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2020年07月07日 16時08分 JST | 更新 2020年07月08日 12時11分 JST

韓国で22歳女子アスリートが自死 パワハラ・暴力で元監督ら3人を処分

母親に「お母さん、愛している。あの人たちの罪を明らかにして」というメッセージを送信したのを最後に、チェ選手はこの世を去った。

YTN公式YouTubeより
チェ・スクヒョン選手

韓国の女子トライアスロン元代表、チェ・スクヒョン選手が自死した。加害者と名指しされた3人は否定したが、同僚たちが3人の横暴な振る舞いを次々と暴露。国会でも議論され、パワハラの加害者に罰を与えるようにとの訴えが相次いだ。7月6日、大韓体育会は3人を懲戒処分にすると発表した。

「人権センター」や警察、市庁にも訴えていた

YTNによると、チェ選手は6月26日、母親に「お母さん、愛している。あの人たちの罪を明らかにして」というメッセージを送信したのを最後に、この世を去った。「あの人たち」とは、チェ選手が以前、所属していた慶州市庁トライアスロンチームの関係者達のことだ。

YTN公式YouTubeより
母親に残した最後のメッセージ

 YTNが放送したチェ選手が録音したとされる音源には、「3日間何も食うな」という暴言や「歯を食いしばれ」と言った後、平手打ちする音もそのまま残されていた。チェ選手の練習日誌には「雨の日にはひどく叩かれ、(関係者たちが)望む体重にまで落としたのに怒られた。車にひかれようが強盗に刺されようが、死んだ方がましだ」という内容が書いてあった。

チェ選手は生前、こうした残酷な行為を理由に、大韓体育会スポーツ人権センターに対して、前所属チーム関係者たちを調査するよう申告していた。しかし、チェ選手が亡くなるまでにこの訴えが実を結ぶことはなかったようだ。

7月1日、平昌オリンピックボブスレー元代表で代表監督出身でもある未来統合党イ・ヨン議員が記者会見を開いた。イ議員は、チェ選手が同センターに暴行と暴言に対する申告をし調査を促したが、何も行われなかったと訴えた。大韓体育会と大韓鉄人3種競技(トライアスロン)協会も、陳情書を受け取ったにもかかわらず、何も事後処置を行わなかったという。

このイ議員は、「慶北体育会はむしろ選手の父親に示談を促して事件を終えようとし、慶州市庁は父親が提起した請願に『そのまま告訴しろ』と脅した」とし、「慶州警察署は誠意なく調査し検察に丸投げした。誰ひとり進んで正そうとせずに隠蔽した」指摘した。

イ議員はまた、「徹底した捜査と加害者たちの厳重処罰を要求する。同じ体育人として耐えるに苦しい怒りを感じる」とし、大韓体育会をはじめとする関係機関に対しても真相究明のための調査をする」と強調した。

この事件が明るみに出た後、青瓦台国民請願掲示板には、チェ選手について言及した国民請願が二つ掲示された。全てチェ選手の知人が作成したもので、この請願によると、チェ選手が受けた行為としては、▲慶州市庁チームでの食事の場で炭酸飲料水を頼んだという理由で20万ウォン分のパンを強制的に食べさせた▲桃を一つ食べたことを報告せず頬を20発叩かれた▲体重調節に失敗すると、3日間食事を禁じた▲スリッパで頬を叩かれたーーなどが含まれている。

一方大韓体育会は、4月8日のチェ選手の申し立てを受けて調査員を任命していたと発表し、「何もしなかった」という批判について反論している。

 

監督と選手2人は否認

慶州市体育会は7月2日、チェ選手が生前に暴行を受けたと名前を挙げたキム・ギュボム慶州市庁トライアスロンの監督と選手2人を呼び、人事委員会を開いた。

関係者は韓国経済TVなどに「当初は裁判後に人事委員会を開く計画だったが、事案が大きく浮上し、今日開くことにした」と語った。監督に関しては、事案が品位を傷つけたという処分理由に該当するため、職務からの排除の案を検討していると付け加えた。

この慶州市体育会が急遽開催した人事委員会では、誰1人として自分の過ちを認めなかった。「残酷な行為は認めるのか」という取材陣の質問に対して、暴行の事実を全面否認した。

MBCによると、ヨ・ジュンギ慶州市体育会長は、人事委員会の終了後「選手に対する懲戒はない」とし「(今日呼んだ彼ら)陳述を聞いた結果、(チェ選手の主張と)あまりにも相反していて、そんなこと(暴行事実)はなかった」と述べた。

続けて会長は、キム監督についても「(暴行の事実は)確認できなかった。選手たちの証言を聞くと、誰よりも(チェ選手に)愛着を持っていた」とし、監督が他のどんな選手よりもチェ選手を大事にしていたという趣旨の発言をした。

