生徒へのわいせつで処分されても3年で教壇に戻れる日本。なぜ改善できない?

萩生田光一文科相年明けの通常国会で改正法案の提出を見送ると発表。「私自身も忸怩たる思いがある」と語った。
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MILATAS via Getty Images

教師や保育士などによる子どもへの性暴力が、社会課題となっている。

現在の教育職員免許法では、わいせつ行為で教職員免許を失っても、3年たてば免許を再取得して再び教壇に戻ることができる。

これに対し、学校での性暴力防止や被害者支援に取り組む団体は「わいせつ教員に教員免許の再交付はしないで」という署名キャンペーンを展開。12月28日時点で5万7000筆以上の署名が集まっている。

文科省は、児童・生徒へのわいせつ行為で免許が失効した場合は無期限に免許を再取得できなくするとともに、小児性愛と診断された人は教員免許を取得できないようにする法改正を検討していた。

だが、「法制上乗り越えられない課題がある」として、年明けの通常国会での改正法案提出は見送られることになった。

一連の問題をめぐる現状を解説する。

わいせつ行為で免許失効しても、3年で再び教壇へ。処分歴も確認できず

文科省の調査によると、2018年度にわいせつ行為などによって懲戒処分や訓告などを受けた教師は282人と過去最多となった。

しかし、子供の性被害は被害を被害と認識することが難しいケースもあるうえ、声を上げても真剣に取り合ってもらえないこともある。

さらに、わいせつ行為が認められ、懲戒免職などで加害教員の免許が失効した場合でも、3年経てば再取得が可能となる。

失効歴などが確認できる懲戒免職処分情報を検索するツールも、検索対象期間は過去3年分。それ以前の処分歴を確認することができない状態となっている。

記者会見する萩生田光一文部科学相
記者会見する萩生田光一文部科学相
時事通信社

法改正は見送り。「忸怩たる思い」と萩生田文科相

だが、12月25日の記者会見で、萩生田光一文科相年明けの通常国会で改正法案を提出することを見送ると発表。「わいせつ教員を2度と(教壇に)立たせないという思いで法改正を検討してきたが、私自身も忸怩たる思いがある」と語った。

再取得禁止が見送られる理由となったのは、社会復帰や更生の観点から、刑執行後は原則10年で刑が消滅すると定めている刑法だ。

萩生田氏は「極論を言えば、殺人犯であっても刑消滅後もう一度免許を取ることができるのに、わいせつ教員だけが2度と取れないという立て付けが現行の法律の中では難しかった」と説明する。

また、小児性愛と診断された人は教員免許を取得できないようにする法改正も、厚労省などの協議した末、「診断基準が確立されていない」などの理由で見送られることになった。

採用時に処分歴など確認へ

萩生田氏は「諦めたわけではない」として、法改正引き続き検討する意欲を示している。

法改正せずにできる対応として、以下の3点を実行していくとしている。

・官報に掲載された教員の処分歴が検索できるツールの検索対象期間を直近3年から40年に延長する。(2021年2月中)

・ツールの実効性を高めるため、処分歴が児童生徒へのわいせつ行為であることが判別できるように省令を改正する。

・教員採用時の書類の様式について、処分歴の記入欄や処分内容の記載を求めるよう、参考例を示しながら自治体の採用担当者に要請する。

日本版DBSの創設を求める記者会見=2020年07月
日本版DBSの創設を求める記者会見=2020年07月
Kasane Nakamura

海外では無犯罪証明書が必須

小児わいせつは、他の性犯罪と比べて再犯率が高く、対策が必要なのは教師だけではない。

ベビーシッターのマッチングサービス「キッズライン」の男性シッター2人が、保育中の子どもに対する強制わいせつで逮捕された事件は、子どもを持つ多くの親や保育関係者に衝撃を与えた。

イギリスでは個人の犯罪履歴がデータベース化され、一定年齢以下の子どもと関わる仕事をする人は、ボランティアであってもDBS(Disclosure and Barring Service)に照会して無犯罪証明書を発行してもらう必要がある。

無犯罪証明書がない人は子どもに関わる仕事に就くことはできず、働いた場合は、本人だけでなく雇用者も罪に問われるという。

日本では、保育士資格も失効から2年が経過すれば再取得が可能。民間の派遣ベビーシッターは資格を必要とされないことも多く、小児性犯罪歴がある人でも簡単に子どもと関わる仕事に就くことができる。

こうしたことから、日本でも日本版DBSの創設を求める声も上がっている

萩生田氏は「学校の先生だけはなく、保育士など子供と日常的に接する職種に共通する課題」だとして、イギリスで運用されている個人の犯罪履歴チェックを行う公的サービス「DBS(Disclosure and Barring Service)も参考になると考えている」と指摘。

「子供たちを性被害から守っていくという大きな概念でもう一度各省庁を巻き込んでいきたい」と語った。

記者会見する「全国学校ハラスメント被害者連絡会」と「子どもの権利を守る会」=2020年12月28日、文科省
記者会見する「全国学校ハラスメント被害者連絡会」と「子どもの権利を守る会」=2020年12月28日、文科省
Kasane Nakamura

法改正見送りに抗議の声

署名キャンペーンを行った「全国学校ハラスメント被害者連絡会」と「子どもの権利を守る会」は、12月28日、今回の法改正断念に対して抗議の声明文を発表した。

わいせつを過去にしたことのある人に教員免許を再交付しないよう求めるとともに、わいせつ行為をした教員を再発防止のための治療プログラムにつなぐことや、教員免許の取得・更新時に無犯罪証明書を提出させることなどを提案している。

両会共同代表の大竹宏美さんは記者会見で「アルコール中毒ならアルコールを近くにおかないなど、再び加害することを防ぐ仕組みは必要だ。なぜ加害者ばかりが保護され、被害者が守られないのか」と語った。

会見には、共同代表の郡司真子さんも「二次加害が怖いから声を上げられないケースがある」と指摘。「被害者は悪くない、加害者が悪い、ということを学校で学んでほしい」と性教育の必要性を訴えた。

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