アートとカルチャー
2020年12月27日 10時27分 JST | 更新 2020年12月27日 12時02分 JST

政治に関心を持つと「意識高いね」と言われる日本。大学生がメディア『NO YOUTH NO JAPAN』を始めるまで

政治や社会問題をわかりやすく解説するメディアを立ち上げた能條桃子さん。約60人のメンバーとともに、発信をつづけています。

Jun Tsuboike / HuffPost Japan
NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さん

30歳以下の若い世代に向けて、Instagramなどを使ってわかりやすくニュースや社会問題を伝えているメディアがある。「NO YOUTH NO JAPAN」という活動で、慶應義塾大学に通う4年生が立ち上げた。設立からわずか1年半で、Instagramのフォロワー数は5万人を超えている。

「意識が高い、低いに関係なく、誰もが政治や社会問題に興味をもつようになってほしい」。設立者の能條桃子さんはそう話す。

 

発信はInstagramが中心。「NO YOUTH NO JAPAN」とは

「NO YOUTH NO JAPAN」は、Instagramを中心に、時事や政治ニュース、国際問題などを発信するメディアだ。

選挙情報をはじめ、雇用や労働問題、貧困、ジェンダー平等、LGBTQ+、環境問題など幅広いテーマを取り上げている。

立ち上げられたタイミングは、2019年7月下旬にあった参議院選挙投票日の2週間前。「#どうして投票しないといけないの」というハッシュタグを使い、投票へ行くよう呼びかける図解やイラストを投稿した。

背景にあったのは、若年層の投票率の低さだ。近年の国政選挙の20代投票率は30%台が続き、他の世代と比べても低い水準にとどまっている。

「今の社会、若い人が投票に行かなければ行かないほど得する人たちがいっぱいいる。これは同世代からのメッセージです。私たちが思う私たちが投票に行かなきゃいけない理由を伝えます」。Instagramにはそんな思いがつづられた。

 

 

投票率は80%。デンマークでは「意識」が高くなくても投票に行く

「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げたのは、慶應義塾大学生の能條桃子さんだ。

当時21歳だった能條さんは、デンマークに留学中だった。

デンマークは、罰金などのペナルティーがないにもかかわらず、国政選挙の投票率が毎回80%を超えるなど高い投票率を誇る。20代の投票率も日本よりはるかに高い。日本との違いはどこから生まれるのか。その疑問を解くために留学した。

能條さん提供
デンマーク留学時の能條さん

現地はちょうど国政選挙とEUの議会議員選挙の真っ最中だった。能條さんは、若い世代を含めて、国中が選挙をめぐって「大盛り上がり」していたことに驚いたという。

「日本だと若い人が社会問題や政治について発信をすると、『意識が高い』みたいに見られてしまうんですけど、デンマークはそうではなくて。意識が高い、低いに関係なく、みんなが当たり前のように政治に関心を持って、投票にも行くし、自分の意見を持っていました。みんな政党の名前を当たり前に知っているし、それぞれの政党がどんな特徴を持つのか、それについてどう思うのか話すことができる。政治についての『共通言語』があるんだと思います。その違いにびっくりしました」

Jun Tsuboike / HuffPost Japan
NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さん

学校の先生は、選挙期間中、自分はどの政党を支持しているのか、ためらいなく生徒に話していた。

「日本だとそうした意見を言うと問題視されますよね。知識として話すことはできるけど、自分の意見は何も言わない。でも、現地の人とその話をしたら、『それは生徒を舐めすぎなんじゃない?』と言っていて。生徒はその発言を一つの意見として受け止める判断がしっかりできるし、洗脳しているわけじゃないから全然平気でしょ、という感じで...。そもそも土台が違うんだな、と思いました」

デンマークの教育は、子どもの「自発性」を育てることに重きを置いていると言われる。

「子どもの頃から、自分自身の考えを表明することが奨励されて育つため、社会や政治の問題についても、自分自身の意見を表明し、時に社会や政治的な活動に参加することがデンマーク人にとっては自然なこと」

デンマーク大使館は、多くの国民が政治参画への意欲が強い理由についてこう紹介している。

能條さん提供
デンマーク留学時の様子

選挙期間中は、各政党が街中でブースを立てて、子どもたちを含めて集まった人から自由に質問を受ける。政治や選挙が日常の風景として溶け込んでいると感じた。

政治が身近にある、デンマークの社会。日本でも同じようなことができないか。そう考えたことが、「NO YOUTH NO JAPAN」の立ち上げに繋がったという。 

 

「意識高いね」。無関心層との間にある分厚い壁

そもそも、なぜ能條さんは若者の政治参加に興味を持つようになったのか。

能條さんは神奈川県平塚市出身。

小学生の頃、子どもたちが模擬的に「議員」になって市長に質問する「子ども議会」に参加した。質問した内容は覚えていないというが、「政治は社会を作っている感じがする」と実感し、政治への興味が生まれた。

大学入学後は、2017年の衆議院選挙で候補者のもとでインターンシップを経験した。ビラ配りや電話かけ、SNSの運用や街宣車でのうぐいす、演説なども行ったという。

しかし、そうした活動の傍ら、同世代からの「引いた視線」に違和感を抱いた。

「インターン活動中、おばちゃんが自動販売機で買った紅茶を差し入れしてくれたり、こんなにたくさんの人が頑張ってるし応援してくれるんだと思ったんですけど、そのあと学校の友達との飲み会に行ったら、『えっいま選挙手伝ってるの?意識高くない?』と言われる。その差をすごく感じていました」

