ドラマ『大豆田とわ子』主題歌の新しさ。若手ラッパーが参加する企画、なぜ生まれた? STUTSに聞く

KID FRESINO、BIM、ゆるふわギャングのNENE、Daichi Yamamoto、BAD HOPのT-Pablowが参加。豪華な主題歌が話題になっています。
「Presence I (feat. KID FRESINO)」
「Presence I (feat. KID FRESINO)」
photo credit : seiji shibuya

現在放送中のドラマ大豆田とわ子と三人の元夫(フジテレビ系・火曜夜9時〜)。『東京ラブストーリー』などを手がけた坂元裕二さんが脚本を務め、松たか子さんが“バツ3”の主人公を演じるロマンティックコメディだが、毎話ごとに参加アーティストや演出が異なる工夫を凝らしたエンディング主題歌にも注目が集まっている。

主題歌の総合プロデュースを手がけたのは、トラックメーカーのSTUTS

松さんがサビを歌う楽曲にラッパーが代わる代わる参加していくという演出で、これまでにKID FRESINO、BIM、ゆるふわギャングのNENE、Daichi Yamamoto、BAD HOPのT-Pablowが登場。日本のヒップホップ界で人気の若手ラッパーが集結し、音楽ファンを驚かせている。YouTubeのMV再生回数は380万回を超えた。

この主題歌はどのように誕生したのか。STUTSに話を聞いた。

STUTS
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<主題歌「Presence」のプロジェクトは、「主演の松たか子さんがラップをする」という構想から始まったという。

プロデューサーの佐野亜裕美さんと脚本・坂元裕二さんとの間でこの構想が浮かび、佐野さんが前職の先輩であるTBSの藤井健太郎さんに相談したところから企画が進んでいった。

藤井さんは同局のバラエティ番組『水曜日のダウンタウン』などを手がけるプロデューサーで、大のヒップホップ好きとして知られる。同番組のオープニングではラッパー・PUNPEEを起用し、ラッパーとも親交が深い。>

――STUTSさんにはどのようにオファーがあったのでしょうか。

藤井健太郎さんから、去年の11月ごろに「坂元裕二さん脚本のドラマでこういう企画を考えているんだけれどどうか」と声をかけていただきました。

その時点で松たか子さんや岡田将生さん、東京03の角田晃広さん、松田龍平さんがラップをして、週替わりで参加ラッパーが変わるという構想や、ドラマの劇伴をサンプリングするという枠組みが考えられていて。

そこからプロデューサーの佐野亜裕美さんと藤井さんとのミーティングを経て、誰に参加してもらうかなど、具体的なイメージを膨らませていきました。

――去年11月のオファーから、ドラマ放送開始の4月まで急ピッチで制作を進められたんですね。

劇伴のデモが出来上がったのが1月中旬ごろだったので、トラック制作を始めたのはそれからです。登場人物のプロットやストーリーの流れを共有していただいたので、それを元に楽曲のイメージを膨らませました。

1月下旬までに4パターンのラフトラックを作って、その中でラッパーによっていろんな解釈ができそうで、曲として色んな可能性が見えそうなトラックが今のものだったので、そのトラックをブラッシュアップしていきました。結局一番最初に作り始めて一番時間かけて作ったものを選びました。

――松さんがメインボーカルとしてサビを歌い、異なるラッパーが代わる代わる参加して出演者とコラボする...という構成は、ドラマの主題歌としては斬新ですよね。

すごく面白いアイデアだと思いましたし、お話を聞いた時は本当に光栄でした。

一方で、うまくできるかという不安もやっぱりありました。ドラマ主題歌を作らせてもらうのも、俳優さんにラップをしてもらうという取り組みも初めてのことだったので、ちゃんとかっこいい感じにできるか...というところが大きかったです。

色々悩みながら作ったのでいい形で発表できて嬉しいです。

――参加ラッパーはどのように決められていったのでしょうか?

