ペーパー離婚をした。10年前、夫に名字を「譲った」自分が許せなかった【選択的夫婦別姓】

今日は「いい夫婦の日」。いい夫婦って「どんな形」だろうか? 私たち夫婦は、選択的夫婦別姓が実現されない中、法律婚から事実婚に変えた。私たちがした事務作業・手続きをお伝えします。

きょう11月22日は「いい夫婦の日」らしい。いい夫婦って、みなさんにとってどんな形だろうか。

私たち夫婦は法律婚をしながら、選択的夫婦別姓を求め続けて約10年…。2019年に「ペーパー離婚」に至り、事実婚となった。「湊(みなと)」という生まれながらの姓で、「公式に」生きたいという思いを実現させるためだった。

最初に言っておくと、法律婚を解消しても夫との信頼関係は何も変わらなかったし、今のところ事実婚にしたことによる不都合は何も発生していない。結構「仲のいい夫婦」じゃないかと、自分たちでは思っている。

しかし、事実婚に移行すると決めた際、参考になる情報に辿り着くのに少し苦労した。そこで、私たちがした手続きについても記録に残しておければと思う。

<目次>

①名前は、私のアイデンティティそのものだ

②悩んだ末に、一旦法律婚をした時のこと

③ペーパー離婚し、事実婚へ。どんな手続きをしたのか

④夫との関係

①名前は、私のアイデンティティそのものだ

私は、湊という姓が好きだ。父方の姓ではあるが、共に海のそばで育った両親のルーツとも縁がある。母や父が話してくれた地元の海の記憶・伝承には、生活者の記憶が根付いていて、私の思考を構成するものの一つとなっている。

中高時代、「あきこ」という名前の同級生がいたこともあり、友人からは「みなと」と呼ばれることが多かった。私にとっては、姓の方が身近だった。

そして、名前の話は、私のプライドの話だ。

「妻は専業主婦」という家庭が多い地域に育った。地方都市で私は、親から暴力を受けている子ども、夫からDVを受ける妻、長時間通勤で疲弊した顔で帰ってくる男性…色んなことに耐える人たちを見てきた。

「女の子」である私が苦しんでいたのは、大人の目があまりない時間帯に繰り返される性犯罪だった。特に高校時代は、通学が苦痛だった。”いつもの痴漢”にあわない方法を常に考え、電車やバスに乗る時間や車両を変えた。無理に笑い話にしながら性暴力被害の経験を語る同級生の姿を思い出すと、今も涙が出てくる。

「大学に行って、仕事に就き、自分と大切な人を守れる大人になる」

その場所で疲弊していた10代の私にとって、これが目標だった。テスト用紙には「湊彬子」と書き、この名前で就職活動をし、自分なりに歯を食いしばって働いてきた。名前は、自分のアイデンティティそのものだ。

イメージ写真
イメージ写真
Taro Hama @ e-kamakura via Getty Images

②悩んだ末に、一旦法律婚をした時のこと

だから、今から約10年前、夫と結婚しようということになった時は悩んだ。当時の民主党政権では、千葉景子法相(当時)らが選択的夫婦別姓導入に意欲を示していた一方、連立政権内では反対の声も大きかった。

「しばらくは実現しなそうだな。でも、そう遠くない未来に民法は変わるだろう」というわずかな期待で、私は自分をまず騙した。

もちろん事実婚については調べた。当時ネットでは思うような情報に辿りつけず、図書館の「結婚」「子育て」棚で、参考になりそうな本を探した。

結局、「法律婚をしていないと、緊急時に病院で家族と認められないことがある」などの話をききかじり、夫と二人で不安になった。その「恐れ」から私たちは、法律婚することにした。

どちらの姓にするのか。夫もまた自身の姓に思い入れが強かった。互いに、自分が嫌だと思うことを、相手に強制したくはない。私の方が多くきょうだいがいること、夫の姓が珍しい事など、私はまた自分を納得させる材料を探した。

