「女性には"能力"がつきまとう」 菅政権の“女性活躍”、稲田朋美氏と野田聖子氏で違い鮮明に

自民党の野田聖子氏と稲田朋美氏が、「女性議員の活躍」をテーマに日本外国特派員協会で相次いで講演。女性総理が誕生すると何が変わるのか、どうすれば女性議員が増えるのか、それぞれの提案とは?
稲田朋美氏(左)と野田聖子氏(右)
稲田朋美氏(左)と野田聖子氏(右)
時事通信社/Yuka Takeshita

自民党の野田聖子幹事長代行と稲田朋美元防衛相が9月、「女性議員の活躍」をテーマに日本外国特派員協会で相次いで講演した。

共に総裁選に出馬の意欲を示しながら立候補には至らなかった2人が、菅政権の閣僚人事や女性議員の増やし方などについてそれぞれの見解を述べ、外国人記者の質問に答えた。

女性議員を増やすべきだという課題意識は一致したが、その方策や菅内閣の女性活躍に対する評価は立場の違いが鮮明に浮かんだ。2人の発言内容を詳報する。

女性閣僚2人、菅政権の人事は?

稲田氏:「残念」

稲田氏
9月23日にオンラインで会見した稲田氏は、菅政権の閣僚人事について不満を示した。

共同代表を務める「女性議員飛躍の会」は総裁選前に党の要職に女性を登用するよう求める要望書を提出していたといい、「結果、閣僚が女性2人ということを見ると、あまり響いていなかったんだなと残念に思います」と述べた。

野田氏:「能力主義の人事だ」

野田氏
一方、9月29日に会見した野田氏は、自身の幹事長代行就任について「菅総理は非常にフェミニストな人事をしてくれた」と感謝した。

「わたしが当選回数の浅い女性議員なら、まさに女性活躍のアイコンとして看板をはれたと思うが、残念ながら、わたしは当選回数が9回。菅さんよりも当選回数が一つ多い、先輩です。菅さんからすると、わたしをコントロールするのは不可能だと思う。そのわたしを重い職に就かせたのは、女性だからではなく、仕事ができる現実主義者としてパートナーに選んでいただいたのかなと思っています」

女性閣僚の数についても「数は少ないけれど、やはり男女を超えて人として能力主義の人事だ」として評価し、「安倍政権の女性活躍はスローガン的だったが、菅政権の女性活躍は極めて現実的に執り行われていくだろう」と述べた。

記念撮影に臨む菅義偉首相(前列中央)と新閣僚ら=9月16日、首相官邸
記念撮影に臨む菅義偉首相(前列中央)と新閣僚ら=9月16日、首相官邸
時事通信社

女性総理への考え

稲田氏:「女性も意欲を示すのが重要」

稲田氏
「日本でも女性が総理を目指す、それを見た少女たちが政治家を目指す、そんな自由で民主的で多様性に溢れた政治の風景を実現していきたい」

こう抱負を語ったのは、稲田氏。総裁選への出馬意欲を示した理由について「女性も意欲を示すのが重要だという思いで申し上げた」と語った。

ただ、稲田氏が所属する細田派からは候補を出さないことが決まっていたといい、「派閥が前面に出る総裁選で、(派閥を)飛び出し、次の選挙の公認やポストも捨てて臨むのは困難だと感じた」という。

「特に女性は、選挙基盤が強くない人、選挙区がない人も多い。そういう中で仲間(推薦人)を募るのは難しいと感じました」

野田氏:「日本の女性の過小評価を変えるきっかけに」

野田氏
「もし女性の総理が誕生したら、日本の社会はそれを受け入れるか?」

外国メディアの質問に対し、野田氏は女性リーダーの存在が与える影響について次のように指摘した。

「女性総理になれば、少なくとも日本の女性たち、どんな職業でも、または職業がないにせよ、内在的に抱えている自分自身による自分への過小評価を変えれるきっかけになるのではないか」

「当然、女性が総理大臣になれば、様々な形で自分のキャビネットメンバー(内閣のメンバー)には相当数、仲間たちを入れてくることなる。(女性が意思決定の場に存在することが)見えることで、女性たちも安心して自分たち持っている潜在的な力を発揮できるきっかけになるんじゃないかと大きく期待しているところです」