どのラッパーさんにお願いするか、藤井さんと相談しながら考えていったんですが、それぞれの俳優さんとの相性はすごく意識しました。その俳優さんと一緒にやった時にいい相互作用が生まれる感じになったらいいなと思って。

――これまで、KID FRESINOさん、BIMさん、NENEさん、Daichi Yamamotoさん、T-Pablowさんが参加しています。

1話目はフレシノくんでいきたい、と藤井さんがアイデアを出してくださって。フレシノくんは大好きなラッパーなのでぜひお願いしたいと思いました。オファーを受けてくれるかはトラック次第だと思ったので、いい曲を作ろうとすごく力が入りましたね。

BIMくんは何回も一緒にやっていて、彼ならこの企画を絶対うまくやってくれるなという信頼感もあって。プロデューサーの佐野さんからは、リリックに台本のキーワードとか本編のエッセンスを入れてほしいという希望をいただいたんですが、BIMくんだったらうまくやってくれるはずだと。

Presence II (feat. BIM, 岡田将生)
Presence II (feat. BIM, 岡田将生)
photo credit : seiji shibuya

NENEさんとは初めてご一緒したんですが、好きだったラッパーなので嬉しかったです。もともと何度かお会いした時に今度一緒にやろうとお話させてもらっていたんですけど、今回のプロジェクトでは今までご一緒したことない方ともやりたかったので、いい機会だと思いオファーをさせていただきました。

「Presence III (feat. NENE, 角田晃広)」
「Presence III (feat. NENE, 角田晃広)」
photo credit : seiji shibuya

Daichiくんとも今まで何度も一緒に曲を作らせてもらっていましたし、松田龍平さんの役柄の雰囲気にもぴったりだと思ってオファーしました。色々なオマージュを混ぜてくれて嬉しかったです。

今回ゲストで参加していただいたアーティストはみんな僕がとても好きな方々なので、この機会でご一緒できて嬉しかったし作ってて本当に楽しかったですね。

Presence IV (feat. Daichi Yamamoto, 松田龍平)
Presence IV (feat. Daichi Yamamoto, 松田龍平)
photo credit : seiji shibuya

――5話目に参加したT-Pablowさんはタイプの違うラッパーで、全く予想していなかったので本当に驚きました。

T-Pablowさんは藤井さんが提案してくれて。受けてもらえるならぜひお願いしたいとオファーをして、実現しました。

今回の企画はたくさんの人に見てもらえるものだし、自分の思いとしても、自分が今まで一緒に曲を作ったことがあるラッパーだけで固めるのではなくて、今まで交わっていなかった方ともご一緒できたらいいなという思いがありました。

そういった意味でもT-Pablowさんに参加していただけて嬉しかったです。

Presence V (feat. T-Pablow)
Presence V (feat. T-Pablow)
photo credit : seiji shibuya

――それぞれのラッパーさんが、俳優さんのラップパートのディレクションも担当されたんですよね。

そうですね。僕も一緒に立ち会っていたのですが、人によって伝え方が多種多様なのも面白かったです。伝え方にも皆さんの個性が出ていて、それが曲にも反映されているなと思いました。

皆さんがそれぞれのベクトルで素晴らしいものを作って下さったので本当に嬉しいです。

――トラックやメロディを作るにあたって、作品からはどんなインスピレーションを受けましたか?

「ロマンティックコメディ」と銘打っているように、ストーリーは確かにコメディではあるけれども、3回の離婚を経験している主人公の哀愁というか、切なさ、悲哀のようなものがありますよね。

でもそれだけではなくて、そういう側面がありながらも、前を向いて生きていこうとする話でもあるなと思いまして。

その感じって、自分の普段作っている音楽や考え方にも共通している部分かなと思ったので、すごく共感しましたし、そのイメージをのせていきたいと思いました。

関西テレビ提供
関西テレビ提供
「大豆田とわ子と三人の元夫」第7話より

――松たか子さんは歌い手としての一面でもすごく評価されている方ですが、松さんが歌うメロディを作る上で意識したことはありますか?

結構そこが一番考えたところで。松さんにヒップホップのイメージがあまりなかったので、どういう風に作り上げていくかというところはすごく悩みました。

松さんに歌っていただくドラマの主題歌として、色々な方に耳馴染みが良くてメロディとしても印象に残るような曲にした方がいいのではないかと思いました。

最初は自分でメロディも全部考えようかなと思ったのですが、印象に残るメロディを書ける方と一緒に作ったほうが良いなと思って、そういう経緯でbutajiさんに協力をお願いしよう、となったんです。歌に関しては完全にお任せするというよりは自分も少しアイデアを出しながら共同で作ったのですが、butajiさんのメロディセンスと歌詞が本当に素晴らしくていい歌になったと思います。

松さんの今までの曲を色々聞かせてもらったのですが、「明日、春が来たら」や『アナと雪の女王』の主題歌みたいに一音一音日本語をはっきり発音するような曲もあれば、『カルテット』(TBS系列のドラマ)のエンディングテーマの「おとなの掟」や新しいアルバムに入っている「笑顔をみせて」みたいに流れるように歌う感じもある。歌の表情も曲によって様々で色々なスタイルの表現ができる方なんだなと思いました。

