緊急避妊薬(アフターピル )、政府が薬局での販売を検討へ。実現求める強い声

入手するハードルを下げるという議論はこれまでもされてきたが、女性だけの問題に矮小化されるなどしてきた経緯がある。
薬局での購入は可能になるのか(イメージ)
薬局での購入は可能になるのか(イメージ)
Getty Images/iStockphoto

避妊に失敗したり、性暴力を受けたりした際、72時間以内に服用することで妊娠の可能性を著しく下げる「緊急避妊薬」(アフターピル )。医師の診察や処方箋が必要でハードルの高さが問題となっていたが、政府が10月8日の男女共同参画に関する専門調査会で、処方箋なしで購入できるよう検討する方針を打ち出した。

この方針をめぐっては、共同通信が前日の10月7日、政府が2021年にも医師の処方箋がなくても薬局で購入できるようにする方針だと時期にも踏み込んで報じたことで、大きな話題となった。Twitterでは「緊急避妊薬」がトレンド入りし、与野党の国会議員からも喜びと期待の声が上がるなど、関心の高さを伺わせた。

報道と関心の高さを、これまで薬局での購入を可能にするよう求めて活動してきた人たちはどう受け止めたのか。また、7月にNHKの番組で薬局での購入について慎重な見解を述べ話題になった日本産婦人科医会の副会長にも受け止めを聞いた。

「正しい知識を啓発する大きなチャンス」

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」
「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」
プロジェクト公式サイトより

緊急避妊薬は72時間以内に飲む必要がある一方、日本では基本的に産婦人科などの受診や処方箋が必須で入手のハードルが高い。アクセスの改善を求め、市民団体などが厚労省に要望書を提出するなど、多くの人たちが長い間声を上げてきた。コロナ禍では、10代からの妊娠相談が増加したことも報じられている。

性に関する正しい情報の啓発に取り組むNPO法人「ピルコン」の理事長・染矢明日香さんはハフポスト日本版にコメントを寄せた。

突然の報道で正直驚きましたが、市民の声を届ける活動が政府を動かしたと胸が熱くなりました。「緊急避妊薬」がTwitterでトレンド入りし、政府の前向きな姿勢を歓迎する声を多く目にしています。

そして、私たちだけではなく、以前から取り組み、道を作ってくださった方々、一緒に声をあげていただいた方々の行動の賜物だと思っています。

コロナ禍において10代の妊娠不安の相談が急増したことが報じられましたが、WHO等世界の諸機関では、コロナを受け緊急避妊薬のOTC化(薬局などで販売・購入ができるようになること)を含めアクセスを確実にするように勧告が出ています。

緊急避妊の適切で安全な使用にあたり、クリアすべき課題もあるかと思いますが、薬局で販売されることはアクセス改善の大きな一歩となり、救われる方がたくさんいると思います。

今後も市民の要望を関係各所に伝えると共に、地道ながら性教育や正しい知識についての発信を続けていきたいです。

性教育の講演を続ける産婦人科医の遠見才希子さんは取材に「まだ実現されるかどうか分かりませんが、これまで表で語られることが少なかった緊急避妊薬について、こうやって大きく取り上げられ、多くの人が関心を持っているというだけでもすごいこと。今が、緊急避妊薬や性に対する正しい知識を啓発する大きなチャンスだと感じます」と話す。

「緊急避妊薬は安全性が高く、人々の健康を守るために必要な薬だと世界でも認められています。必要とする全ての女性にアクセスする権利のある薬です」と強調。「困っている人が安全・安心に手に入れることができるよう、当事者の背景や心境を理解し、適切な運用を実現してほしい。性教育と両輪で進めていく必要があります」としている。

ピルコンや遠見さんは、市民団体「緊急避妊薬の薬局での入手を実現するプロジェクト」としても活動。国にアクセス改善の要望書と署名を提出している。これまでに9万筆以上の署名を集めており、遠見さんは「世論の高まりを感じる」と話す。

日本産婦人科医会副会長「悪用したい人にとっても敷居が下がる」

日本では、緊急避妊薬を入手するハードルが高い。
日本では、緊急避妊薬を入手するハードルが高い。
Getty Images/iStockphoto

緊急避妊薬をめぐってはこれまでも、手に入れるためのハードルを下げるべきではないかという議論は厚生労働省の検討会で行われてきた。

しかし朝日新聞によると、2017年に薬局での販売について議論した際には「時期尚早」などとし見送られた。2019年のオンライン診療での処方についての議論でも、医師らから「若い女性は知識がない」「若い女性が悪用するかもしれない」などの理由で慎重に行うべきだという声が出るなど、女性だけの問題であるかのように矮小化され、病院へ行くというハードルの高さが理解されないまま、議論が展開されてきた面がある。

今回の報道を、慎重派の医師はどう受け止めたのか。

NHKの番組「おはよう日本」で慎重な見方を示したことで話題になった産婦人科医会の前田津紀夫副会長はハフポスト日本版の取材に「まだ私のところにも報道でしか伝わってきていない」と前置きしつつ「緊急避妊薬を薬局で、というのにはやはり慎重な立場」と強調する。

薬局では、緊急避妊薬を服用しても妊娠する可能性はあることや他の避妊方法を伝えることが十分にできないとし、「性教育を進めるのが先だ」との立場だ。

現在困っている人のためにも、まず緊急避妊薬にアクセスしやすくすべきではないかと訊ねると「アクセスをよくすることで、緊急避妊薬があれば妊娠しないと誤解して使った人が(薬が効かず)妊娠するのではないか。悪用したい人にとっても敷居が下がる」と回答した。

海外では86か国で処方箋なしで購入可能

一方で海外に目を向けると、多くの国で緊急避妊薬は処方箋なしで購入することができる。

緊急避妊薬のアクセス拡充に取り組むICECのウェブサイトや活動団体によると、緊急避妊薬はオーストラリアや中国、イタリア、アメリカなど少なくとも86か国で医師による処方箋なしに薬局で購入可能だ。国際産婦人科連合(FIGO)とICECの共同声明でも、緊急避妊薬は「処方箋なしでの薬局カウンターでの販売に適している」と記載。

WHOも2018年の勧告で、「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性と少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は国内のあらゆる家族計画に常に含まれなければならない」としている。

政府が打ち出した方針とは

10月8日に行われた内閣府の男女共同参画に関する専門調査会では、2021年度から5年間の計画策定に向けて「第5次男女共同参画基本計画の策定に当たっての基本的な考え方(案)」を提示。その中の「生涯を通じた女性の健康支援」との分野で、緊急避妊薬についてこう触れられている。

避妊をしなかった、又は、避妊手段が適切かつ十分でなかった結果、予期せぬ妊娠の可能性が生じた女性の求めに応じて、緊急避妊薬に関する専門の研修を受けた薬剤師が十分な説明の上で対面で服用させることを条件に、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討する。

正式な計画は年内にまとめられるという。

注目記事