なぜブックオフが花を売るのか。規格外の花「チャンスフラワー」を店頭で販売する理由

チャンスフラワーはブックオフが「サステナビリティ業」に生まれ変わるための「チャンスアイテム」になるかもしれない。
ブックオフ八尾永畑店での販売風景(2020年7月)
ブックオフ八尾永畑店での販売風景(2020年7月)
サステナブル・ブランド ジャパン

中古本・中古家電販売チェーン「ブックオフ」を展開するブックオフコーポレーション(神奈川・相模原)は、生花販売やイベント企画を営む株式会社hanane(東京・港)と協力し、ブックオフ店頭でhananeが提供する規格外生花「チャンスフラワー」の販売を一部店舗で始めた。古書販売が伸び悩むなか、「規格外」に注目した生鮮品の販売は循環型社会への思いが込められている。ブックオフにとってサステナビリティ経営に大きく踏み出す第一歩となりそうだ。(いからしひろき)

「規格外の花」が生み出した「チャンスとシナジー」

きっかけは2019年の秋、BSテレ東の「田村淳のBUSINESS BASIC」という経済報道番組に、ブックオフの堀内康隆社長が出演したこと。各業界のトップランナーと注目の新進企業が公開討論を行う同番組の観客席に、株式会社hananeの広報担当・河野紗也さんがいた。観客席からビジネスの提案を行うというコーナーで、河野さんは堀内社長にこう直談判した。

「ブックオフでチャンスフラワーを売らせてもらえませんか?」

チャンスフラワーとは、花市場の基準から外れ、通常であれば捨てられてしまうところを格安で販売される「規格外」の生花だ。とはいえ、茎の太さや長さ、花の輪の大きさなどがまばらなだけで見た目は綺麗な物ばかり。しかし生花の全生産量のうち約2〜3割がこれに当たり、廃棄されている(hanane調べ)。

このチャンスフラワーに目をつけ、より多くの人が花に関心を持つきっかけづくりに活用しようと、販売と啓蒙活動に取り組んできたhananeだったが、店舗は虎ノ門に一軒あるのみ。一軒ずつ増やしていく方法ではあまりにもスピード感に欠けた。

なんとか効率的にチャンスフラワーを広める方法は無いものか──。そう模索していた同社にとって、直営・FC加盟店合わせて全国800店を超える日本最大手のリユースチェーンは、「使えるものを再利用して生活を豊かにしたい」というhananeの事業への思いに照らしても、うってつけの協業相手だった。

ブックオフにとってもそれは一筋の光明だった。本業である古書販売の主導権は、ネットのフリマサイトに完全に取って代わられている。古書の他にも家電や衣料、スポーツ用品、貴金属などあらゆる商品を取り扱ってきたがそれも限界がある。新しい分野に踏み出さなければ商機=勝機を見いだせない所に追い込まれていた。その点、生花のような生鮮品は、これまで全く扱ったことのない新ジャンル。難しいが、だからこそチャンスがあると堀内社長は考えた。

「うちも花を販売してみたかったんです」

と、その場で返答。以後、トントン拍子で話が進み、年明け2月にはテスト販売、7月には関西2店舗で期間限定販売を行った。堀内社長から実務を託された、同社取締役でSDGs担当の森葉子氏さんはこう言う。

「もともと生き物というか生花には興味がありました。しかしどうすれば良いか全く知見が無かったので、(番組での河野さんの提案は)とても良いきっかけでした。社内でSDGsを推進していく上でも好機。シナジーを必ず生み出せると確信しました」

ブックオフにとってhananeとタッグを組むことは、単に取り扱い商品を増やすことに留まらない。すでに同社は傷んだ本を廃棄するのではなく古紙にリサイクルしたり、流行の早い女性服を海外に輸出して売り切りロスを削減したり、サステナビリティの取り組みを行っている。しかしまだまだ世間への打ち出しが弱い。規格外の花であるチャンスフラワーを扱うことは、それを補うことに繋がるのだ。

「安いから、物を高く買い取ってくれるからではなく、ブックオフに足を運ぶこと、そのことに価値があるというふうにして行かなくてはならない」(森さん)

「循環型社会への変化のために利用してほしい」――

チャンスフラワーはブックオフがリユース業から「サステナビリティ業」に生まれ変わるための「チャンスアイテム」になるかもしれない。hananeにとっても、ブックオフと協業することで大きなシナジーを生み出すことが可能だ。ブックオフの店頭を借りて、2月にてテスト販売、7月に期間限定販売、そして9月からは同店舗で継続販売(ただし月1回の週末限定)を行っているhananeの石動力社長は、すでに手応えを感じている。

「単に安いというだけでなく、売れずに捨てられてしまう花があることを伝えるのが目的。(リユース品を売り買いしに来る客が中心の)ブックオフさんの店頭は、そうしたメッセージを伝えやすい場所だと実感しています」

チャンスフラワーの販売について語る森さん(左)と石動さん(右)
チャンスフラワーの販売について語る森さん(左)と石動さん(右)
サステナブル・ブランド ジャパン

ブックオフの森さんも、現場レベルでの変化をすでに感じている。

「最初は『なぜブックオフが花を売るのか?』と社内でも言われたのですが、『物の寿命を延ばすという点では共通だ』と説明すると納得してもらえました。不要な物を繰り返し使うリユースだけでなく、物を長持ちさせるリデュースという発想もあるんだと、従業員に浸透して行ってくれると良いですね」

ブックオフは、このチャンスフラワーをきっかけに、賞味期限間近の食品の取り扱いも一部店舗で試験的に始めた。サステナブルな方向へ完全に舵を切った同社に、本格的な循環型社会へと向かう過程で、期待される役割は少なくない。それは同社も覚悟の上だ。

「真の循環型社会をすぐに実現するのは難しいでしょう。しかしその過渡期において、なるべくゴミを出さない、無駄な資源を使わないという生活の実現のために、ぜひわれわれブックオフを利用してほしい。そのために今後は、行政などにも働きかけるなどして真剣に取り組んで行きたいと考えています」(森さん)

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」「東京もっこり散歩」(いずれも自由国民社)がある。

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