「日本は無理、と言われた」女性役員3割を目指す30%クラブ創設者が、それでも自信をもつ2つの理由

「TOPIX100の企業で、2030年までに女性役員比率を30%に」という目標を掲げる30%クラブジャパン。目標達成への自信を見せる創設者の只松美智子氏に聞いた。
「30%クラブ・ジャパン」を創設した、デロイトの只松美智子氏
「30%クラブ・ジャパン」を創設した、デロイトの只松美智子氏
デロイト提供

「クリティカル・マス(決定的多数)」と呼ばれる数字がある。

ハーバードの経営学者が提唱した法則で、集団の構成比率のうち3割を超えると、意思決定に影響力を持つようになるという理論だ。3割を超えると、変化が連鎖し、組織の文化を変えるほどの力を持つとされる。

2019年5月、企業の役員に占める女性比率をクリティカル・マスの3割に引き上げることを目標とした活動が日本で始まった。イギリス発のキャンペーンの日本版「30%クラブ・ジャパン」は、「東証株価指数(TOPIX)100の企業で女性役員比率を2030年末までに30%」という目標を掲げる。

創設者で、デロイトトーマツコンサルティングのシニアマネジャー・只松美智子氏は「30年より前に達成できるのではないか」と期待する。

理由にあげるのが、ESG機運の高まりとZ世代の台頭だ。

『日本では無理なんじゃないか』から始まった

同クラブは資生堂の魚谷雅彦CEOをチェアに、62人(2021年3月25日現在)の企業トップが集まる。

発足から半年足らずで、最初のマイルストーンだった「2020年に女性役員比率10%」という目標を1年前倒しして達成。2020年には12.9%と、そのスピードを加速している

30%クラブの発足イベント。チェアの魚谷雅彦・資生堂社長(中央)と、ヴァイスチェアのダグラス・ハイマス氏(NYメロン銀行)と後藤順子氏(デロイト トーマツ グループ)
30%クラブの発足イベント。チェアの魚谷雅彦・資生堂社長(中央)と、ヴァイスチェアのダグラス・ハイマス氏(NYメロン銀行)と後藤順子氏(デロイト トーマツ グループ)
Kasane Nakamura/Huffpost Japan

だが、2018年、只松氏がイギリスの30%クラブ本部に日本での立ち上げを申し出た際、意外にもイギリスからはネガティブな反応が返ってきたという。

30%クラブを知って、素晴らしい取り組みだと思い、日本でも今やらなくてはと感じました。ところが、思った以上にネガティブで…。『日本では無理なんじゃないか』と言われたんです

実は、過去にも日本でのローンチが検討されたことがあったのだが、うまくいかなかったためだ。

でも、私には自信がありました。失敗した当時はSDGsがまだ採択されていなかったころ。ESGへの関心も薄かった。今はESGもSDGsも浸透してきていたし、私自身も組織の立ち上げを経験していたので、やれるから挑戦させてくれ、と頼みこみました

30%クラブ発足前には24社あった女性役員がゼロの企業は、2020年には8社にまで減った。

2030年までに女性役員を30%に」という目標を掲げて足並みを揃える経団連も、6月には副会長に初めて女性が就任する予定だ。財界のトップ層が着実に変わりつつある。

「30%クラブジャパン」公式サイトより
「30%クラブジャパン」公式サイトより
30%クラブ公式サイト

役員の女性比率に意識が低い企業は、資金調達に困っていく

一方、上場企業全体に目を向ければ、女性役員比率は6.3%。女性役員がゼロという企業は5割もあるというデータもある。この差をどう見ればいいのだろうか。

只松氏は「これからは、どの企業もESG経営(環境、社会、ガバナンスに配慮した経営)をやらざるを得ない」と指摘する。

ESGはますます浸透していくと確信しています。特にジェンダー視点での投資は進んでいくでしょう。なぜなら、私たちには10年以上にわたるデータがあるからです。リーマンショックの反省から、私たちはさまざまなデータを色々な角度から分析してきました」

10年以上のデータから何が言えるかというと、意思決定層に女性がいる企業は、そうでない企業と比べて株価のパフォーマンスや利益率が高い。それだけではありません。時間がたてば経つほどその差が大きくなっているのです」

欧米を中心に広く浸透しているESG投資は、日本でも遅ればせながら投資残高が急拡大している。

三井住友DSアセットマネジメントのレポートによると、新型コロナ感染拡大により、世界的に環境への意識が変わるなどESG投資への資金流入は今後も拡大傾向が続くとみられる。

中長期的な企業価値を見極めるESG投資において、リーダー層のジェンダー平等が達成されている企業ほどパフォーマンスが良く、時間とともに二極化していくと証明されたことの意味は重要です。今後は力を入れていなかった企業も、役員のジェンダーバランスを意識しなければ資金調達に困っていくでしょう

若い世代がクリティカル・マスを越えれば、変化は一気に加速する

ESG機運の高まりに加えて、 只松氏がもう一つ希望の芽だと捉えているのが、Z世代の台頭だ。

zoomで取材に応じる只松美智子氏
zoomで取材に応じる只松美智子氏
zoomスクリーンショット

人口推計(2020年9月1日現在の確定値)によると、15歳以上の人口に占めるZ世代とミレニアル世代の合計(15~39歳)の割合人口は29.2%。クリティカル・マスの30%まであとわずかに迫っている。

SDGsやESGに関心が高い若い世代が社会にどんどん進出していく。特にZ世代は情報発信ツールの使いこなし方が上手なので、存在感はますます大きくなると思います

東京オリパラ組織委の森喜朗前会長による女性蔑視発言に抗議したり選択的夫婦別姓を認めるよう求めたり、社会課題やジェンダー平等に対して声を上げるZ世代の存在感は大きくなっている。

就職活動の面接で企業のサステナビリティへの取り組みを質問する学生もいるという。

Z世代は将来のお客様であり、従業員候補。企業も無視できない存在です。発信する若い世代は増えてきているし、新しい価値観を持った世代がクリティカル・マスを越えれば、変化は一気に加速するのではないでしょうか

30%クラブとは?

企業の役員に占める女性比率を30%に引き上げることを目指したイギリス初のキャンペーン。世界各国に展開し、日本では2019年5月に活動を開始した。TOPIX100の企業で役員の女性比率を2030年までに30%に引き上げることを目標としている。機関投資家からなる「インベスター・グループ」、TOPIX100とTOPIX400の企業リーダーが集まる「社長会」、20年12月にスタートした「大学ワーキンググループ」など、複数のサブグループも活動する。

(取材・文:中村かさね/ハフポスト日本版)

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番組概要:

配信日時:3月25(木)夜9時~

配信URL: YouTube

https://youtu.be/s9L9UplPKQ4

配信URL: Twitter(ハフポストSDGsアカウントのトップから)

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