選挙では、若い人に向けた政策を演説する30代の候補者もいた。しかし、演説を聞いているのは高齢者層がほとんど。子育て世代もいたが、10〜20代の有権者の姿は少なかったという。次第に候補者も、演説で若者向けの政策に言及することが少なくなっていくように感じた。

「10代、20代の声は全然反映されないんだろうな」と感じたという。

「やっぱり若い世代が見ていないと、候補者は若い世代のためになることを言わない。私に『意識高いね』という子たちが、知らず知らずのうちに、自分たちのためになることを政治家に言わせなくなってしまっているんだな、と感じました。この溝がもったいない、どうにかできないかなと思っていたんですけど、ずっと答えが見つからず...。その時にデンマークのことを知って留学することを決めました」

Jun Tsuboike / HuffPost Japan
能條桃子さん

 

 

「みんなが『意識高く』なることが理想的なわけではない」

しかし、実際にデンマークで生活してみると、「投票率の低さ=若い世代の問題ではない」と実感したという。

「投票に行くデンマーク人の中には、真面目でもないし、遊んでばっかりだったり、飲んでばっかりだったりする人もいました。デンマークでも、『意識が高い・低い』のグラデーションはあって、それでも投票に行くことや政治に参加することは当たり前だという文化がある。だから、日本も若い世代みんなが『意識高く』なることが理想的なわけではないんだな、と感じました。そもそも、大人の投票率だってそれほど高いとは言えない。それよりも、もっと今までの制度とか日常の環境とか、根本的な問題に取り組むべきなんだと思います」

意識が高い、低いに関係なく、誰にとっても政治を身近なものにしたい。そのためにどうすればいいか。

能條さんは、若い人に身近な存在であるSNSを使って、政治や社会問題をわかりやすく説明する『教科書』のようなメディアを立ち上げることを決めた。

LINEを使って仲間を募り、参院選に向けて急ピッチでNO YOUTH NO JAPANのInstagramアカウントを立ち上げ。当時は参院選までの2週間のプロジェクトのつもりだったが、選挙で投票を呼びかける以上の日常からの取り組みが必要だと感じ、団体として活動を継続することに決めた。(2020年7月に一般社団法人化)

「若い世代なくして未来の日本はない」。そう言える社会になってほしい、という思いが団体名に込められているという。

 

「モヤモヤや不満、自分につながる問題はたくさんある。その問題は必ず政治とつながっている」

ポップなデザインやタメになる情報、若い世代に向けた明確なメッセージなどが反響を呼び、立ち上げからたった2週間でInstagramのフォロワー数は1万人を超えた。

2年目となった2020年は、新型コロナウイルスなどの時事性の高いニュースの発信に加えて、月ごとにテーマを設定。

ジェンダー平等、戦争と平和、移民・難民、環境問題、雇用や労働問題などについて情報発信し、フォロワー数を5万2000人以上まで伸ばした。

 

「実は自分の身近にモヤモヤや不満はたくさんある。将来子どもが育てづらいだろうな、とか、冬なのにまだ暖かいな、とか。コロナで就職内定率が下がったことは、学生にとって深刻な問題です。落とし込んでみると、自分につながる問題はたくさんある。その問題は必ず政治とつながっています。政治参加は選挙だけではないので、テーマごとに発信することで、社会問題や政治に関心を持つきっかけを作りたいと思いました」 

これまで最も反響があったのは、アメリカを中心に世界で広がった黒人差別への抗議運動「Black Lives Matter」に関する投稿だと言う。

kemioさんや渡辺直美さん、水原希子さんなどがストーリーズでシェアしたことで投稿が拡散し、フォロワー数も激増した。

「インフルエンサーの影響も大きいと思うんですが、一人ひとりのシェアがどんどん広がっていった結果ここまでいった、ということに希望を感じました」。能條さんはそう話す。

団体の人数も増え、現在は高校生から社会人5年目まで、幅広いバックグラウンドを持つメンバー約60人が所属している。

能條さん提供
NO YOUTH NO JAPAN打ち合わせの様子

活動の範囲も広がった。7月からは、Facebook社などとタッグを組み「政治家と話そう」プロジェクトを発足。

現役議員をゲストに招き、Instagramのライブ配信を行う内容で、これまでに自由民主党の今井絵理子氏、立憲民主党の蓮舫氏、国民民主党の伊藤孝恵氏などが出演した。

国政選挙だけではなく、地方選挙の投票率をあげる取り組みにも着手。所属するメンバーが住んでいる都道府県、市区町村の選挙で投票率をあげるために発信を行った。

たとえば、10月には兵庫県三田市議選の投開票にあわせて新規アカウントを作成。三田市に住む若年層に向けて投票を呼びかけた。

NO YOUTH NO JAPANが作成したアカウント「votefor_sanda」。
現地に住むメンバーがパンフレットなどを作成。学校に配布するなど、「草の根」的な活動も行った。

2021年は、より多くの人を巻き込めるような発信を目指すという。

「この1年間は、フォローをしてくれた5万人と『つながれた』ような感覚がありました。同じ問題意識を共有できたというか...。今後は、その人たちが自分のまわりにも仲間を増やせるように、もっとシェアしやすい身近なことをとっかかりにした発信もしていきたいと思います」

はじめは小さい動きだったとしても、徐々に広げて、若い世代から変化を起こす。NO YOUTH NO JAPANの挑戦はつづく。

Jun Tsuboike / HuffPost Japan
NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さん
能條さん提供
NO YOUTH NO JAPANのメンバー