この日呼ばれた3人は、選手団の所属ではなく、人事委員会の聴問対象から外されたチームドクターが全ての暴行をしていたと主張したという。

ヨ会長は「(チームドクターが)殴打するのをキム監督が止めたことを把握している」とし「(チームドクター)図体がかなり大きいという。力も強く…キム監督が止めようとしてもできず、選手たちが加わって止めた」と釈明。

しかし、チェ選手の記録と同僚たちによる追加の暴露は、この人事委員会とは全く違う事実を指摘している。

 

同僚選手がラジオで告白した

MBCラジオ「キム・ジョンベの視線集中」YouTubeより
MBCラジオ「キム・ジョンベの視線集中」

 7月3日、MBCラジオ「キム・ジョンべの視線集中」の匿名インタビューで、チェ選手から「加害者の罪を明かして」という内容のメッセージを受け取ったというある同僚の選手が匿名のインタビューに答えた。

この同僚は、チェ選手が勇気を出して、問題提起をする過程について述べた。

「状況がどれだけよくなかったのか」という質問に、この同僚選手は「加害者たちの報復がこわくて何も声を出せなかった」と答えた。「続けて(暴行)されて、あの人たちの存在が怖かった」と述べた。そして、それにもかかわらず「苦痛よりも悔しさが先立った」ため、両親と話し合った結果、勇気を出して問題提起したと伝えた。

この選手は、チェ選手が警察の調査を受けた後、つらい日々を過ごし大きく失望していたとも話した。

「警察で陳述する過程で、スクヒョンが提起した問題が、何事もないような扱いを続けて受けたと言っていました。むしろ、自分が罪人になったような思いをし、つらかったと言っていた。『運動選手なら、十分にそういうことがありえるのではないか』と、(警察官は)こんな感じだったと。」

スポーツ人権センターの調査についても、「スクヒョンは助けを受けられずこの世を去った」とした。「信頼できるイメージがあったし、他の選手も同じだっただろうに(こんなことが起きてしまった)」と述べた。

インタビューに答えた同僚の選手は最後に、スポーツ界の中に「先輩と後輩、監督と選手間で愛のムチという名の元に、暴力を合理化させる文化」があることが、基本的に1番の問題だと指摘し、「選手たちも幼い時からこんな文化に自然に溶け込んでいるため、変えることは難しい。けれど、選手たちは今回のことをきっかけに多くのことを感じなければならない」と述べた。

 

監督と選手は国会でも暴言・暴行疑惑を否定

7月6日、韓国国会の文化体育観光委員会で緊急懸案質疑が開かれた。

これに、チェ選手が訴えた3人、キム・ギュボム監督とチャン・ユンジョン、キム・ドファン選手が参席した。

参席した3人は皆、チェ選手に対する暴言と暴行の疑惑を全面否認した。

キム・ギュボム監督は「(チェ・スクヒョン選手は)幼い時からよく知っていたし、私が指導した1人の弟子」とし、「こんな状況が発生し、あまりにも衝撃的で心が痛い。警察の調査を誠実に受ける」と述べた。

そして「監督として管理監督、選手への暴行が起きた部分を知らなかった自分の過ちを認め、謝罪いたします」とも付け加えた。

チームの主将であるチャン・ユンジョン選手も「暴行したことない」とし全ての疑惑を否認した。続けて「チェ選手に謝罪する気持ちはあるのか」という質問には「一緒に過ごした時間があり心が痛いですが、まず調査に誠実に取り組む」とだけ答えた。

また同僚のキム・ドファン選手は「暴言、暴行した事実がないため謝罪することもそんな考えもなく、申し訳ない気持ちはなく、残念な気持ちだけ」と述べた。

 

他の同僚選手がさらに記者会見

一方、この発言を受けて、チェ選手の同僚たちは全く異なる証言をした。チェ選手の同僚たちは6日、国会疎通館で記者会見を開き、「慶州市トライアスロンチームは、監督と特定選手だけの王国だった」と暴露した。

彼らが指した特定選手とは、主将であるチャン・ユンジョン選手だ。チェ選手の同僚は、記者会見を通じて、「残酷な行為は監督だけが行ったのではない」とし、チャン・ユンジョン選手が同僚たちに行った残酷な行為を公開した。

記者会見での同僚たちの発言によると、チャン選手はチェ選手を「精神病者」と呼び、他の選手と親しく過ごせないようにしていたという。

加えて同僚たちは、チェ選手以外にも被害者がいると訴えた。

チャン選手は訓練中、失敗をした選手の頭を水筒で叩き、高所恐怖症がある選手の胸ぐらをつかんで屋上に連れていき、「遅れをとるなら一人で死ね」という暴言を吐いたという。

また、チャン選手は他の選手に命じて風邪で練習ができない選手を棒で叩かせ、けがを負わせたこともあったという。

同日、大韓体育会は加害者とされた3人について、トライアスロン協会を通じて懲戒処分とし、スポーツ界に関わることを禁止すると発表。スポーツ界の暴力廃絶を目指すとしている。


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