BLOG
2021年03月19日 11時30分 JST | 更新 2021年03月19日 11時30分 JST

コロナ禍で、さらに追いやられるトランスジェンダーの人たちの声

「本当に悔しかった。無力感を覚えました」。アジア太平洋地域3カ国のトランスジェンダー活動家に聞きます。

新型コロナウイルスの猛威により、私たちの生活は一変し、その影響は経済危機、社会危機に及んでいます。そして、すでにある人権課題が顕在化あるいは深刻化し、もともと弱い立場にある人たちがさらに追い込まれるという人権の危機も招いています。

性的指向や性自認による差別や偏見にさらされてきた人たちも、さらなる困難に直面しています。今回のブログでは、アジア太平洋地域で暮らすトランスジェンダーの人たちの苦境を取り上げます。 

 

トランスジェンダー活動家に聞く、アジア太平洋地域での状況【インタビュー】

「本来なら政府がやるべきことなのに」(ムーン・アリさん/パキスタン)

ムーン・アリさん

東南アジアではトランスジェンダーが就くことのできる職業は非常に限定的です。パフォーマーとして日給で生計を立てている人も多い。生きていくためには性産業に従事することを余儀なくされる人もいます。新型コロナウイルスで、こうした仕事ができなくなり、収入が絶たれました。ホルモン療法を受けている人は薬が買えなくなり、食料品の購入や家賃の支払いにも事欠く状況です。

パキスタンでは、トランスジェンダーの活動家が協力しあって、衛生、消毒、マスクなどに関する基本的な情報を提供しています。しかし、本来これは政府の責任であり、活動家が政府の失策の尻拭いをする必要はないはずです。

政府は、パンデミックがトランスジェンダーにもたらした苦難に真摯に目を向け、改善に取り組んでいってほしいです。

 

「身分証の提示が辛い」(ブレンダ・アレグレさん/フィリピン) 

ブレンダ・アレグレさん

東南アジアのトランスジェンダー女性の主な生計手段は、セックスワークや美人コンテストへの参加しかありません。しかし、ソーシャルディスタンスや外出制限、移動の禁止といった感染防止対策で、その収入源さえも経たれてしまっています。 

フィリピンでは法的に性別を変えることはできません。そのせいで、心無い言葉を浴びせられることもあります。外出制限中、必需品を買うために家を出るには身分証明書を必ず提示しなければならないのですが、私の身分証明を見た警備員に、「本物の女性だと思った」と言われたことが何度もあります。その時は本当に悔しかった。無力感を覚えました。

 

「LGBTIへの呪いだといわれて」(ジョーイ・マタエレさん/トンガ)

© Pohiva Tevita Tu'amoheloa
ジョーイ・マタエレさん

太平洋諸島で暮らす人たちのなかには、新型コロナウイルスはLGBTIの人たちがもたらした呪いであると信じている人が少なくありません。私の国トンガでもそう。こうした憎悪に満ちた偏見がもとで、トランスジェンダーは、口汚くののしられ、嫌がらせを受け、辛い思いをしています。パンデミック前から、理不尽な扱いを受けてきましたが、今は身の危険すら感じるほどです。

また、太平洋諸島のトランスジェンダーの主な収入源は接客業ですが、新型コロナで海外からの観光客などが減り、暮らしが非常に苦しくなっています。

 

差別を禁じる法律や制度があれば…

トランスジェンダーを取り巻く状況がパンデミック下で厳しくなっているのは、アジア太平洋地域だけではありません。世界各地で差別や憎悪が強まり、トランスジェンダーだからという理由による殺人も増えています。

日本でも、外出自粛によって家庭内暴力が増加する中、トランスジェンダーの人たちの身の危険も高まっています。市民団体などが、孤立しがちなLGBTに対し、オンラインでイベントやサポートなどを行っていますが、家族に知られることをおそれて参加をためらう人も少なくありません。安心して自分らしくいられる居場所がなくなっているのです。

もちろん、新型コロナで状況が厳しいのはトランスジェンダーだけではありませんが、日頃から弱い立場に置かれている人たちは、その影響が極めて大きいのです。政府にはパンデミック下でもすべての市民を守り、権利を保障する義務があります。トランスジェンダーの人たちを置き去りにしてはなりません。 

(2021年02月26日のアムネスティ日本掲載記事「新型コロナウイルスのパンデミックで、さらに追いやられるトランスジェンダーの人たち」より転載)