女性議員を増やす必要性…両氏は一致

政治の場における女性の少なさと、増やす必要性があることについて、野田氏と稲田氏の考えは一致した。

稲田氏
「日本はいまだに『政治は男がするもの』と言う意識が強く残っている。特に自民党が強いとされる地方では、その意識がとても強い」

野田氏
「私たち自身(自民党)の体質改善、党所属の女性議員を増やすことに本腰を入れていかないといけない」

日本外国特派員協会(FCCJ)でオンライン会見をした稲田朋美氏=2020年9月23日
日本外国特派員協会(FCCJ)でオンライン会見をした稲田朋美氏=2020年9月23日
FCCJ YouTubeより

女性議員を増やすには?

稲田氏「憲法改正と候補者クオータ制」

稲田氏
稲田氏は、国会議員の女性割合やジェンダーギャップ指数を紹介し、「諸外国はクオータ制やパリテ法を入れて強制的に女性議員が増える政策を取っているのに日本だけ何もやっていない」と指摘した。

「いまだに『能力さえあれば登用される』というところで思考が停止しています。クオータ制は逆差別だという意見が強くあります。しかし、このままではあと20年経っても何も変わらないでしょう」

稲田氏は2005年の郵政選挙で初当選した。郵政民営化に反対し、公認を外された議員の選挙区に「刺客」が送り込まれたこの選挙では、「小泉チルドレン」と呼ばれる新人女性議員が16人当選したが、現在も残っているのは7人のみ。稲田氏は、世襲でも地方議員でもない女性が党の公認を得て当選回数を重ねることは困難だとしたうえで、「すべて国民は、法の下に平等」とする憲法14条の改正を提案した。

「憲法 14 条を改正して、一般的な男女平等規定に実質的な平等を実現するための条項をプラスする。たとえば、14条2項として『国は男女の平等を促進し、男女の不平等の除去に努めなければならない』という規定を加える。これはドイツでも行っていますし、スイス、スゥーデン、ベルギー、フランスなど多くの国で行っています」

さらに、候補者の一定数を女性に割り当てるクオータ制の導入も提案。

「何よりも大切なことは、なぜ、女性議員を増やすのかをリーダーが語らなければなりません」

「安倍総理は『女性活躍』を重要政策と位置づけた最初の総理です。しかしそれは経済政策の中で語られました。経済政策としてだけではなく、日本の民主主義の歪みをなくすという観点からその重要性を語るべきだと思います」

FCCJで会見する野田聖子氏=2020年9月29日
FCCJで会見する野田聖子氏=2020年9月29日
Yuka Takeshita

野田氏「過疎地域の議会に女性を」

野田氏
自民党の女性候補者は「落下傘」や「刺客」として選挙区に送り込まれることが多く、一時的に当選しても地元の支持を固められず、当選を重ねることが難しいーー。

野田氏も稲田氏と同様に、地方に支持基盤を持つ自民党の体質や現在の選挙制度におけるジレンマを指摘する。

「政策議論の場で、女性の問題は常に後回しにされてきた長い歴史がある。それをぶち壊す。それが令和の社会構造改革だと思っている」

菅首相から託された自身の仕事として、女性の政治参加の促進を挙げた野田氏だが、解決策として提案したのは地方に軸足をおいた緩やかな変革だった。

「解決法は2つ考えていて、一つは、人口減少で過疎地域が大変増えていて、村議会の定数が相当際どくなっています。そうは言ってもそこに想定されるのはみんな男性議員なんですね。ですから全国津々浦々にある自民党の組織に対して、そういうものを察知したら、基本的にはしっかり女性を入れていくという方針のコンセンサス作りをすること」

「同時に、党本部においては、政治家を目指す女性たちが『自分たちは政治をやりたいなんて変わっている女だ』とか、孤立することを防ぐために、全国から女性を選抜して塾をはじめました。国会議員をはじめ、各級議員を目指す専門の塾です。その人たちを候補者のスタンバイとして、常にこういう女性候補者が自民党の中にいるということを全国に情報公開することで、地方とのギャップを生まない、地に足のついた女性候補、女性議員を作っていきたい。中長期的にはそう考えているところです

