きているように思う。脳みそもなく生きているというかな。または、脳みそはあるけど、心がない。中身がない殻みたいなものだと思ったんだ」

 

セレーナ・ゴメスにティルダ…まさにドリームキャスト 

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最近ではNetflixの人気シリーズ『13の理由』の製作総指揮も務めるセレーナ・ゴメス(左)や、いまハリウッドで最も勢いがある俳優の1人、オースティン・バトラー(右)も登場

ジャームッシュ監督に出演を頼まれて断る俳優などいないと思うのだが、今回集まった俳優陣は監督にとってもドリームキャストだったようだ。 

「僕は、『デッドマン』(1995年)や『コーヒー&シガレッツ』(2003年)のような大人数のキャストが出演する映画はこれまでも作ってきたし、僕が好きなウェス・アンダーソンやポール・トーマス・アンダーソンも、幅広いキャストを起用するよね。 

映画の歴史を振り返ってみても、『おかしなおかしなおかしな世界』(1963年)や『予期せぬ出来事』(1963年)など、優れた俳優が多数キャスティングされた映画は歴史的にあった。

今回は、脚本を書いている時から、自分好きな俳優ばかりに出てもらおうと思っていたんだ。やりたいと言ってくれるかどうかは分からないけどね。それから、これまで仕事をしたことがない俳優とも仕事したいと思ったんだ。

例えば、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズとか、ダニー・グローバーは長年好きだったけど、一度も仕事をする機会がなかった人達だし、セレーナ・ゴメスも尊敬しているし、オースティン・バトラーも才能のある若手だしね。素晴らしい俳優と一緒に仕事できて、すごくラッキーだった。

それから、僕が何度もキャストする俳優達は、本能的に選んでいるんだよね。人間的にも素晴らしくて、お互いが尊敬できて、コラボレーションができる俳優なんだ。一緒に何かを作ろうとしてくれる人だと思う。そして僕のアイディアを僕が考えている以上のものにしてくれる人達なんだよね」

 

SNS、動画配信サービスの普及で変わる映画製作

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映画『デッド・ドント・ダイ』

デビュー作『パーマネント・バケーション』以来、40年。SNSの普及などで時代が大きく変わる中、“オフビート”と表現される独自性の高い、自分らしい作品作りを続ける監督は、今、映画製作において何か難しさを感じることはあるのだろうか。

「そうだな。僕は可能な限り自分のイマジネーションを守るように努力している。

それから、自分が尊敬する人達とコラボするように心がけている。

そういう意味では、何かをクリエイトするという概念や、どのように映画を作るのかという概念においては、これまでずっと変わっていない。

ただ、映画の資本集めは、映画業界全体の変化やストリーミングの普及で近年どんどん難しくなっている。とりわけここ数作は、かなり厳しかった。この映画の製作費を集めるのもすごく大変だったしね。

今は映画を作ること自体が難しくなっている。100万ドル(1億円超)でできる映画か、または1億ドル(100億円超)の映画しか作らないっていう時代なんだ。だから、僕にとっては、映画の製作費を集めるのが、一番難しいんだよね」

 

映画はすべてのアートを内包する

確かに、2019年はマーティン・スコセッシのような巨匠から、ノア・バームバックのようなアート系のインディ映画監督もNetflixで映画を作った。

つまり、映画というアートフォーム自体が危機に晒されている中、監督は言ってみれば、その伝統を守り続けているのだ。その原動力は何なんだろうか?

「僕は文章も書くし、コラージュも作る。来年にはコラージュの本が発売されるから、今その作業をしているんだ。それから、音楽も作る。

つまり、映画以外のこともするけど、でも、僕の映画への愛はあまりに深い。

映画は、すべてのアートを内包するからね。書かなくちゃいけないし、演出があり、ビジュアル的な要素も要求されるし、写真や、デザインも必要だ。構成や、音楽、動き、リズム、時間など、映画を作る上ではあらゆる要素が必要となる。

もちろん抽象的な映画だって作れるから、必ずしも物語が必要ではないけれども、必要な要素がたくさんある。それが僕にとっては、あまりに美しく思えて、だから映画が大好きで仕方がない。

それに、他の人達とコラボして、一緒に何かを作るのが大好きなんだよね。それがインスピレーションになる。

映画を撮るって、みんなで1つの船に乗っているようなもので、船が予定の場所にしっかりと到着できるようにみんなで必死になる。その体験から得るものって、強烈で感動的なんだ。

そうした映画作りにおける美しさが、僕の心の深い場所にある。

だから、僕が映画を作らなくなるとするならば、それは制作資金が集められなくて、映画作りが僕の健康を害するレベルになってしまったから、みたいな日がくるのは想像できる。

それでも僕が映画への愛を失うことは絶対にない。映画ってあまりに美しいものだからね。

僕は映画を観るのも大好きだし、それは僕にとってはドラッグみたいなものだ(笑)。とりわけこれまで観たことがない映画か、これまでに観て大好きな映画はね。

そこには何か本当に美しいものがある。本当に映画が大好きなんだ」

(取材・文:中村明美/編集:毛谷村真木)