今回歌っていただく際には、言葉をはっきりというよりは割と流れるようなニュアンスで歌ってほしいとお願いしました。お願いするのは恐れ多かったのですが、素晴らしい形でご対応していただけて光栄でした。また、歌詞のこの部分はこういう感情で歌ってもらいたいという要望も色々汲み取ってもらえて、歌手としての松さんの魅力に感銘を受けました。

「大豆田とわ子と三人の元夫」第7話より
「大豆田とわ子と三人の元夫」第7話より
関西テレビ提供

――ゴールデンタイムに地上波で放送される主題歌ということもあって、ヒップホップファンだけではなくて、たくさんの層に聞かれるという前提もあります。その点は意識されましたか?

最初に候補のラフトラックを色々作ってるときはそこまで意識せずに自由に作っていたのですが、ラフトラックを最終的に選ぶときや選んだトラックを1曲に仕上げるときにはいろいろな人に聞かれることを考えながら作りました。

また、松さんのサビの部分のメロディや歌詞をbutajiさんと考えるときも、たくさんの層に聞かれることを意識して作り上げました。

あとは全体通して、ヒップホップファンだけが楽しめるような感じではなく、ヒップホップを知らない人が聞いても『いいな』と思ってもらえるような曲にするということも意識しました。

――実際に聞いてみると本編の雰囲気にすごくあっていますし、一つの楽曲としてもすごく完成度が高い作品だと感じました。ゴールデンタイムに地上波で放送される番組に若手ヒップホップアーティストがここまでフィーチャーされたことも、すごいことですよね。

本当にありがたいことです。自分が作ってなかったとしても、「うわー」と思っていたと思います。(笑)

そもそも坂元さん、佐野さん、藤井さんがいなかったら自分に声がかかることもなかったので、こういった枠組みを作ってくださったことに感謝しかありません。

あとは企画ものではなくちゃんと曲としていいものを作るということを念頭において作ったので、そう感じてもらえて嬉しいです。

音楽に関しては佐野さんに全面的に任せていただいて、いわゆる「注文」みたいなものも全然なくて。エンディング映像の監督の選定や仕上がりもこちらに任せていただいたので、本当にありがたかったです。

――その分、プレッシャーもあったのではないでしょうか。

そうですね、プレッシャーは結構ありました。(笑)

曲が出来上がった後もまだ不安で、放送されるまでどう受け入れられるか、心配でした。

地上波テレビで放送される、影響力の大きいプロジェクトだけに、一歩間違えれば危険な方向に転んでしまう可能性もある。そういう意味でも、普段曲を作るときよりも慎重になりましたし、色々なことを考えていたと思います。

無事いい感じに実現して、受け入れてもらえている感じもするのですごく嬉しいですね。

――実際の放送や、視聴者の反応を見てみていかがですか?

最初はこんな素敵な作品に急に自分の音楽が流れて大丈夫なのか、不安な気持ちがありました。

でも、実際にテレビで放送しているのをリアルタイムで見ていて、あの曲が始まった瞬間に「あ、大丈夫そうだな」と思いました。

反応も自分が想像していた以上に大きく、ありがたい限りです。急にエンディングにラッパーが出てきてびっくりする方はいるんじゃないかなと思ったんですけど、ヒップホップを知らない方々にも受け入れられている感じがするので嬉しいです。

このプロジェクトをきっかけにたくさんの人にヒップホップに興味を持ってもらえたら嬉しいですし、今後の放送も楽しみにしてほしいです。

『大豆田とわ子と三人の元夫』は毎週火曜夜9時から、フジテレビ系列で放送中。5月25日に第7話が放送される。

「大豆田とわ子と三人の元夫」第7話より
「大豆田とわ子と三人の元夫」第7話より
関西テレビ提供
『大豆田とわ子と三人の元夫』メインビジュアル
『大豆田とわ子と三人の元夫』メインビジュアル
関西テレビ提供

<STUTSプロフィール>

1989年生まれのトラックメーカー、MPC Player。自身の作品制作やライブと並行して、数多くのプロデュース、コラボレーションやTV・CMへの楽曲提供など活躍の場を広げている。

2016年4月、1stアルバム『Pushin’』を発表し、ロングセールスを記録。2017年6月、Alfred Beach Sandalとのコラボレーション作品『ABS+STUTS』を発表。2018年9月、国内外のアーティストをゲストに迎えて制作した2ndアルバム『Eutopia』を発表。2020年9月には最新作となるミニ・アルバム『Contrast』を発表し、バンドセットでの単独公演を成功させた。

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