河井案里氏有罪判決、極限まで追い詰められた克行氏、公判での真相供述で“大逆転”を!

案里氏判決で、極限まで追い詰められた克行氏にとっては、本当に、最後の最後のチャンスだ。
自民党の河井案里参院議員=2020年01月15日
自民党の河井案里参院議員=2020年01月15日
時事通信社

2019年7月の参院選広島選挙区をめぐる公職選挙法違反(買収)の罪で起訴されていた参院議員・河井案里氏に対して、昨日1月21日、東京地裁で、判決が言い渡された。

検察の求刑「懲役1年6月」に対して、「懲役1年4月・執行猶予5年」という判決だった。

「執行猶予5年」というのは、「実刑ギリギリの執行猶予」を意味する。地元議員5人に現金を渡した起訴事実のうち、4人については公選法違反が認められて有罪、1人については無罪とされたが、その理由も、夫の河井克行氏(元法務大臣)が案里氏とは別の人物を通じて現金供与したことについて「共謀」したとする起訴について、「共謀」が否定されたものだ。

克行氏は、当初は、案里氏と併合起訴され、同じ公判で審理されていたが、昨年10月に弁護人を全員解任し、それによって公判審理ができなくなったため、公判が分離され、別々に裁判が行われている。

案里氏に対する判決は、克行氏の裁判に決定的な影響を与える。同じ裁判体の判断であり、克行氏の事件も、案里氏の判決で公選法違反を認めたのと同様に判断されることになると考えられるからだ。

このままであれば、合計100人に対する合計2901万円の現金供与の罪で起訴されている克行氏は、そのほとんどについて有罪、量刑も3年以上、執行猶予はつかず「実刑」になることは確実だ。

この事件については、昨年4月に【河井前法相“本格捜査”で、安倍政権「倒壊」か】で最初に取り上げ、初公判が開かれた昨年9月には、【“崖っぷち”河井前法相「逆転の一打」と“安倍首相の体調”の微妙な関係】で、克行氏の罪状認否、検察の冒頭陳述、克行氏の弁護人冒頭陳述に基づいて解説した。

初公判で、克行氏の弁護人は、「党勢拡大・地盤培養のための寄附として行われたもので、投票及び票の取りまとめのための現金供与ではなかった」として無罪を主張した。

確かに、検察が、現金受領者側について刑事立件すらしていないという、公選法違反の刑事実務からは考えられない対応を行っていることは、現金受領者の証言の信用性を揺るがすもので、検察の主張・立証の重大な「弱点」だ。

また、供与金額の3分の2以上を占める「県議会議員・市町議会議員・首長らへの現金供与」は、供与の時期が選挙から離れたものが多く、選挙活動ではなく政治活動に関する寄附であるとの弁解も、一定の合理性がある。

少なくとも、従来の検察の実務では、選挙から離れた時期の供与は、買収罪では起訴して来なかったのであり、公選法違反の成否の判断は微妙だと考えられた。

しかし、実際の現金供与の際のやり取りには「党勢拡大・地盤培養」についての具体的な言葉があるわけではないため、克行氏の主張は認められず、起訴事実のほとんどが有罪となる可能性が高い。「統括主宰者」に対する法定刑の上限である4年程度の求刑が行われ(併合罪加重で6年まで可能ではあるが)、判決は、3年か3年6月の実刑ということになる可能性が高いというのが、上記記事で述べた克行氏公判の見通しだった。

今回の案里氏の判決は、克行氏の起訴事実の「県議会議員・市町議会議員・首長らへの現金供与」と同様の事実に対して公選法違反をあっさりと認めたもので、これによって、克行氏の無罪主張が認められる可能性は皆無に近くなったと言える。

克行氏が実刑判決を回避する唯一の方策は、公判審理の最後に行われる被告人質問で、「多額の現金買収を行うことにした経緯とその資金」の真相について、包み隠さず、真実を供述することだ。

「安倍政権継承」新総裁にとって“重大リスク”となる河井前法相公判【後編】》で述べたように、安倍氏には、溝手氏に対する積年の恨みがあり、安倍氏にとっては、溝手氏が野党と2議席を分け合う楽な選挙で当選し、参議院議長になってしまう事態は何としても避けたかったはずだ。また、菅氏は菅氏で、案里氏を出馬させ、岸田派の重鎮である溝手氏を落選させれば、安倍首相後継争いで岸田氏に対する優位を強烈にアピールできる。そういう意味で、安倍・菅両氏には、案里氏を2人目の候補として出馬させて当選させ、溝手氏を落選させようとする十分な動機があった。

「急遽、案里氏を参院選の候補として自民党で公認したものの、自民党広島県連が組織を上げて支援する溝手氏が圧倒的に有利だったため、その極めて厳しい状況を打開するためには、現金を配布して案里氏の地盤培養を図るしかないとの認識を、克行氏が、安倍氏・菅氏と共有し、自民党本部からの巨額の選挙資金を原資として、現金配布を行った」という私の推測に、何がしかの真実があるのであれば、克行氏にとって、その真実を、勇気を持って公判で供述することが、実刑を回避する唯一の手段だ。

もし、克行氏が真実を話せば、克行氏を厳しく処罰すべきとの声は沈静化し、むしろ、真相を供述したことを評価して、寛大な判決を期待する声が高まることも考えられる。それは、自らの裁判での執行猶予に向けての「大逆転」になるとともに、日本の政治にも大きな影響を与える。

日本の政治状況は、安倍氏・菅氏の政治権力が盤石のように思えた昨年9月の初公判の時とは大きく異なっているということを、克行氏は認識すべきだ。

安倍氏は首相を辞任、その後、検察捜査で明らかになった「桜を見る会」前夜祭をめぐる虚偽答弁と、その合理的な説明が全くできない惨状に、政治家としての信頼は地に堕ちている。

その安倍氏の後継として首相になった菅氏も、コロナ感染対策に絡んで失態が続き、首相として絶望的な答弁能力・説明能力も露わになり、政権発足当時の高支持率も崩落に近い状況で、政権は危機的な状況に至っている。

克行氏は、実刑判決によって政治生命が終焉し、「憲政史上最悪の法務大臣」の汚名に甘んじるのか、それとも、日本政治を激変させる「公判での真相告白」で歴史に名を残すのか、岐路にあるといえる。

案里氏判決で、このままでは実刑を免れる可能性は皆無となり、極限まで追い詰められた克行氏にとっては、本当に、最後の最後のチャンスである。

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