結愛さんへの虐待「あまりにも衝撃的でした」と母親。ショックによる記憶喪失状態だったと弁護側が主張【目黒虐待死事件】

元夫は、裸の結愛さんを3時間浴槽の中に閉じ込めて放置。優里被告はその姿を目撃したものの、ショックで思い出せなくなっていたと弁護側は主張し、減刑を求めている。
東京高等裁判所などが入る東京高等・地方・簡易裁判所庁舎
東京高等裁判所などが入る東京高等・地方・簡易裁判所庁舎
時事通信社

東京都目黒区で2018年3月、5歳だった船戸結愛さんが虐待を受けて亡くなった事件で、保護責任者遺棄致死罪で起訴された母親の優里被告の控訴審初公判が7月21日、東京高等裁判所(若園敦雄裁判長)であった。

弁護側は優里被告が結愛さんが元夫の雄大受刑者(保護責任者遺棄致死などで懲役13年の判決が確定・事件後に離婚)により浴槽に閉じ込められていたのを目撃し、急性ストレスによる解離性健忘(記憶喪失)状態に陥っていたと初めて主張。そうした精神状態も考慮した上で量刑を判断すべきだと訴えた。

検察側は控訴の棄却を求めた。

一審では懲役8年の判決

一審の東京地裁で優里被告は、雄大受刑者、そして結愛さんの弟とともに暮らしていた2018年1月ごろから、雄大受刑者とともに、結愛さんに対し必要な食事を与えず、雄大受刑者による虐待を結果的に容認、衰弱後も医師にみせず、3月2日に敗血症で死なせたとして、懲役8年の実刑判決を言い渡された

弁護側は優里被告も雄大受刑者によるDVの被害者であり、精神的に支配されていたなどと訴えていた

東京地裁は判決で、一定の心理的影響はあったものの、弁護側が主張するほどその影響は強固なものではなく「最終的には、自らの意思に基づき、雄大被告(当時)の指示を受け入れた上で、これに従っていた」と判断。一方で、雄大受刑者に隠れて食事を与えたり、早起きの課題をごまかすなど結愛さんの苦痛を和らげるための努力は行っており、「全く放置したわけではない」ため、「極めて強い非難が妥当する事案とまではいえない」としていた。

肩を震わせ、声をつまらせながら

この日法廷に現れた優里被告は灰色のスウェット姿。肩の少し上で切りそろえられたストレートの黒髪にマスクをしていた。裁判官に促されて証言台の前に置かれた椅子に座り、弁護人からの質問に答えた。

初めは小さいながらもはっきりとした声で答えていたが、一審の判決を受けた後の変化について質問されると、10秒ほど沈黙した後、少しずつ息が荒くなった。「はぁ、はぁ」と肩を上下し、過呼吸のような状態に。しばらくそうした状態が続いたが、弁護人に「大丈夫です」と伝え、その後も時おり肩を震わせたり、声をつまらせたりしながら話した。

弁護側は、結愛さんが亡くなる6日前の2月24日、雄大受刑者が裸の結愛さんを浴槽に閉じ込めておよそ3時間放置し、その姿を目撃した優里被告がショックにより解離性健忘(記憶喪失)状態になったと主張。優里被告はこのことについて、2019年8月末、雄大受刑者とのLINEのやりとりを見て思い出したという。優里被告は「あまりにも衝撃的でした。混乱していました」とし、すぐには弁護人に言わず、10月末に伝えた。そのため9月に行われた一審では主張できなかったという。

結愛さんが浴槽の中に放置されたことについては「信じられないと思ったし、自分にもすごく腹が立ちました。悔しかったです」と述べた。今も浴槽に入ることはできず、シャワーから冷たい水が流れてきたり、空腹を感じたりすると恐怖を感じるという。

弁護側「極めて従属的だった」

また、出版した手記について、印税全額のおよそ150万円を児童虐待防止や子育て支援に取り組む団体に寄付したことも明かした。

最後に優里被告は、「結愛を…死なせてしまったことを悔しいっていくら叫んでも、結愛の大好きだったお菓子作りとかもう一緒にできないから……これから結愛の命を無駄にしないように、自分にしかできない活動をしていきたいです」と、声をつまらせながら述べた。

弁護側は、「心神耗弱だった可能性がある。記憶喪失に至るほどの状態だった」「(優里被告は雄大受刑者に対して)極めて従属的だった」とし、減刑を求めた。

控訴審の判決は9月8日に言い渡される。

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