旧姓併記できる証明書まとめ 運転免許・パスポート・住民票 それぞれのやり方は?

結婚などで名字(苗字、氏)が変わった時、証明書に旧姓併記する方法をまとめました。ただし、煩雑な作業が必要となるケースもある上、「旧姓併記の書類を出したとしても、旧姓の使用が拒否される」ことも。

夫婦同姓が義務付けられている日本では、結婚の際に片方が名字(苗字、氏)を変えることとなり、変更に伴う多くの事務的作業をしたり、仕事の場面では不都合と直面したりすることもある。

選択的夫婦別姓が導入されていない日本では、そういった状況を緩和する方策として、現状では、公的証明書に旧姓を併記するのが一つの選択肢となる。

そこで、今どんな併記制度があるのか、整理してみた。

個別のケースで異なるが、作業としては、まずは戸籍謄本を手に入れることからスタートになりそうだ。

住民票、マイナンバーカード

2019年11月5日から、住民票とマイナンバーカードに旧姓(旧氏)併記ができるようになった

旧姓が記載された戸籍謄本、マイナンバーカード(持っている場合)などを準備し、住んでいる市区町村で手続きをする。個別の状況や自治体によって必要なものが異なることもあるので、事前に自治体窓口に相談しておくと、手続きがスムーズになりそうだ。

旧氏併記に関するリーフレットより
旧氏併記に関するリーフレットより
総務省

なお、一度登録すると、住民票の写しの交付の際に、旧氏と新氏の両方が必ず表示される。どちらかの氏のみを表示するという選択はできない。また、住民票に旧氏が併記されると、マイナンバーカード、公的個人認証サービスの署名用電子証明書、印鑑登録証明書にも旧氏が併記されるようになる。

一度記載した旧姓を削除することはできるが、再記載は再び氏の変更があった時に限るなど細かい条件もある。

運転免許証

運転免許証への旧姓併記
運転免許証への旧姓併記
警察庁公式サイトより

2019年12月1日から運転免許証にも旧姓併記ができるようになった。

警察庁の公式サイトによると、現在持っている運転免許証裏面の備考欄に「旧姓を使用したフルネーム」を加筆する方法と、新しい運転免許証を交付し、表面に旧姓も併記する方法の2種類がある。後者の場合は再交付となり、2250円がかかる。

手続きには、旧姓併記をした住民票か、旧姓が併記されたマイナンバーカードが必要になる。つまり、運転免許証に旧姓併記をしたい場合は、先に住民票の併記を済ませる必要がある。

変更に関する詳細は、お住まいの地域の運転免許センターや警察署で確認を。

パスポートは?

旧姓の記載されたパスポート(イメージ)
旧姓の記載されたパスポート(イメージ)
外務省公式サイトより

外務省によると、パスポートも旧姓併記は可能。

だが、戸籍謄本に加えて、外国における旧姓での活動や実績が確認できる書面や、雇用主からの「旧姓を使用し、かつ業務渡航の必要がある」ことを証明する書類などの提出が必要となる。必要な書類は個別のケースによるため、こちらも都道府県などの旅券事務所に出向く前に、事前に問い合わせをした方がよい。

併記を認められた場合、姓のところに(カッコ書き)で旧姓が加えられる。

ただし、外務省は、「括弧書きによる別名の併記は例外的な措置である」として、ビザ及び航空券を旧姓で取得することはできないほか、渡航先の出入国管理局などで「旅券に括弧書きで記載された別名の意味が理解されず、説明を求められる場合」があるとして注意を呼びかけている

朝日新聞によると、外国に入国する際に説明を求められたり、トラブルになったりするケースもあるとして、茂木敏充外相は2020年2月に表記のあり方の変更を実施する意向を示していた。

また、旧姓で仕事をしていることを示す証明書などの書面が必要なことについても「戸籍謄本などの確認のみで旧姓使用が可能になるように検討中」とも述べていた。

内閣府男女共同参画局が発表している「女性活躍加速のための重点方針2020」には「令和2年度中(2020年度中)に旧姓の併記の申請が容易になるよう取り組む」などと記されており、今年度中に状況に変化があるかもしれない。

「改姓に伴う煩雑な作業は、そもそも強制改姓がなければ発生しないもの」

結婚などで氏が変わった人は、パスポートや運転免許証、保険証、銀行口座や携帯電話をはじめとした各種契約の名義変更、印鑑の作り直しなど、多くの手続きをしている。

また、仕事の場面で結婚前の氏を使い続ける場合には、海外出張や業務上の手続き、転職活動などで、仕事上の名前と公的証明書の名前が違うことで不都合や追加の事務作業が発生することもある。

しかし、今回紹介した併記制度は、全ての契約などで旧姓を使用できるようになるという公的な強制力があるわけではない。

選択的夫婦別姓の実現を目指す市民グループ「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局の井田奈穂さんは、「旧姓併記の書類を出したとしても、旧姓の使用が拒否されるケースも多い」と指摘する。

「仕事で旧姓での銀行口座が必要なのに、一部銀行では旧姓併記の証明書を提示しても旧姓では開設できないなど、従来と変わらず戸籍姓が必須の手続きは多い。また、日本の旧姓併記のパスポートが、海外では旧姓の意味が理解されない可能性があることなどは、外務省も認めている」

「住民票などへの旧姓併記は、『強制改姓という人権侵害』を緩和する現時点での方法だとは思うが、改姓に伴う煩雑な作業や、現在起きている『受け取り手次第』という問題は、そもそも強制改姓がなければ発生しないものだ。国には、選択的夫婦別姓の実現に向けて動いて欲しい」

なお、厚生労働省の人口動態統計特殊報告(2016年度)によると、結婚時に96%の夫婦が夫側の氏を選択している。多くのケースで女性が氏を変更しているのが現状だ。

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