だが、結局のところ私は、「女の私が我慢するものなんだろう。揉めずにやっていくために、名字は譲る方がいいんだろう」と心のどこかで思っていたのだ。

悩んだ末に、夫の姓を選んで婚姻届を役所に出した瞬間、自分の本音がはっきりと分かった。自分が「自己規制」をしていたことに気づかされたのだ。

自分のことが、許せなかった。

「女の子は地元の学校に行った方がいい」「女の子は浪人しちゃいけない」「女の子は明るい色の服を着た方がいい」「女の子はそういう笑い方はしない方がいい」「女の子がそんな仕事をしたら結婚できない」…。

人生の中で、いくつの「女の子だから」をはねのけて来たか。それなのに、気がついたら私自身が、「女」を理由に自分の選択肢を狭めていた。これまでの自分を否定するような事をした、自分の事が許せなかった。

自己嫌悪に陥っている中、「姓が変わった方」にだけ、やる事が押し寄せてきた。

パスポート、運転免許証、保険証などだけではない、携帯電話の契約、銀行口座、クレジットカード、支払い・引き落とし各所、各種利用カード…おびただしい名義変更が発生した。平日に時間を捻出するのは大変だったし、戸籍や住民票発行のために役所にも足を運び、お金もかかった。

当時の職場は旧姓利用ができ、転職先の朝日新聞社でも旧姓をそのまま利用した。その後、私は単身赴任で3度の引っ越しをした。そのたびに戸籍名での転出・転入、電気水道ガスなどの各種契約作業を繰り返した。公的には「湊彬子」という私は存在しないのだと実感するたび、少しずつ自分が損なわれていくような不安に陥った。

福井県で勤務していた時には、地元企業で働く女性から「本当は結婚で名字を変えたくない。せめて仕事では旧姓を使用したいが、会社が旧姓利用を認めていない」と相談されたこともあった。仕事でも使用できないとなれば、どれだけの喪失感だろうか。

人生を、自分の名前で歩み続ける選択肢が認められないような制度はおかしいと改めて思った。もう我慢ができなかった。

夫とは何度も話し合った。以前は病院などでのリスクを気にしていた夫も、「互いが嫌だと思うことを減らして、楽しく生きていける方が大切」と話すようになった。

(議論の際、夫は「法律婚していない事で、病院で死に目に立ち会えないリスクがあるならば、同性カップルの人も抱えている問題だよね。同性婚を実現したいね」と言った。「夫よ、いけてるな!」と思った。)

私が転勤で東京に戻ったタイミングで、ペーパー離婚することを決めた。

③ペーパー離婚し、事実婚へ。どんな手続きをしたのか

私たち夫婦が作成した「婚姻関係(事実婚)契約公正証書」「遺言公正証書」「任意後見契約公正証書」(手前から。画像の一部を加工しています)
私たち夫婦が作成した「婚姻関係(事実婚)契約公正証書」「遺言公正証書」「任意後見契約公正証書」(手前から。画像の一部を加工しています)
Akiko Minato/HuffPost Japan

とはいえ、何をしたらいいのかーー。

再び書籍やネットで情報を集めながら、事実婚をしている信頼できる知人夫婦に会いに行った。その夫妻は、公証役場で「婚姻関係(事実婚)契約公正証書」「遺言公正証書」「任意後見契約公正証書」を作成していた。

私たちも同じく3つの公正証書を作ることを決めた。

婚姻関係(事実婚)契約公正証書では、婚姻関係(事実婚)にあることを証明し、結婚生活における様々な取り決めなどを記した。

私たちの場合は、【趣旨と目的】【相互尊重協力義務】【財産関係及び生活費の負担等】【子が出生する場合の約束】【共同生活における約束】【両親に対する扶養】【入通院・治療時及び危篤時における権利】【契約解消時】などの条を作り、それぞれ自分たちの状況に合うような内容をつづっていった。

例えば、「子がいた場合、氏をどちらにするか」「○万円以上の出費は、事前に相手に相談する」「関係解消時の財産分与」なども記したほか、「互いの価値観を尊重し、相互の協力を惜しまない」「すれ違いが起きたら、それぞれが率先して関係回復に努める」などの夫婦のあり方も記した。