野田氏と稲田氏、立場分けた?「刺客」選挙の経験

稲田氏が抜本的な制度改革を訴えたのに対し、地方からの緩やかな変化を呼びかけた野田氏。背景には、ピンチを地方組織に支えられたという自負がある。

2005年の郵政選挙で、自民党公認の佐藤ゆかり氏との接戦に勝利し、安堵の表情を見せる野田聖子氏(左)=2005年9月11日、岐阜市
2005年の郵政選挙で、自民党公認の佐藤ゆかり氏との接戦に勝利し、安堵の表情を見せる野田聖子氏(左)=2005年9月11日、岐阜市
時事通信社

「小泉チルドレン」として2005年の郵政選挙で政治家生命を得た稲田氏とは対照的に、野田氏は郵政民営化に反対し、岐阜1区の公認を奪われた立場だった。

「刺客」として送られた佐藤ゆかり氏との選挙戦は当時、「女の戦い」と注目を浴びた。小泉純一郎首相(当時)も応援演説に訪れるなど、圧倒的な党の支援を受けた佐藤氏との激戦を野田氏が制したのは、地元後援会を中心とした地方組織の力に寄るところが大きかった。

会見中、野田氏は何度も「能力」という言葉を口にした。

「女性であれば大臣になれるということになると、不慣れなうちに重職を得て、失敗すると、また女性の(能力の)過小評価につながるーーというリスクを私たちは常に抱えています」

「“能力”という言葉を一人歩きさせて欲しくないな、と。男性議員が閣僚になった時に“能力”という言葉はあまり出てこない。女性は閣僚になったらなったで能力を問われるし、ならなかったらならなかったで『能力がないのに、わざわざ女性だからやることはない』と、女性にだけ“能力”という言葉が付き纏うんですね。そこが判然としない

地方では選挙基盤を持たない女性候補は受け入れられにくく、「ブームで一時的に国会議員になるけど、選挙区との融合が図れず脱落していく」。こう危機感を語った野田氏は、客観的な国会議員としての能力を当選回数だと指摘する。

わたしの仕事は、わたしの仲間である女性議員たちが常に当選できるような環境に作っていくこと

「少しずつ空く議席を女性に優先的に当てていくということをやっていくしかない。幹事長代行はそれなりの権力権限をいただいているので、しっかり自分の仕事として取り組みたい」

ハフライブ「なぜ45歳の女性首相は誕生しなかったのか?」
ハフライブ「なぜ45歳の女性首相は誕生しなかったのか?」
Maya Nakata

ハフポスト日本版は10月6日、生配信番組「ハフライブ」で、「なぜ45歳の女性首相は誕生しなかったのか?」をテーマに語り合います。

9月16日に国会で行われた首班指名選挙。45歳の寺田静参院議員が、同じ45歳の伊藤孝恵参院議員に1票を投じて話題になりましたが、菅義偉議員の142票(参院)に及ばず、女性首相は誕生しませんでした。

ハフライブでは、寺田議員と伊藤議員をお迎えし、1票を投じた思いや、1票を受けて感じたことについて直接聞きます。

また、日本の政治家に女性が少ないのは、(1)有権者が選んだ結果で仕方がないことなのか、 (2) そもそも増やす必要はあるのか、(3)女性首相が日本で生まれるまではあと何年かかるのか――についても話し合いたいと思います。

▶︎番組アーカイブはこちら

URL : https://twitter.com/i/broadcasts/1kvKpeRqWQLGE

2020年に幕を閉じた安倍政権の看板の一つは「女性活躍」だった。しかし現在の菅義偉新内閣20人のうち女性はわずか2人。これは国会の男女比そのままだ。2021年には、菅政権下で初めての衆院選挙が行われる見通しだ。候補者の人数を男女均等にする努力を政党に義務付ける「候補者男女均等法」制定から初めての総選挙。政治の現場のジェンダーギャップは、どうすれば埋めることができるのだろうか。

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