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2020年07月24日 09時54分 JST

「香港人は移住しないで」日本の“冷たい反応”にも香港人はめげない。当事者が今、日本に一番伝えたいこと

私たち日本人は、香港からの「お返し」をきちんと受け取れているのだろうか?

「国家安全維持法がある今、今後の生活はより苦しくなると予想されるので...」

イギリスへの移住を考える20代香港人女性だ。6月末、香港で中国政府への転覆行為などを禁止する国家安全法が施行されてから、真剣に「移住」を考える香港人も出てきた。

イギリスや台湾などはその受け皿として積極的だが、日本ではまだ具体的な動きはない。そこで、日本で暮らす香港人たちが記者会見を開き、日本政府にも移住先としての対応を求めた。

だが、SNSに寄せられたのは「なぜ税金で面倒を見るのか」などといった冷たい声たちだ。

こうした反応を、当事者はどう見ているのか。

香港と日本のダブルで、香港で生まれ育ったフリーライター・伯川星矢さんは、こうした現状を受け止めつつ「現実的な移住」のあり方を探っている。

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伯川星矢さん

■「共産党が紛れ込む」

「ある意味八方塞がりで...どうすれば法に引っかからず自分たちの不満を政府にぶつけられるか、模索している段階です」伯川さんは、香港民主派が置かれている現状をそう表現する。

国家安全法は中国政府への分裂や転覆行為などを禁じる。施行後まもなく逮捕者が出たほか、民主派の予備選に行政長官自らが法律を盾に警告を発するなど、その活用ぶりは徹底されている。

こうした状況に、日本を移住先の選択肢の一つとして確保するために動いたのが在日香港人団体「香港の夜明け」だった。記者会見を開き、日本への移住要件の緩和を訴えたのだ。

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「香港の夜明け」の会見(7月1日/衆議院議員会館)

だが、全体として香港人に同情的だった日本のSNSの反応は分かれた。日本政府に前向きな対応を求める声が上がった一方で、反対する投稿も相次いだのだ。

「なぜ私たちの税金で面倒を見るのか」「共産党と繋がっている人間が紛れ込む」「すでに日本で暮らす大陸出身の中国人と衝突する」...などが反対する人たちの意見だ。

■「逮捕歴」残っていても

「正直、コメントはごもっともなんです。確かに可能性は十分にあります」と伯川さんは話す。一方で、移住を求める香港人への誤解もあるという。

最初に挙げたのは、香港人にとって移住は前向きな選択肢では決してない、という点だ。

例えば20代の香港人女性。書面で今の考えを聞いたところ、「理想は香港が早くよくなって、移住なんて考えなくてよくなるような社会です」と打ち明ける。

「以前は、香港はヨーロッパ進出のワンステップという見方もありました。中国から香港に逃れてきて、そこからイギリスやオーストラリア、アメリカなどへ行く人も多かった。ただ、今は香港を、家、故郷、帰る場所と考える意識が強い」と伯川さん。

それでも、移住を考えざるを得なくなるケースもある。伯川さんは「移住を求める香港人を“無条件に”認めて欲しいということではありません」と強調する。

「無制限に、見境いなく、香港人に何かしてくださいというわけではありません。香港人も他国にお願いしている立場。もちろん身の潔白の証明はしなきゃいけません」

一方でこの“潔白”が難しい場合もある。移住を考える人には、去年の香港デモで最前線に立っていたケースも多いという。中国側の発表では逮捕者は約8000人。こうした人たちにも「逮捕歴」は残る。

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警官に取り押さえられる香港のデモ参加者(2019年12月)

「デモに行っただけとか、デモに居合わせただけで逮捕された人も、犯罪歴は一生残るわけなんです。移住の審査の際、デモが要因で逮捕された、という犯罪歴は考慮してもらえないかというのは...お願いですね」と伯川さんは訴える。

経済面への疑問はどうか。日本にやってきた香港人を税金を元手に保護する場合、国民の理解をどこまで得られるかという問題がある。

「数百万人の香港人がやってきて生活保護を受けるという話は一切ありません。私個人としては、ビジネス関連のビザの取得条件を緩和して欲しいと思っています。まずは日本に来られる道を作って、働いてみる。税金や年金を納めながら暮らして、日本社会に適応できるなら永住申請をする...イギリスとほぼ同じような方式なら、お互いに良いのではないでしょうか」

むしろ、積極的な受け入れが経済の活性化にもつながる可能性を指摘する。

「香港人は多くが広東語・中国語・英語を話しますし、日本語を喋る人もかなりいます。金融やITに強い人材も多い。香港の金融センターとしての地位が安全法の影響で脅かされるとの話がありますが、香港人を受け入れて金融都市を狙うこともできるのではないか、と思います」

■都知事選で見た光景は...

移住に向けた議論が日本でも始まって欲しい。それ以外にも、伯川さんや在日香港人たちが日本にずっと訴えてきたメッセージがある。

それは、民主化を求める戦いに「注目し続けて欲しい」ということだ。

このメッセージは、去年の香港デモの際も参加者が掲げてきた。香港の戦いぶりを見て、日本人が当たり前に享受している民主主義のありがたみを感じて欲しい...日本語で綴られたものもあった

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逃亡犯条例改正案反対デモの際にSNSで拡散した日本語のメッセージの一例(2019年)

しかし国家安全法はそれすらも難しくしている。第38条には「外国人が、海外(香港外)で行った行為にも安全法を適用する」とある。日本人が日本で香港民主派を応援した場合にも、100%適用されないとは言い切れない。

「他国の法律を全く尊重しない行為。本当に逮捕されるかはさておき、萎縮させる効果は一定程度あるでしょう」と伯川さんはみる。

この“縛り”があるなか、日本人にできることは何が残されているのだろうか。「香港に支援金を送ってください、とかではないですよ」と伯川さんは笑う。表情を引き締め、ゆっくり語り出した。

まずは知ろうと思ってください。するとメディアが報道する。報道されると、より多くの人が知って、やがて政府も対応せざるを得なくなる。それが民主主義だと思います。まずは香港を知る。そこで何かしらの思いが生まれれば、第一歩は成功だと思うんです」

伯川さんは、最近日本で民主主義を象徴するような光景を見た。東京都知事選だ。

「小池さんがいて、山本太郎さんや宇都宮さんがいて...なかには独特な主張をなさる方もいて...“これが民主主義”と思ったんです」

EPA=時事
東京都知事選で掲示された候補者のポスター

その都知事選も投票率は55%。前回選挙よりも約4.7ポイント低下した。

香港のためにできること。そのセカンドステップは、香港の今を自身の環境に置き換えることだという。

「民主主義の大切さや一票の重さ。香港人は自分の身体を、未来を使ってそれを表しているんです。それが香港人が日本や諸外国にできるお返しの一つなんです。今の日本にはその制度がある。あるならば使って欲しい...それは香港人が切実に思っていることです。日本人が持っている一票は、香港人が命を捧げて守っているもの。もし無駄にするならば“香港を見て何も学べなかったの?”ということだと思います」

「このままでは終わらせたくない。一度でいいから香港を勝たせたい」と伯川さん。今後は日本を中心に、海外の政府に香港民主派への支援を訴えかけていくことにしている。

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伯川星矢さん