娘がハーバード、イェール大学に合格したのは“結果”。 薄井シンシアさんが語る「子育て」で大切なこと

娘さんの子育て経験をまとめた『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたのか』。子育てに全力を注いだ日々を振り返りながら、子育てで大切にしていたことについて薄井シンシアさんに話を聞いた。
薄井シンシアさん
薄井シンシアさん
Kaori Sasagawa

「ハーバード大学に合格する子を育てようとしたのではありません。結果として、ハーバードで通用する人間を育てたのです」

「娘が何に興味を持ち、どう感じ、考えているのか。私は子育てのあいだずっと、娘のことを熱心に観察してきました」

一人娘の子育てに全力を注いだ日々を、薄井シンシアさんはそう振り返る。

17歳でハーバード大学に合格した娘・紗良さんの子育て経験をまとめた『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたのか』(KADOKAWA)は、タイトルから想像するような受験対策本とは少し違う。

学力よりも大切な、子どもの「自力」を育む重要性について、シンシアさんに話を聞いた。

薄井シンシアさん
薄井シンシアさん
本人提供画像

子育ては期間限定プロジェクト

――一人娘の紗良さんがハーバード大学に進学するまでの17年間、シンシアさんが子育てで最も大切にしていたことはなんでしたか。

自力をつけること、です。自分で考え、判断し、行動できる力。私はそれを「自力」という言葉で表現できると思っています。それが一番子育てで大事なことではないでしょうか。

紗良が生まれてすぐに、「この子はいずれ私から離れていく」と感じたんです。成長して離れてしまえば、もう親として守ることはできない。それならば、多くの子が親元から離れる18歳までの間に、基本的な生活習慣や判断力、行動力、そして自分で学び、努力し続ける自律性を手渡してあげたい。それが親としての役目だと思いました。

子育ては、いわば「期間限定のプロジェクト」。親子として親密に過ごせるのは、長い人生のわずか十数年だけの特別な期間です。それならば合理的に、そして楽しい時間を一緒に過ごそう。そういう思いが常に私の根っこにありました。

叱るよりも、納得させることが大切

――自立・自律性を伝えるために、日常生活で具体的にどんなことを?

まずは、一人の人間として尊重することです。例えば、仕事で知り合った相手に、「○○しなさい」という命令口調で話しますか? 話しませんよね。それと同じで、わが子だからといって、命令口調や高圧的な態度で話すべきではない、と私は思います。

私は、娘が幼いときから「あなたはどう思う?」と聞き、本人の意見を尊重することを常に心がけていました。道理が通じる年齢になってからは、叱るよりも、納得させることを大切にしてきました。

「○○しなさい」と命令するのではなく、なぜそれをすべきかの理由を論理立てて説明する。幼少期から思春期までこのやり取りを積み重ねていけば、子ども自身の中にも自分の行動を理由づける姿勢が育ちます。

『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたのか』(KADOKAWA)本文より

――カッとして命令口調になる場面もときにはあったのでは?

もちろんありました。腹を立ててうっかり命令口調になったことや、(横断歩道を渡ろうとしたときなど)命の安全に関わる場面では叩いてしまったこともあります。そんなときは、後から「ごめんね。ママが悪かった」と必ず謝るようにしていました。一人の人間として尊重するとは、そういうことだと思っています。

もうひとつ、普段から意識して努めていたのは、子どもを「観察する」ことです。性格、キャパシティ、得意なスキルは、子どもによってまったく違いますよね。同じ子どもは一人もいません。

では、うちの子は何を考え、何が好きなのか? どういう性質を持っているのか? その子に最も合ったやり方はなにか? 普段の生活をよく観て、会話をすることで、わが子がどんな人間なのかも必ず見えてきます。

Kaori Sasagawa

読書は人生の予習になる

――シンシアさんはフィリピンの華僑の両親のもとで生まれ育ったそうですが、ご自身はどんな子どもでしたか。

私も真面目な子どもでした。ただ、親がとても厳しい人たちだったので、親子関係はあまりうまくいかなかったんですね。両親は典型的な中国人の価値観を持っていて、女の子よりも男の子が優先。私よりも弟のほうが常に大事にされていたので、哀しく感じることが多い子ども時代でした。

