性暴力、8割以上が「警察に届けられなかった」との調査結果。時効後に被害を認識するケースも

強制性交等罪の要件である「暴行・脅迫」を伴わなかったり、時効を迎えた後に被害を認識するケースも確認され、現行法の課題が浮き彫りになった
東京駅前の「フラワーデモ」で掲げられたプラカード(2019年6月)
東京駅前の「フラワーデモ」で掲げられたプラカード(2019年6月)
Issei Kato / Reuters

性暴力被害者のうち、8割以上が警察に被害を届け出ることができていない実態が、当事者などでつくる一般社団法人「Spring」の調査で分かった。調査では、性被害を受けてから「被害」と認識できるまでに時間を要するケースが多いことや、刑法の強制性交等罪が要件とする「暴行・脅迫」を伴わない性暴力被害の実態も判明。公訴時効や構成要件など現行法の問題点が改めて浮かび上がった。

アンケートは、Springや研究者などが、性被害の経験がある人を対象に8月16日〜9月5日にWebで実施。5899件の回答があった。6月以降、法務省の検討会で、性犯罪に関する刑法改正が議論されている。Springによると、性被害の実態を明らかにし、刑法改正に結果を反映することが調査の目的という。

「被害」と認識、1割以上が時効超える

Springが11月20日に調査結果を報告した。被害者のうち、83.8%(4944件)が警察に被害を相談していなかった。さらに、警察に相談した人(894件)のうち、約半数の429件が被害届を受理されなかったという。

「被害に遭った際、すぐにそのことを『被害』だと認識できたか」との問いに51.7%(3051件)が「いいえ」と答えた。被害だと認識するまでの年数は平均で約7年。強制性交等罪の公訴時効は10年だが、11年以上が1割を超えた(724件)。最長で39年かかったケースもあった。

「被害に遭った経験の一部、あるいはすべてについて、記憶をなくしていた、あるいは思い出せなかった時期があるかどうか」について、21.6%(1273件)が「あった」と答えている。

性教育の充実求める声

全体のうち、小学生以下の被害が約4割だった。結果を分析した東洋大助教の岩田千亜紀氏は「性暴力被害を防ぐには、幼児期や小学生の頃からの性教育を充実させる必要がある」と指摘した。

自由回答ではこのほか、「性被害者・加害者への対応の変化」(24.2%)を求める声が多数寄せられた。具体的には、「被害者を責めない」「セカンドレイプをなくす」「加害者が悪いと認識される」ことを求める内容が目立った。

「被害者にも責任があるかのような言動をとる人がいなくなること。警察や親すら、あなたも悪いと言った。それ以降相談しても無駄だと思ってしまった」といった訴えもあった。

「被害を人に相談したり、警察に届け出しやすい社会になるために必要な変化」を尋ねる問いに対する自由回答の結果。「性教育・人権教育の充実」と、「性被害者・加害者への対応の変化」が約半数を占めた
「被害を人に相談したり、警察に届け出しやすい社会になるために必要な変化」を尋ねる問いに対する自由回答の結果。「性教育・人権教育の充実」と、「性被害者・加害者への対応の変化」が約半数を占めた
Springの資料より

岩田氏は、「刑法改正に加えて、性暴力・性犯罪においては被害者ではなく加害者が悪いという認識が、教育や啓発活動を通して社会全体に周知されることが重要だ」と強調した。

「暴行・脅迫」伴わない被害も

調査では、「親」「親の恋人」「見知った人」など加害者の属性別に、被害当時の被害者の状態(複数回答)も尋ねた。

挿入を伴う性暴力では、加害者が親の場合は「良くわからない状態」(68.4%)、「受け入れないとひどい目にあう」(56.1%)、「経済的な問題等で従うしかなかった」(54.4%)の順で多かった。

加害者が親の恋人または親族の場合は、「良く分からない状態」(68.2%)、「他人に知られたくなく抵抗困難」(54.3%)、「驚いた、身体が硬直した」(52.7%)だった。

こうした点から、Spring代表理事の山本潤さんは「暴行・脅迫を伴わなくても、被害者が抵抗できないケースはたくさんある」として、現行刑法の要件の問題点を指摘。「不同意性交等罪」の創設のほか、公訴時効の見直し、13歳以上とする「性交同意年齢」の見直しなどを訴えた。

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