「見た目でふるい落とされる」履歴書から写真欄の削除求め、アルビノ当事者などが国に要望へ

「全ての人が、外見ではなく能力で公正に選考されるように」と訴える署名運動が広がり、賛同者は1万人を超えた。海外では、写真の提出を法律で禁じる国もある。
写真欄を履歴書から削除することを求めるネット署名のページ
写真欄を履歴書から削除することを求めるネット署名のページ
Change.orgの公式サイト

性別欄のある履歴書がJIS規格の様式例から削除されたことを受け、厚生労働省は従来の様式例に替わる履歴書の書式例の作成を検討している。こうした中、「外見を理由に不当な扱いを受けている」などとして、写真欄の削除を求める動きが広がっている。1万筆を超える署名が集まり、呼び掛け団体は10月8日にも国に署名を提出する見通しだ。

写真欄をなくすことは、なぜ必要なのか?

署名運動の発起人である「日本アルビニズムネットワーク」の矢吹康夫さんと、NPO法人マイフェイス・マイスタイル代表の外川浩子さんに聞いた。

断られた後もバイトを募集していた

「見た目に特徴的な症状がある人たちは、履歴書の写真によって採用時に理不尽な扱いを受けることがあります。ですが、写真欄は症状をもつ人たちだけの問題ではありません。例えば美醜や容姿端麗かといった点でも評価されることがあり、履歴書から写真欄をなくすことは、全ての人が外見ではなく能力で公正に選考される第一歩なのです」(外川さん)

NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」の公式Facebookのページ
NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」の公式Facebookのページ
Facebookより

外川さんが代表を務めるNPO法人「マイフェイス・マイスタイル」は、病気や事故などさまざまな事情で顔のあざや脱毛、やけどといった外見に特徴的な症状のある人たちが、自分らしい生き方を楽しめる社会を目指して活動している。外川さんは、“外見重視”である日本社会の実態を訴える。

「アルバイトを募集している店に行って、『もう決まってしまった』と断られた後も、その店が募集を続けていて『この見た目だからダメだったんだ』と思った、という話はたくさん聞きます。正面から不採用の理由を尋ねたところで、企業側は『外見が理由』とは言いません。ですが現実には、見た目に症状のある人たちは就業の場で理不尽に扱われることがあります」

NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」代表の外川浩子さん
NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」代表の外川浩子さん
HuffPost Japan

不当な扱いを招く「トリガー」

厚労省は、事業主向けのパンフレットの中で「雇用する側が、応募者に広く門戸を開いた上で、適性・能力のみを基準とした『公正な採用選考』が求められている」と呼びかけている。面接では「外見などによる個人的な好悪感に左右されない」よう留意することも求めている。

だが、日本アルビニズムネットワークのスタッフで自身もアルビノ(注1)当事者である矢吹さんは、「不当な扱いを引き起こすトリガー(引き金)が、選考過程にいっぱい埋め込まれている実態があります。その一つが履歴書です」と強調する。

「就活を始めるタイミングであざを隠すためにカバーメイクを始めたり、アルビノ当事者から『髪の毛を染めた方が良いのか』と相談されたりすることは今もある。学生が、大学の就職支援センターで“普通の見た目”に近づけるようアドバイスされることさえあります」

(注1 アルビノ:遺伝情報の欠損により、生まれつきメラニンを生成する酵素が欠乏する遺伝子疾患。2万人に1人の割合といわれている)

雇用主側の見た目への差別について、矢吹さんは「外見の好き嫌いといった非合理的な理由によって生じるとは限りません」という。「企業は利益を上げるため、『美しい外見の方が売り上げが上がる』といった容姿に対する固定観念に基づいて『統計的差別』をするリスクがある。差別の意識がなかったとしても、結果的に特定の人々を排除することになるのです」

日本アルビニズムネットワーク(JAN)の公式サイト
日本アルビニズムネットワーク(JAN)の公式サイト
JAN公式サイト

顔写真が「違法」の国も

写真欄を巡っては、「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」に詳しい専門家から「視覚情報が人の判断に与える影響は大きく、本人の能力と関係ないところで誤った評価をしてしまう」といった指摘も上がっている

顔写真と採用評価に関する海外の実験もある。

アルゼンチンの求人中の企業に対して架空の履歴書を送付した実験では、「魅力的」と捉えられる顔写真の応募者は、書類を通過して面接に進む割合が36%高い結果になった

アメリカの雇用機会均等法(Equal Employment Opportunity)は、人種や肌の色、宗教、性別、年齢などを理由に、応募者や従業員を差別することを禁じている。「原則として、雇用前の選考過程で求めることができる情報は、業務への適性があるか否かを判断するために不可欠な情報に限定する必要がある」と明記し、応募者の顔写真を求めることは違法とされる。

書類選考を通過したら、ほとんどの場合で面接に進む。写真欄をなくしたとしても、いずれ面接の「壁」にぶつかるのではないか。

「面接官と対面になれば、当然顔は見えます。ですが書類審査で人数が絞られると、面接では能力や人間性など中身を知ってもらうチャンスが広がります。少なくとも、顔写真によって書類の段階でふるい落とされる問題は乗り越えられるのです」(外川さん)

「日本アルビニズムネットワーク」の矢吹康夫さん
「日本アルビニズムネットワーク」の矢吹康夫さん
HuffPost Japan

矢吹さんは、当事者が自ら諦めている現状を指摘する。

「脱毛症の当事者が『この外見じゃダメかもしれない』とためらって、履歴書を求められる求人には応募しなかったというケースも聞きます。外見を理由に採用試験などで何度もつらい体験をした人にとって、履歴書の写真は高いハードルになっている。その結果、働く選択肢が大幅に狭められているのです」

「履歴書の写真欄をなくしたところで、見た目を理由に不当な扱いを受ける問題が全て解決するわけではありません。写真欄の削除を入り口に、選考プロセスにあるトリガーを一つ一つ潰していくことが、今できることだと考えています」

添付を「選べる」ならOK?

顔写真を「貼りたい人は貼る、貼りたくないなら貼らない」というように、選択できれば良いとする意見もある。これに対し、外川さんは「選択ありきでは現状と変わらない」とみる。なぜか?

「従来の履歴書では、顔写真をずっと求められてきました。『今後は貼るも貼らないも自由です』と言われても、あえて貼らないと意思表示できる人はおそらく極めて少数でしょう。選択できるなら、顔写真なしが認められたとしても形骸化してしまうのではと懸念します」(外川さん)

性別欄、写真欄のほか、履歴書から年齢や生年月日の欄の削除を求める署名運動も始まっている。発起人は署名サイトで、「適性があっても年齢を理由に選考で落とされることがある」などと訴えている。

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