ジェンダーギャップ指数2021、日本は120位 G7最下位は変わらず低迷

世界経済フォーラム(WEF)が国別に男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ指数2021」が発表された。日本は調査対象となった世界156カ国の120位という順位だった。

男女格差の大きさを国別に比較した、世界経済フォーラム(WEF)による「ジェンダーギャップ指数2021」が3月31日に発表された。

日本は調査対象となった世界156カ国の120位だった(前年121位)。主要7カ国(G7)では引き続き最下位。特に衆院議員の女性割合が低いことなど、政治参画における男女差が順位に影響した。

ジェンダーギャップ レポート2021よりハフポスト作成
ジェンダーギャップ レポート2021よりハフポスト作成
HuffPost Japan

WEFは世界の政財界のリーダーが集う「ダボス会議」を主催する国際機関。ジェンダーギャップ指数は、経済・教育・医療・政治の4分野14項目のデータで、各国の男女の格差を分析した指数。各分野での国の発展レベルを評価したものではなく、純粋に男女の差だけに着目して評価をしていることが、この指数の特徴だ。ジェンダーギャップを埋めることは、女性の人権の問題であると同時に、経済発展にとっても重要との立場から、WEFはこの指数を発表している。

4分野の点数は、いくつかの小項目ごとの点数で決まる。小項目を集計する際は、標準偏差の偏りを考慮したウェイトをかけている。 ただし、4分野の点数から算出される総合点は、4分野の平均になっている。スコアは1を男女平等、0を完全不平等とした場合の数値で、数値が大きいほど男女格差の解消について高い評価となる。

日本が今年も低い理由は?

日本の順位は前年から1位上がって120位。しかし、低い順位にとどまっていることには変わりない。その理由は今年も経済と政治の分野のスコアが著しく低く、2分野が共に100位以下になっているからだ。経済は117位(前年は115位)、政治は147位(前年は144位)だった。

一方、教育と医療アクセスの分野では、日本にジェンダーギャップはほとんどないとの評価をされているが、他の多くの国も高いため、差はつかなかった。

政治参画

ジェンダーギャップ指数2021「政治」
ジェンダーギャップ指数2021「政治」
グローバルジェンダーギャップレポートよりHuffPost Japan作成

「政治的な意思決定への参画」分野の評価にあたっては、国会議員(衆院議員)の女性割合(140位、スコア0.110)、女性閣僚の比率(126位、スコア0.111)、過去50年の女性首相の在任期間(76位、スコア0)の3つの小項目が使用されている。

調査対象となる衆院議員の女性割合は9.9%。また、閣僚の女性割合は10%(列国議会同盟(IPU)2021年1月発表より)と少ないこと、これまで女性首相が誕生していないことが、日本が政治分野で低い順位の要因になっている。

日本は女性が参政権を手にして初めてとなる、1946年の衆院選で女性議員が39人(8.4%)誕生したが、その後低迷。90年代半ばまでは1〜2%台、2000年代に入って少しずつ増えたが、現在もまだ10%近くにとどまっている。

これは、G7で最低の数値だ。

ジェンダーギャップ指数の算出の元データにもなっているIPUの報告によると、世界各国の国会議員における女性の割合は25.5%(2020年)。1995年(11.3%)から倍以上になっている。

また、2020年に国政選挙があった57カ国のうち25カ国が、議席や候補者の一定割合を女性に割り当てるクオータ制度を導入したことも、女性議員の割合の上昇に寄与している。

日本は「政治分野における男女共同参画推進法」が2018年に成立し、政党が男女の候補者を均等にする努力義務が課せられたが、実際の候補者数はまだ均等には程遠い。

施行後初の国政選挙になった2019年の参院選で、候補者全体に占める女性の割合は28.1%だった。女性割合をほぼ均等かそれ以上にしたのは社民、共産、立憲だけ。逆に自民は14.6%、公明は8.3%だった。

経済的機会

ジェンダーギャップ指数2021「経済」
ジェンダーギャップ指数2021「経済」
グローバルジェンダーギャップレポートよりHuffPost Japan作成

「経済的機会」分野の小項目別の内訳では、収入での男女格差(101位、スコア0.563)、管理職ポジションに就いている数の男女差(139位、スコア0.173)、専門職や技術職の数の男女差(105位、スコア0.699)などが大きく影響している。

一方で、労働参加率の男女差や同一労働での男女賃金格差は、他の項目と比べた格差は比較的小さくなっている。

世界全体での評価は?