行政書士にも相談し、その方と公証役場の公証人が、法律と齟齬がないように内容をさらにブラッシュアップしてくれた。

その後、まずペーパー離婚をし、住民票を変えた上で、夫と行政書士と公証役場に行き、公正証書を作成した。

公証役場は土日はやっていなかったため、平日に休みをとる必要があった。費用面でも負担がかかり、人に気軽にお勧めできる方法ではないが、作業が終わった時には強い安堵感がやってきた。そして何より、嬉しかった。

ちなみに、私は知人の公正証書を参考にさせていただき、行政書士にも相談したが、最初から公証役場に相談に行く手段もある。利用する公証役場は、依頼者の住まいの場所にとらわれないので、まずは連絡をしてみて、事実婚への対応がスムーズそうな公証役場・公証人を探すというやり方もあると思う。

「婚姻関係(事実婚)契約公正証書」を手に。これからも、よろしく!
「婚姻関係(事実婚)契約公正証書」を手に。これからも、よろしく!
HuffPost Japan

そのほか、事実婚の作業で、実際にやってみて分かった事を記しておく。

なお、公証役場での証書作成も含め、いずれも事実婚の「答え」ではなく、カップルの判断によって行う内容は異なると思う。また、関係先によっても対応は違うと思う。あくまで一例として読んでいただけるとありがたい。

<住民票>私を世帯主にし、夫を「夫(未届)」とした。この申請をする際、役所の窓口で、「事実婚である」ことを手書きした「申述書」を出すように言われた。手渡された用紙は首長宛てになっていたので、アピール機会と思い「選択的夫婦別姓の実現を望んでいます」と書いておいた。

<住宅ローン>法律婚をしている時にペアローンを組んでいた。法律婚から事実婚に変えることを金融機関の担当者に伝えると、「手続きを確認する」と言われ2ヶ月ほど待ったが、結論は「氏が変わったら、通帳などの名前の書き換えに来て下さい」だけだった。

<医療保険>事実婚を機に保障内容を整理し、別の会社にも加入することにした。死亡時受取人を互いにすることについて、事実婚では不可の会社があった。保険会社の窓口の人が「時代に合わせて会社も変わっていくはずです」と個人的な意見を話してくれ、ちょっと救われた。

④夫との関係

ペーパー離婚に至るまで約10年。夫との話し合いの中で、互いが人生において何を尊重したいのかより分かるようになり、信頼も深まった。

夫はこう話す。

「事実婚について調べるにつき、自分たちの生活にとっては実害は現状で無いと分かったので、心配はなくなった。実際、事実婚にしても何の問題もなかった」

「我が事になるまで、選択的夫婦別姓の議論について考えたことはなかった。調べていくうちに、政治が選択的夫婦別姓を認めない理由は『イデオロギー』にすぎなくて、『家族とはこうあるべき』という同調圧力で動かずにいるようにみえた。政治が時代に追いつけていない象徴的な事象が、選択的夫婦別姓や同性婚の問題だと思うようになった」

私も事実婚にしたことを周りに話してみたら、「うちも事実婚だよ。強制改姓はおかしいよね」という人たちに何組か出会った。子どもがいるカップルも複数いた。市民側は時代に合わせて、生活スタイルを自分たちで変えていっているのだ。政治には、もういい加減、動いて欲しい。

私は決して、全ての人が別姓結婚をすべきと言っているのではない。夫婦別姓を選べるようにして欲しいのだ。

「別姓にすると家族の絆が」「子どもの名字はどうするのか」などの反対意見も耳にするが、そう思う人はパートナーと合意の上で同姓を選べばいいと思う。だからといって、他者に強制しないで欲しい。

少なくとも私たち夫婦は別姓で生きていくことを決める議論の中で互いへの信頼を深めたし、未来に発生しそうな困り事についても二人で議論し、対応策を事前に整理した。そんな議論をしながら暮らしていけるのは、結構「いい夫婦」なんじゃないかとやっぱり思う。

注目記事