最近注目の「牛のげっぷ」対策から「フードロス」まで。日本が世界に提案する戦略をまとめました

「食」の持続可能性をどう守るか。農林水産省が5月にまとめた「みどりの食料システム戦略」は、秋の国連サミットで提唱される予定です。

自然災害や地球温暖化、生産者の減少といった課題があるなか、「食」の持続可能性をどう守っていくのか――。農林水産省は5月、一つの答えとして、「みどりの食料システム戦略」をまとめました。2021年9月にニューヨークで初めて開かれる「国連食料システムサミット」で提唱し、世界のルールづくりに参画する狙いもあります。どんな戦略なのか、中身を見てみましょう。

牛舎につながれた乳牛(北海道)
牛舎につながれた乳牛(北海道)
時事

「生産力向上」と「持続性」の両立目指す

一言でいうと、国内の農林水産業において「2050年までに二酸化炭素(CO2)排出ゼロ」を目指しながら、技術革新によって農林水産業の「生産力向上」と「持続性」の両立を目指す中長期的な戦略です。

農水省によると、世界の温室効果ガスの排出量(2010年)は490億トン(CO2換算)。このうち農業(畜産含む)と林業による排出が4分の1を占めています。

一方、日本の温室効果ガスの排出量は12億トンあまり(2019年度)で、このうち農林水産分野の排出は3.9%にとどまります。とはいえ、日本では100年で平均気温が1.26度上昇したほか、台風や洪水など災害が絶えず、気候変動による農林水産業への影響は大きくなっています。

課題は環境だけではありません。

国内では農業離れが進み、農業従事者は1995年の256万人から、2019年は140万人に減少。平均年齢は59.6歳から66.8歳に上がっています。

食糧のサプライチェーンも世界のコロナ禍によって混乱しました。2020年3~11月には19カ国が穀物などの輸出を制限。食料生産を支える肥料の原料も、日本はほとんどを輸入に頼っているのが現状で、食料自給率の重要性はコロナ前より高まっています。

稲刈りをする生産者(山形県)
稲刈りをする生産者(山形県)
時事

ヒアリング22回重ねて戦略を策定

こうした問題を踏まえ、農水省が生産者や食品会社などから22回に及ぶヒアリングを重ね、2021年5月にまとめ上げたのが「みどりの食料システム戦略」です。

以下に、戦略に盛り込まれた2030年までの目標と、2050年までの目標を挙げます。

【2030年(度)までの目標】
▽事業系食品ロスを2000年度比で半減させる
▽食品製造業の労働生産性を最低3割向上
▽食品企業における持続可能性に配慮した輸入原材料調達
▽漁獲量を2010年と同程度(444万トン)まで回復させる

【2050年までの目標】
▽日本の農林水産業において二酸化炭素(CO2)排出ゼロ
▽化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
▽輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減
▽耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%(100万ha)に拡大
▽優れた性質を持つエリートツリーなどを林業用苗木の9割以上に拡大
▽ニホンウナギ、クロマグロなどの養殖で人工種苗比率100%

各段階の取り組みは

農水省としては、企業や生産者に対する補助金を拡充することで、目標達成を促す考えです。「食料システム」の各段階における主な取り組みは以下の通りです。

【調達】
・地産地消型エネルギーシステムの構築
・食品残渣・汚泥などからの肥料成分の回収・活用
・新たなたんぱく資源(昆虫など)の利用拡大

【生産】
・スマート技術によるピンポイント農薬散布
・環境改善に効果のあるバイオ炭の農地投入技術
・海藻類によるCO2の固定化(ブルーカーボン)の推進

【加工・流通】
・電子タグ(RFID)などの技術を活用した商品・物流情報のデータ連携
・需給予測システム、マッチングによる食品ロスの削減

【消費】
・商品の「外見重視」の見直しなど、持続性を重視した消費の拡大
・国産品に対する評価向上を通じた輸出の拡大

農水省がまとめた「みどりの食料システム戦略」
農水省がまとめた「みどりの食料システム戦略」
農水省

「牛のげっぷ」対策は

最近注目されている牛のげっぷに含まれるメタンなど、畜産業における環境負荷については、どのような取り組みを推進するのでしょうか。戦略には2050年までの工程とともに、以下のような技術開発が盛り込まれています。

牛げっぷ由来メタン排出を抑制する飼料の開発・ルーメン(胃)環境制御技術
<工程>2020年代前半に研究開発→30年ごろに実証→40年代に社会実装

●微生物機能を活用した乳用牛のメタン削減生産システムの開発
<工程>2020年代に研究開発→30年代に実証→40年代に社会実装

●家畜排泄物由来の亜酸化窒素を削減するアミノ酸バランス改善飼料の開発
<工程>2020年代前半に研究開発→30年ごろに実証→40年代に社会実装

9月の国連サミットで提唱へ

野上浩太郎・農林水産大臣は戦略をまとめた5月の会合で、「我々は国際的な議論の中で、アジアモンスーン地域の立場から、本戦略を踏まえた新しい食料システムを提案していく必要がある」と述べました。9月に開かれる「国連食料システムサミット」でこの戦略を提唱し、「国際ルール」づくりに参画するのが日本政府の方針です。

ハフライブ「食とSDGs」7月20日に配信

ハフポスト日本版では毎月、SDGsをテーマにしたライブ番組「#ハフライブ」を配信しています。7月のテーマは、「食とSDGs」。
みなさんは、「牛肉」と「気候危機」が繋がっていると考えたことはありますか?
様々な食べ物から「地球にも私たちにも動物にもより良い食の未来」について話し合います。

【番組概要】
・配信日時:7月20日(火)夜9時~
・配信URL: YouTube
https://youtu.be/GNZk40livrA
・配信URL: Twitter(ハフポストSDGsアカウントのトップから)

https://twitter.com/i/broadcasts/1DXxyRRWRzeKM
(番組は無料です。時間になったら自動的に番組がはじまります)

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