ジェンダーギャップ指数2021で1位、世界で最も男女平等に近いと評価を得たのはアイスランド。フィンランド、ノルウェー、ニュージーランド 、スウェーデンが続く。

世界全体の傾向としてWEFは、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行で、世界のジェンダーギャップはさらに広がったと総括している。

その原因については、経済活動の停滞で、男性よりも高い割合で女性が失業していること、外出禁止の影響で女性の家事負担が増えていることなどと分析している。

日本でも新型コロナの影響で、非正規雇用の女性たちに深刻な影響があったことが判明している。

現場で感じるジェンダーギャップは「気絶級」

企業や子育ての現場で感じるジェンダーギャップとは。

リスペクトイーチアザー」社代表として、企業の女性活躍やD&I推進コンサルタントを務め、保育所の待機児童問題など子育て関連政策に取り組む市民団体「みらい子育て全国ネットワーク(miraco)」でも代表として活動する天野妙さんに聞いた。

天野妙さん
天野妙さん
天野妙さん提供

ーージェンダーギャップ指数、120位という日本の順位を見て何を感じますか。

日頃の実感通りという感じです。女性活躍という言葉だけは広まりましたが、コンサルタントをしていると「CSR(企業の社会的責任)」の文脈で捉えている企業がまだまだ多いと感じます。つまり、女性活躍は大切と理解はしているけれど、優先順位が低い。事業活動の足を引っ張るという対立関係にあるとさえ思っている経営者も多くいます。制約なく長時間働いてもらえる男性の方が「使いやすい」。すなわちそれが「優秀」ということで、「優秀」な人を登用したら男性ばかりになってしまったけれど、それの何が問題なんですか?という感じで、目先の利益だけを考えて判断してしまう。

起床時間から13時間経つと人の集中力が限界に達し、15時間を超えると酩酊状態と一緒。という話は有名です。「優秀」の定義は果たして長時間働けることだけなのか、という点を今一度問うべきです。

東証一部上場企業904社を対象にしたBCGの分析では、女性役員の割合が多い企業はROE(自己資本利益率)やEBITDA(金利・税金・償却前利益)などが高く、利益を出している企業が多いことがわかり、レポートで「女性の社会参加の拡大が競争優位性の確保に寄与することは明確である」と言い切っています。

世界の潮流に完全に取り残されているし、今や日本政府までが既に目指している方向性とも全く違いますよね。女性の能力を十分に活かすことをはじめ、社内に多様性を維持して企業の持続的発展や成長を目指すという本質が全く理解されていないと感じます。

Twitterを眺めていると、みんなが森喜朗元首相の女性差別発言に怒っていて、社会はずいぶん変わったように感じてしまいます。私も仲間と活動していると、そういう錯覚をしそうになる。でも現実は全然違いますよ。

もし自分の周囲を見回して、ジェンダー平等がもう達成されていると感じているならば、それは自分と現実社会との距離が銀河系と地球ぐらい離れていると思った方がいいかもしれないですね。企業と仕事をしていると、経営者層の男性たちからは「気絶級」の発言が次々出てきますから。それがこのジェンダーギャップ指数という数字に現れていると思います。

ーーどうしてそんなに認識の違いが生まれてしまうのでしょうか?

ジェンダー不平等の問題が、社会の皆の問題にも根本で繋がっているとまだ認識されていないからでしょうか?

