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2021年02月01日 07時45分 JST

“とりあえず中国を叩く”トランプ流はこう変わる。『人事』から読み解くバイデン政権の対・中国政策

「トランプ氏の経済安保政策は“とりあえず中国を叩けばいい”という節があり、若干雑な部分があったことは否めません」(井形彬・多摩大学大学院客員教授)

アメリカのバイデン政権はどのように「中国」と相対するのか。

4年間のトランプ政権が終わり、ホワイトハウスの中身が入れ替わっても議論は尽きない。強硬路線を採り続けるという予測が根強いが、SNSを見るとトランプ氏支持者からは「中国に媚を売るのでは」との声も上がっているようだ。

注目したのは「人事」だ。外交・安全保障分野に登用された高官の発言や実績を見れば、バイデン政権の本音も透けて見えるはず。

そこでアメリカ政治やインド・太平洋の国際政治が専門の井形彬(いがた・あきら)多摩大学大学院客員教授に、人事をテーマにバイデン政権の対中政策を予測してもらった。

Fumiya Takahashi
多摩大学大学院の井形彬・客員教授

■外野にいた4年間で“変化”

「外交・安全保障チームの高官を見ると、以前のオバマ政権のメンバーが多く入っています」井形さんはこう切り出す。事実、バイデン氏のチームは「第3次オバマ政権」とも揶揄されるほど。そのオバマ政権は、トランプ政権よりも中国に融和的だったと言われる。

「オバマ政権の対中政策はよく“コンゲージメント”と評価されます。コンテインメント(封じ込め)とエンゲージメント(関与政策=自分たちの輪に引き込む手法)を足して2で割ったような政策という意味です」

いきなり結論が出そうだ。オバマ政権時代の高官が戻って来れば、バイデン政権も同じ傾向になるのではないか。

しかし、井形さんはトランプ政権の4年間で大きな“変化”があったと指摘する。

「アメリカでは政権交代が起きるたび、閣僚や高官だった人が大学やシンクタンクに移り、外野から政策提言をするようになります。トランプ氏が大統領になったとき、オバマ政権にいた人たちもそうなりました。彼らの政策提言を読むと、当時はハト派だった人がガラッと変わり、かなり対中強硬的になっているのです。間違いなくバイデン政権でも、対中強硬というトランプ政権の大きな流れを引き継ぐことになると思います」

バイデン政権でも「対中強硬」が柱になるという。しかし、そのやり方はトランプ流とは異なりそうだ。

■ポンペオ氏に負けず劣らず

井形さんが最初に挙げたポイントは「人権」だ。

中国は、香港で国家安全維持法を施行するなどし民主派への圧力を強めるほか、ポンペオ元国務長官はウイグル族政策を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定。中国側の反発を呼んでいる。

人権面では、バイデン氏自身が少数民族問題で習近平・国家主席を「凶悪犯(thug)」などと批判したことがあるほか、カマラ・ハリス副大統領も人権関連の法案を共同提案するなどしてきた。

発言が注目されているのが、国務長官に抜擢されたアントニー・ブリンケン氏だ。井形さんは次のように解説する。

「50人を超える香港民主派が逮捕された時、ツイートで“北京による民主派の取り締まりに反対する”とメッセージを出したほか、ウイグル問題についても“ジェノサイド”だと認識しています。今のところ、ポンペオ氏に負けず劣らず強硬的な姿勢を示しています」

Pool via Getty Images
アントニー・ブリンケン国務長官

■ファーウェイ制裁「やり過ぎ」

次のポイントは「経済安全保障」。経済制裁や投資規制など経済上の手段を通じて安全保障に関わる利益を獲得することや、最先端技術の流出阻止など防御的な取り組みも含まれる。

バイデン政権の対中政策を担う一人が、新設されたインド・太平洋調整官に就くカート・キャンベル氏だ。キャンベル氏はこれまでにアメリカの中国への関与政策を否定し、「幻想から決別せよ」と主張している。

REUTERS
カート・キャンベルインド太平洋調整官

井形さんは、こうした高官に加え、より下のレベルの人事にも注目する。

「実際に政策を実行していくのは長官レベルよりも下です。ナンバー1,2ではなく、3,4,5くらいのレベルに、米中の経済安保を熟知しているメンバーが多く入っています。

