新型コロナ、文化芸術支援に「500億円」の予算が計上されるまで。映画界で起きた連帯の動きを振り返る

署名活動「SAVE the CINEMA」や、3億円以上の支援が集まった「ミニシアターエイド基金」。発起人らは関係省庁や政治家との意見交換にも尽力しました。活動の軌跡を振り返ります。
SAVE the CINEMA(左上)、ミニシアターエイド基金(右上)、「#WeNeedCulture」のメインビジュアル(下)
SAVE the CINEMA(左上)、ミニシアターエイド基金(右上)、「#WeNeedCulture」のメインビジュアル(下)
HuffPost Japan

新型コロナウイルスの感染拡大により、大きな打撃を受けている映画産業。窮地に追い込まれたミニシアターを救うため、映画監督や関係者らが立ち上げた署名活動やクラウドファンディングには、多くの支援が集まった。

発起人らは、関係省庁や政治家との意見交換・交渉にも尽力し、第2次補正予算案では、文化芸術への支援に約500億円の予算が計上された。

7月18日に東京都内で開かれた報告会の内容を元に、その成果と活動を振り返る。

署名は約9万筆、ミニシアターエイド基金には3億円以上の支援

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は2月26日からスポーツや文化イベントの自粛を要請。3月25日には、東京都が外出自粛を要請し、関東エリアの多くの映画館が営業休止を決定した。

特に大きなダメージを受けたのが、「ミニシアター」と呼ばれる小規模映画館だ。

東京・渋谷区にあるミニシアター「ユーロスペース」。4月から約2カ月間、休館した。
東京・渋谷区にあるミニシアター「ユーロスペース」。4月から約2カ月間、休館した。
時事通信社

全国のミニシアターが加盟する一般社団法人「コミュニティシネマセンター」によると、2019年は、日本国内で1300本もの映画作品が劇場公開された。そのうちの約550本がミニシアターのみで上映されたという。

コミュニティシネマセンターで事務局長を務める岩崎ゆう子さんは、「日本は世界的に見ても多様な映画が上映される国。その映画の多様性をミニシアターが確保してきたと言えます」と話す。

コミュニティシネマセンター事務局長の岩崎ゆう子さん
コミュニティシネマセンター事務局長の岩崎ゆう子さん
HuffPost Japan

しかし、休館によって収入が激減し、多くのミニシアターは苦境に立たされた。そうした状況を受け、映画関係者らは4月から署名活動とクラウドファンディングを開始。ネット上で支援を募った。

SAVE the CINEMAは、諏訪敦彦監督や西原孝至監督らが呼びかけ人となり、ミニシアターへの補償や支援を求めるオンライン署名プロジェクトだ。発足から約1週間で6万筆以上が集まり、政府に要望書を提出。キャンペーン終了時には9万筆以上の署名が集まった。

深田晃司監督と濱口竜介監督らは、「MotionGallery」でクラウドファンディングミニシアターエイド基金を立ち上げた。発足時の目標は1億円だったが、支援が広がり、終了時には約3万人から3億3000万円を超える支援金が集まった。集まった支援は118劇場103団体に分配されるという。

「想定外の広がりだった」と、深田監督は語る。

「支援のリターンとしてステイホームで見られる作品は、関係者が個々のコネクションを駆使して集めていった。幸いにも多くの人がミニシアターを支援したいという志を共有してくれて、200本以上の作品が集まり、嬉しい悲鳴でした」

映画監督の深田晃司さん
映画監督の深田晃司さん
HuffPost Japan

音楽、演劇界とも連帯。文化庁が約500億円の予算計上

一連の活動では、業界の垣根を超えた「連帯」もあった。

5月には、演劇・音楽・映画業界の有志が手を取り合い、国に公的支援を求めるプロジェクト#WeNeedCultureを実施。文化庁や文科省、経産省などの省庁に対し、「文化芸術復興基金」の設立を求める要望書を提出した。

こうした地道かつ継続的な活動が実を結び、6月に成立した2020年度の第2次補正予算では、文化庁の「文化芸術活動への緊急総合支援パッケージ」に約560億円が計上された

そのうち506億円の予算が、「文化芸術活動の継続支援」として、小規模の文化芸術団体やフリーランスを対象にした支援事業に充てられる。文化庁は7月から申請の受付を開始。8月8日から、第二次の募集が始まる

岩崎さんは、「(支援の対象に)ミニシアターとライブハウスという記述があることは、大きな活動の成果だった」と振り返る。

一方で、「これは緊急的な支援で、長期的にミニシアターを支援するシステムが実現したわけではない」とも指摘。

「海外のミニシアターのほとんどは公的な支援を受けている。このようなシステムを実現することも目指していきたいが、今現在コロナ禍の中で、映画館に行くことをためらわざるを得ない状況が続いている。その中で、映画館や映画を上映することの大切さをどうやって伝え、支援をしていくべきか考えていきたい」と語った。

営業再開後、感染症対策のため、映画の上映終了後に座席の手すりを消毒する映画館の従業員(6月1日)
営業再開後、感染症対策のため、映画の上映終了後に座席の手すりを消毒する映画館の従業員(6月1日)
時事通信社

映画界で起きた新型コロナ支援の動き

2月26日 政府が大規模なスポーツ・文化イベントの延期や中止、縮小を要請

3月25日 東京都が週末の外出自粛を要請(その後、都内や関東エリアの映画館が週末営業休止を決定)

3月28日 安倍首相が記者会見で、文化芸術、スポーツ関連事業者への救済措置について発言。「損失を補填する形で税金で補償するのはなかなか難しい。そうではない補償がないかということを今考えているところでございます」と述べた。

4月6日 署名サイトChange.orgで#SaveTheCinema」プロジェクトを開始

4月7日 緊急事態宣言を発令(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡が対象)

4月13日 ミニシアターエイド基金」開始

4月15日 「#SavetheCinema」が、内閣官房・厚生労働省・経済産業省・文化庁に6万筆以上の署名と要望書を提出

4月16日 緊急事態宣言の対象が全国に拡大される

5月15日 「ミニシアター・エイド基金」終了。3億3000万円以上の支援が集まる

5月21日〜22日 演劇・音楽・映画業界の有志による合同プロジェクト#WeNeedCulture」でキャンペーンを展開。文化芸術の復興・継続のための公的支援を求め、「文化芸術復興基金」を設立するよう呼びかけた。

6月12日 第二次補正予算が成立。文化芸術支援として約560億円が計上された。

7月10日〜31日 文化庁が文化芸術活動の継続支援事業」の第一次申請受付を開始。映画、音楽、美術、演劇などの小規模団体やフリーランスを対象に給付金を支給する内容。

8月8日〜28日 「継続支援事業」第二次の申請受付予定

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