内閣府の有識者会議で、地方から女性の人口が流出している原因は「女性蔑視」だと指摘がありましたよね。保守政党の国会議員の中でさえ選択的夫婦別姓の導入を検討する動きが起こり始めているのに、最近もまた、岡山の県議会で夫婦別姓に反対する意見書が採択されました。このことは、若者に自分たちの価値観や文化を押し付けようしているんだ。と伝わります。だから地方の人口が流出して男女問わず若い人は都会を目指してしまうのです。地方の人口減少とジェンダー平等の問題は繋がっているのに、そこに気づけていない日本社会のジェンダーギャップ指数が低いのは当たり前ですよね。

そして、私は最近、学校や幼稚園などへの就職を希望する人に性犯罪歴がないことを証明する、「日本版DBS」導入を目指す活動も個人として行っていて、「小児性愛」という病―それは、愛ではない(ブックマン社)という本を出版された榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳先生(精神保健福祉士・社会福祉士)にお会いしたんです。斉藤先生は、小児性犯罪者の『認知の歪み』の根本には生育環境などで学習した男尊女卑的なジェンダー観、家庭内の支配する側とされる側という男女のジェンダー不平等の問題が深く関わっているとお話されていて、それもなのか!と思いました。

待機児童はもちろんそうですし、男性の育児休業などの政策の話もそうですが、自分の子どもが安全に学校に通えるかどうかということも、ジェンダー平等の問題が根本では関わっているんですよ。

ジェンダーは、是正すると女性がちょっと得をするとかそういうことではなくて、あらゆる社会問題に関わってくる問題なんだと改めて感じました。

ーー日本のジェンダーギャップ指数が低い最も大きな理由は、政治分野の男女の不均衡です。天野さんは候補者男女均等法の成立に尽力した「クオータ制を推進する会」にも参加し、国会議員に必要性を訴える活動も続けてきました。女性議員が増えることは、どんな意義があると感じていますか?

「miraco」が取り組んできた待機児童や子育ての問題は、これまで政治が積極的に解決に取り組んでこなかった問題でした。『「子育て」は票にならないから』そんな声を耳にすることもありました。そのような中であっても、女性や子育て世帯のためにと動いてくれたのは多くが女性議員の方々でした。

選択的夫婦別姓に関しては様々な立場の議員さんがおられますが、それでも稲田朋美議員など政党から求められているであろうスタンスを超えてでも、これまで見過ごされてきた女性たちの不利益の解消に動こうとしている人たちもいる。政治も女性議員の活躍により、少しずつよくなってきていますよ。

地方選挙の投票率の男女別グラフを見ていて、選挙によっては女性のほうが投票率が高いものもあることに気付きました。「女性は男性より政治に興味がない」という偏見がありますが、実際はそんなことはないと感じます。それなのに、当選する女性議員が少ないのは、女性の立候補者が少ないからでしょうね。女性の立候補者を増やせば、女性議員はおのずと増える。女性候補者を増やす政党のがんばりはまだまだ必要ですが、もう少しで世の中が変わる所に来ているのではないかと感じています。

ーーこの結果を受けて、私たちはどんな未来を目指していくべきだと感じますか?

男性の方が「優秀」と考えている人が多いーー。そう最初に言いましたが、今の日本社会を作りあげたのは主に男性たちですよね。確かに、ここまで経済成長はしました。その反面、少子化はどんどん進み、幸福度は先進国の中で最も低い。女性だけでなく、男性も「生産性」や「大黒柱」という言葉で重い荷物を背中の上に乗せられて苦しんでいる。今の社会は、本当にそんな人たちが目指していたような理想的な日本の姿なのでしょうか?

これからは人々のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に幸福な状態)を軸とした、日本の成長や発展を考えて社会や企業は活動していくことが大切だと考えます。そのためには多様性の尊重が重要で、まずは女性の能力を活かすことです。今までほったらかしだったのですから、伸びしろは大きい。だから、まずジェンダー平等を目指すこと。そこを変えていくことが私たちの社会をより良くするのに必要不可欠だと考えています。

2020年に幕を閉じた安倍政権の看板の一つは「女性活躍」だった。しかし現在の菅義偉新内閣20人のうち女性はわずか2人。これは国会の男女比そのままだ。2021年には、菅政権下で初めての衆院選挙が行われる見通しだ。候補者の人数を男女均等にする努力を政党に義務付ける「候補者男女均等法」制定から初めての総選挙。政治の現場のジェンダーギャップは、どうすれば埋めることができるのだろうか。

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