例えばキャンベル氏らが創設したシンクタンク・CNAS(新アメリカ安全保障センター)から、米中の経済安保を研究し続けてきたピーター・ハレル氏がNSC(国家安全保障会議)のシニア・ディレクターに選ばれました

財務省にはエリザベス・ローゼンバーグ氏が財務副長官顧問として入りますが、彼女は経済制裁の専門家です。またCSET(Center for Security and Emerging Technology)という先端技術について研究するシンクタンクがありますが、そこからも多くの人材が省庁に入ります」

Center for a New American Security 公式サイトより
財務副長官顧問となるエリザベス・ローゼンバーグ氏(CNASの公式サイトより)

人材が充実することで、実際の政策にも変化が起きる可能性がある。

「トランプ氏の経済安保政策は“とりあえず中国を叩けばいい”という節があり、若干雑な部分があったことは否めません。これがピンポイントかつスマートになってくるだろうと思います」と井形さんは話す。

例えば中国の通信機器大手・ファーウェイへの制裁。トランプ政権ではアメリカ政府の調達網からファーウェイ製品を排除したのに加え、電子部品に欠かせない半導体の供給も規制した。

「政府機関が情報を抜かれるリスクを考えると、ファーウェイ製品を許可できないのは情報安全保障上、理解できます。しかし、中国でスマホとして使われる汎用性の高い半導体まで禁止していて、これはアメリカの安全保障に資するのでしょうか。おそらくやり過ぎではないでしょうか」

影響は日本企業にも及ぶ。代表例が半導体大手・キオクシアだ。ファーウェイ向けの輸出ができなくなり、2020年秋に予定していた上場を取り消さざるを得なくなった。

「こうした問題は私たち日本の専門家もアメリカ側に伝えています。このときに話す相手がCNASなどシンクタンクに在籍する元オバマ政権のメンバー。問題意識を共有してきた人たちがバイデン政権に入りました」

■中国との協調も

一方で、対中国という面では課題もある。中国との国際協調が重要になる気候変動対策だ。

「バイデン氏や他の高官も、気候変動対策では中国や場合によっては北朝鮮とも協力できると発言しています。競争できるところは競争し、協調できるところは協調する。しかしこれは“言うは易し、行うは難し”だと思います」と井形さん。

キーパーソンとして挙げたのはジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官だ。

REUTERS
ジェイク・サリバン氏。国家安全保障担当の大統領補佐官を務める。

「トランプ政権誕生前に彼と話したことがあります。ヒラリー・クリントン政権(ヒラリー氏がトランプ氏に選挙で勝っていた場合)の5大脅威は何かと聞いたら、テロやロシア、気候変動、中東情勢などを挙げ、最後に“うーん、チャイナ”と出てきた。中国の優先度が低くショックだった記憶があります。ほかにも気候変動担当のジョン・ケリー大統領特使も中国との協力に重きを置いているように見えます」

実際の政権運営は、「競争」と「協調」の使い分けがカギになりそうだ。

「対中強硬派が多いため、気候変動問題のために、安全保障面で大きな譲歩をすることはないと思います。ただ、高官が全員強硬派だからバイデン政権は中国に強く出続ける、というのも違うと思います」

■対「共産党」よりも対「権威主義」

最後に欠かせないキーワードは「国際協調」だ。バイデン氏や高官も度々、政権運営の柱の一つとして言及する。

「バイデン氏は2021年中に“民主主義サミット”を開催すると明言しています。具体的な内容はまだ曖昧ですが、人権や民主主義といった価値観にフォーカスするものになるでしょう。

ただアメリカ国内の議論を見ると、対中国という人もいる一方、対権威主義という見方もあります。中国共産党だけでなく権威主義が問題だと。中国をピンポイントとせず、権威主義に対抗するというニュアンスになる可能性もあると思います」

人権では譲歩せず、経済安全保障ではよりスマートに...バイデン政権がどう中国に相対するか、骨格が見えてきた。一方で、目先の最優先課題は経済復興やコロナ対策などの国内問題。対中国政策がどのように形となって現れるか、時間をかけて注視する必要がありそうだ。