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2020年11月20日 07時46分 JST

「ヒカルの碁」中国で実写化されて大ヒット。本筋に関係ない“香港返還“の描写の多さ、一体なぜ?

中国で「ヒカ碁」が選ばれた理由は「4大熱血競技漫画」だからだという。

週刊少年ジャンプで連載された人気漫画「ヒカルの碁」が、中国で実写ドラマとなり話題を呼んでいる。

舞台や登場人物を大胆に“中国化”させた意欲作は、現地の原作ファンの評価も高い。その一方で、第1話のみ「香港返還」の描写が頻繁に挿入される不自然も残る。制作に込められた狙いや、香港描写の謎をプロデューサーに聞いた。

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「棋魂」ポスター。左から「兪亮(塔矢アキラ)」「時光(進藤ヒカル)」「褚赢(藤原佐為)」

■舞台も登場人物も中国化

「ヒカルの碁」は囲碁をテーマとした人気漫画。原作はほったゆみさん、作画は小畑健さんで、1998年から2003年まで週刊少年ジャンプで連載された。

蔵で古い碁盤を見つけた小学生・進藤ヒカルが、碁盤に宿っていた平安時代の天才棋士・藤原佐為(ふじわらのさい)の霊と出会ったことがきっかけで、囲碁の道を進むストーリーだ。

中国で実写化されたドラマは、動画配信プラットフォーム「愛奇芸(アイチーイー )」が正式にライセンスを得て制作したもので、ネット配信される。タイトルは「棋魂(チーフン)」だが、ローマ字で「Hikaru No Go」とルビが振られている。

登場人物や舞台も全て中国となっていて、主人公は「時光(シーグァン)」、亡霊は南北朝時代の梁で最高の棋士と謳われた「褚赢(チューイン)」などとそれぞれ変わっている。

■スラダンやキャプ翼と並んで..!?

筆者も実際に「棋魂」を見てみたが、中国を舞台にかなり忠実に原作を再現したという印象を持った。主人公の時光少年はミニ四駆に夢中で、囲碁に興味はないという設定。原作の主人公よりもやや幼めに描かれているが、なんとか囲碁の面白さを伝えようとする褚赢とのかけあいはコミカルだ。

原作では主人公がライバル・塔矢アキラと出会って成長していくが、中国版では「兪亮(イーリャン)」というキャラがその役を担う。高名な棋士の息子で、囲碁界のサラブレッドという設定は共通していて、普段は冷静だが主人公との勝負に執着する様もそっくりだ。

青年期には、高校の囲碁大会やネット対局を通じて切磋琢磨するのも原作通り。一方で随所にオリジナル要素が加えられ、高校生らしい青春ストーリーとなっている。

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こちらも公式のポスター。主人公とライバルが対局するのを、高校の囲碁部のメンバーらが見守る。

しかし、なぜ中国でヒカルの碁なのだろうか。愛奇芸の副総裁で、中国版「ヒカルの碁」総合プロデューサーの戴莹さんがハフポスト日本版の取材に対し、その理由を明かしてくれた。

「ヒカルの碁は、中国では『スラムダンク』『キャプテン翼』『タッチ』と並んで、日本の4大熱血競技漫画と呼ばれ、世代の誰もが知っているような知名度と影響力を持っているのです。また、囲碁は中華文明の豊富なエッセンスが詰まっている文化遺産です。このドラマを通じて、若者に対する伝統文化の影響力を喚起し、将来的には中国囲碁の世界への影響力も高めたいのです」

「ヒカルの碁」はその人気から、子供たちの間で“囲碁ブーム”を巻き起こしたとされた。囲碁発祥の地とされる中国(諸説ある)でもその再現を狙うということだ。

中国には原作のファンも多い。SNSウェイボーは賛否両論で、「普通に楽しめる」というものから「台無しだ」というコメントまで様々だ。戴莹さんは次のように話す。

「原作ファンが不安と疑いの目を持っていたのは確かですが、配信が開始されるとすぐに物語に引き込まれたようです。中国化を進めながら、原作のエッセンスを残すという方向性は高く評価されています。(棋士の)霊魂が出てくるという設定は中国産ドラマでは初のこと。面白さと不思議さをもたらしています」

■香港返還の不自然な多さ、理由を聞いた

ただ、見ていて気になる部分もある。それは「香港返還」描写の多さだ。

「棋魂」は1997年6月30日の中国から物語が始まる。香港がイギリスから中国に返還される前日だ。第1話では、冒頭から「明日、香港が偉大な祖国の元に戻るのです」というラジオ放送が流れる。

そのほかにも、主人公の通う小学校の黒板にチョークで大きく「香港回帰」と書かれていたり、主人公が路線バスに乗れば再び車内で返還を知らせるニュースが流れたりするなど、随所で返還ムードが描写される。

さらに1話の終わりかけでは、霊の褚赢が「今日は何の日なの?」と尋ね、主人公が「全ての中国人が喜ぶ日だよ!」と回答する。香港返還はストーリーに直接関係することはない。

まだ全話配信されたわけではないため今後は分からないが、2話以降は香港の話題がパタリと途絶え、純粋な青春ストーリーが展開される。1話だけに極端に集中していることになる。

この不自然さを総合プロデューサーの戴莹さんに聞くと、次のような回答があった。

「ヒカルの碁はそれ自体がとても不思議なストーリーですが、私たちはリアルな再現をしようと考えました。そのため中国の視聴者にいち早くシーンや年代について理解して欲しかった。視聴者にとって“97年香港返還”はとても記憶に残っている出来事で、簡単にストーリーに入り込めるのです。ほかにもPHSやミニ四駆など、時代背景を物語るディテールもあり、さらにとけ込みやすくなっています」

では政治的な意図はなかったのだろうか。中国の映像作品をめぐる事情に詳しいジャーナリストの周来友(しゅう・らいゆう)さんは、次のように分析する。

「中国の映像作品は公開前に必ず審査を受けます。香港描写を入れたのは、認可を取るための工夫ではないでしょうか。この審査は年々厳しくなっていて、とりわけ海外原作のものは簡単ではありません。特に細かくチェックを受ける第1話に“香港返還はすごい出来事だ”という場面を入れた、ということではないでしょうか」

「棋魂」は海外版の「愛奇芸」でも視聴可能で、順次公開される。中国語音声だが、英語の字幕がつく。