もちろん、感謝していることもあります。父が読書好きだったので、私も自然と読書習慣を受け継いだのですが、本を読むことは人生を豊かにする上でとても役立ちました。嫌な現実があっても、本の中には別の世界がありますから。正しいこと、多様な価値観、それらもすべて本で出会えました。

紗良にも本を読む習慣はぜひつけてほしかったので、幼い頃はいろいろな工夫をしました。

『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたのか』(KADOKAWA)本文より

読書って人生の予習になるんですよ。自分がいじめられたとき、友達が仲間はずれになったとき、どうすべきか? 私はペシミスト(悲観主義)なので、そういうことが現実に起きる前に、本で予習して手を打っておくんです。

私は紗良の出産を機に専業主婦を選びましたが、女性の生き方には多様な選択肢があることや、ファッションやおしゃれの楽しみ方も、本の力を借りて伝えていきました。

世の中にはいろんな仕事や生き方をしている女性が大勢いますから。母親だからといって、必ずしも娘のロールモデルになる必要はないでしょう?

幼少期から伝えた時間管理の大切さ

――父の海外転勤に伴って、紗良さんはナイジェリア、ニューヨーク、東京、ウィーン、バンコクの5カ国の学校に通ったそうですが、それぞれに校風やルールも違っていたのでは。環境が変わっても大事にしていたことはありますか。

時間管理の重要性は、紗良が幼い頃から一貫して意識させていました。1日は24時間しかありません。帰宅が午後3時半で就寝が夜9時半だとするなら、限られた時間をどう過ごすか判断することはとても大切な生活習慣です。

私が何よりも強くこだわったのは、睡眠時間を守らせること。十分な睡眠は心身を健全にしますし、紗良はわかりやすく睡眠不足が体の不調に出るタイプの子でしたから。

そのことをちゃんと伝えるためには、子どもの年齢に応じた工夫も必要でした。紗良が幼い頃は、大きな紙に24時間の円グラフを書いて「十分な睡眠は心身を健やかに保つために絶対に必要なことなの。だから夜9時半の就寝だけは守ってね。その上であなたの時間の中で、やりたいこと、すべきことの優先順位をつけていきましょう」と納得してもらいながら伝えていきました。

『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたのか』(KADOKAWA)本文より

子どもが良い成績を納めても、親とは関係ない

――シンシアさんの目には、紗良さんは性質を持っているように映りましたか。どんなことを心がけていたのでしょうか。

幼い頃から、とても真面目で慎重な子どもでした。自分のやりたいことや意思もはっきりしていましたね。やりたいことは夢中になって、ちょっと無理しても頑張ってしまうところがありました。

そういった娘の性質・性格がわかっていたからこそ、私から「勉強しなさい」と言ったことは一度もありません。テストの結果や成績の良し悪しは、あくまでも机の上だけの小さな評価。その人の人間性とは関係ないことがわかっていたからです。

紗良が一度だけ、「ママ、私の成績が良いから自慢できるでしょ?」と言ってきたことがあります。私は説明しました。「なぜ紗良の成績がよいことが私の自慢になるの? 私とは関係ないことでしょう」と。学校の成績で子どもへの愛情が変わるわけではないのです。

ハーバード大学を目指すのは紗良自身の選択です。もしそれ以外にも彼女が夢中になれる夢を見つけていたのなら、私はそちらを全力で応援していたでしょう。

わが子が何に夢中になり、どういう性質を持っているのか。それは普段から観察すれば必ずわかります。

「ハーバード大に合格できるなんて、幼い頃から親が猛勉強させてきたのでしょう」とよく言われるのですが、とんでもない。むしろ、私は真面目すぎる彼女がのめり込みすぎて自分や周囲の期待に潰されないように、逃げ道やガス抜きの方法を考えていたくらいです。

※後編は近日公開予定です。

》薄井シンシアさんの子育てをテーマにした単行本『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたのか』(KADOKAWA)発売中。

『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたのか』(KADOKAWA)

(取材・文 阿部花恵 編集:笹川かおり

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