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2020年09月04日 06時45分 JST | 更新 2020年09月04日 16時10分 JST

「私にはゲイの友だちもいるし、偏見はないよ」の問題点は? 当事者たちと話し合ってみた

一見ポジティブに聞こえることが、実はセクシュアルマイノリティの人に対する差別や偏見につながりかねない――。その理由を改めて考えました。

Illustrator Yoshimitsu Nippashi
「ハフライブ」では、LGBTQにまつわる勘違いや“知ったかぶり”になりかねない事例をイラストを使っていくつか紹介した。この図は「LGBTQの友だちがいるから理解している」と思う人のイメージ

「私にはLGBTQの友だちもいるし、普通に接しているし、差別や偏見はありません」

こうした言葉を、見たり聞いたりしたことがあるでしょうか。

実は、「友だちがいるから差別や偏見はない」というのは、黒人差別に関する議論の中で“I have black friends論法”などとも呼ばれ、典型的な“言い訳”として知られています。

LGBTQなどセクシュアルマイノリティについて、言葉やその存在についての認知はあがってきています。しかし、日常生活を見渡してみると、オフィスでも、学校でも、SNSでも、まだまだ知識不足によって偏見を是正できていない場面は多くあるのではないでしょうか。

「友だちがいるから理解がある」の、どんな点に注意が必要なのか。どうすべきなのか。

「ダイバーシティと“知ったかぶり”」というテーマでお届けした8月25日の「ハフライブ」で話し合いました。

「私にもゲイの友だちがいるよ」うれしいけれど…

Kazuhiro Matsubara / HuffPost Japan
8月25日に配信した「ハフライブ」にゲスト出演した、一般社団法人「fair」代表理事の松岡宗嗣さん

番組には、ダイバーシティ経営に積極的に取り組むアクサ生命CEOの安渕聖司さんと、ゲイであることを公表しながらLGBTQに関する情報発信を続ける一般社団法人「fair」代表理事の松岡宗嗣さんがゲスト出演しました。

松岡さんは番組で、自身がゲイであることをカミングアウトしたときの事例を挙げて説明しました。

「カミングアウトしたら、“私にもゲイの友だちがいるよ”と言ってくれる人は多いです」といい、「もちろん、“友だちがいるよ”ということをシェアして頂けることは個人的にはうれしくて、きっとこの人はポジティブに捉えてくれているんだなと思って、私はとても好印象です」と語ります。

一方で、「友だちがいるから“LGBTQのことを理解しているよ”と言い切ることには注意が必要ではないでしょうか」と指摘します。

「LGBTQと言っても、ひとりひとり性のあり方も違えば、経験も違う。友だちがいるからといって、(全員のことを)理解しているわけではありません」と説明しました。

松岡さんは、LGBT法連合会事務局長の神谷悠一さんとの共著本『LGBTとハラスメント』の中でも、「セクシュアルマイノリティの友人がいようといまいと、あなたの性のあり方を尊重しているという意思を伝えてもらえる方が相手は安心できるのではないかと思います」と述べています。

「友だちがいるから…。それが何?」

Kazuhiro Matsubara / HuffPost Japan
8月25日に配信した「ハフライブ」にゲスト出演した、アクサ生命CEOの安渕聖司さん

「私も最初は、“友だちがいる”ということはポジティブなことだと思っていたんです。ところがあるとき、ふと気がついたのは、いわゆる“so what?(それが何?)”ということです」

こう率直に話したのは、安渕さんです。

LGBTQやダイバーシティに関する発信に対して、Twitterなどで当事者からリプライをもらい、考えたり勉強したりすることも多いという安渕さん。

“友だちがいるから理解がある”論について、「友だちがいるから、“じゃあ理解を深めようとしているのか?”、“何か手伝おうとしているのか?”。“何かアクションを起こしていますか?”と質問をされているように感じたんです」と振り返ります。

「友だちがいること自体は、事実としてはいい。ですが、それは何の言い訳にもならないし、それが(LGBTQの全員を)理解していることにも当然ならない」といい、「なるべくたくさんの多様な人に話を聞くこと、絶対的な正解を求めず学び続けることが大事ではないか」と語りました。

思考停止せず、学び、行動し続ける。 

Kazuhiro Matsubara / HuffPost Japan
8月25日に配信したハフライブ「ダイバーシティと“知ったかぶり”」

「LGBTQの友だちがいるから理解がある」と思うことの問題点は、「一人一人のLGBTQが抱える多様な困難や、被っている差別や偏見への理解を妨げてしまう」点にあるといえるでしょう。

また、差別的な言動を指摘された際に、「私には当事者の友だちもいるからわかるけど、これは差別ではない」と友人がいることを言い訳に使ってしまうという問題も指摘されています。

さらに「理解している」という思い込みや、「私は全然気にしないから差別しないよ」と言い切ることは、自分を思考停止状態にしてしまう危険性もあります。

『LGBTとハラスメント』のもう一人の著者である神谷さんは、本の中で以下のように指摘しています。

《現在の日本社会の職場には、大なり小なり、セクシュアルマイノリティに関するさまざまな困難が転がっています。採用拒否から始まって、いじめやハラスメント、異動や退職勧奨、男女別取り扱いによる困難などの課題を挙げることができます。

(中略)このような状況下にもかかわらず、「何も気にしないから、何もしない」ということをあえて言われてしまうと、自分は状況を変えるつもりはない、困難は困難のまま抱えていてくれ、というメッセージにも受け取れてしまうのです。》 

“LGBTQの友だちがいるから理解している”“私は気にしないから差別しない”は、一見親切に聞こえるし、本人も本当に「良かれと思って」という部分も大きいかもしれません。

しかし、LGBTQと一括でくくられた中にある、多様な個々人の事情や価値観を見えづらくしてしまう危険性がある。そして「自分は気にしないから、何もしなくていい=社会は変わらなくてもいい」という態度表明になってしまう可能性がある言い回しなのです。

一気にガラリと考え方や意識を変えるのは難しい。しかし一つずつ行動することならできるのではないか。番組の最後で、安渕さん、松岡さんはともに「行動の大事さ」を強調しました。

「意識というのは、どこまで変わっているのか見えづらい。でも行動はわかる。例えば、飲み会で不適切な発言があったら『それはダメだよ』と声に出す。一つずつ行動を変えることで、みんなが過ごしやすい職場をつくることが大事ではないかと考えています」(安渕さん)

「制度などができると一人一人の行動が変わる、そして行動する人が増えることで、周りの人も『なぜダメなのか』『どうすべきなのか』と考えるようになる。そうやって徐々に考え方も変化していくのではないでしょうか」(松岡さん)