「ネットの誹謗中傷をなくすための一歩」伊藤詩織さんが判決後に語ったこと 元東大特任准教授に賠償命令

「この判決がネットの誹謗中傷をなくすための一歩となることを心から願っています」。名誉毀損裁判の判決後、伊藤詩織さんが会見を開きました。
判決後、記者会見した伊藤詩織さんと原告代理人ら=2021年7月6日撮影
判決後、記者会見した伊藤詩織さんと原告代理人ら=2021年7月6日撮影
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

虚偽の内容のツイートで名誉を毀損されたとして、ジャーナリストの伊藤詩織さんが元東京大学大学院特任准教授の大澤昇平さんに対し損害賠償を求めていた民事訴訟で、東京地裁は7月6日、大澤さんに慰謝料など33万円の支払いと投稿の削除を命じた。

伊藤さんは同日、司法記者クラブで会見を開き、判決への受け止めを語った。

判決について、「こちらの主張のすべてを認めていただいたことについては満足しています」とコメント。「この判決がネットの誹謗中傷をなくすための一歩となることを心から願っています」と述べた。

どんな判決だったのか?ツイートは「原告を攻撃した悪質なもの」

東京地方裁判所
東京地方裁判所
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

訴状によると、大澤さんは2020年6月、「伊藤詩織って偽名じゃねーか!」とTwitterに投稿。ツイートには、「伊藤詩織」を通名とする外国人とみられる人物が破産に至ったことを示す官報公告の画像が添付されていた。

伊藤さんは、ツイートの内容は事実と異なり、伊藤さんの社会的評価を著しく低下させたとして大澤さんを提訴。慰謝料など110万円の損害賠償と投稿の削除を求めていた。

一方大澤さんは、同姓同名の名前はTwitter上に多数存在するため、投稿は伊藤詩織さんに言及したものと認識されないなどと主張し、請求棄却を求めていた。

東京地裁は、ツイートは伊藤さんを名指しするものであることは「明らかである」と指摘。伊藤さん側の主張を認め、ツイートについて「原告を攻撃した悪質なものである」と断じた。その上で、伊藤さんに与えた精神的苦痛は軽視できないとして、大澤さんに慰謝料など33万円の支払いを命じた。

大澤さんはTwitterで反論

判決について、大澤さんは自身のTwitterアカウントで、賠償金が請求額(110万円)の半分である55万円に満たない場合は、伊藤さん側の勝訴と言えないという主旨の主張を繰り返していた。

この主張に対し、伊藤さんの代理人を務める山口元一弁護士は、「損害賠償と投稿の削除を請求して、(判決で)損害賠償と削除が認められているので、こちらが勝訴したという風に考えるのが普通の考え方だと思います」と指摘した。

「判決が大澤さん以外の人にも届いてほしい」

伊藤詩織さん(左)と代理人の山口元一弁護士
伊藤詩織さん(左)と代理人の山口元一弁護士
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

その上で、賠償額が33万円になったことについて山口さんは、「伊藤さんが受けたのは精神的な苦痛で、お金をもらったからどうこうという話ではない」とコメント。

個人の見解として「金額は増額の方向に向かってほしい」と述べた一方で、「損害額の高額化によってこの問題が解決できるということではない」との見方を示した。

訴状によると、問題となった大澤さんのツイートは2020年7月時点で600回以上リツイートされ、1100回以上の「いいね」を集めている。

山口さんは、一つのツイートが多数の人にリツイートされることで拡散し、個人が大量の攻撃に晒されてしまうことがネット上の誹謗中傷の特性だと話す。

判決を受けたのはツイートを投稿した大澤さん個人だったが、「この判決が大澤さん以外の人にも届いてほしい」と受け止めを語った。

伊藤さんも会見で、大澤さんのツイートに同調し、同じようなツイートをした人が何千、何万人もいることが問題だと指摘する。

「今回の裁判は同じような発言を繰り返している人、行動に至っている人に向けたものでもある。(裁判は)今の日本の司法でどういった判決が示されるのか、リトマス紙のようなケースになればいいと思っていた」と話し、「そのプロセスを元に評価したいので、大澤氏個人に対してはあまり意見はありません」と述べた。

中傷を見かけたら「傍観者として通り過ぎないで」

Jun Tsuboike / HuffPost Japan

伊藤さんは2017年、名前と顔を出して元TBS記者から性暴力を受けたと公表。その後、ネット上で伊藤さんに対する誹謗中傷や非難が相次いだ。

性被害を告白した人がバッシングや中傷を受けることは一般的に「セカンドレイプ」と呼ばれ、被害者は更なる傷を負う。

伊藤さんは、「声を上げることに対して誹謗中傷がきてしまい、結果声を上げられなくなってしまうという現状は本当に残念なことだと思います」と語る。

この判決が一つのマイルストーンになり、法改正やプラットフォームの責任などについての議論が深まってほしい、と展望を語った。

そして、もし誹謗中傷やセカンドレイプととれるような発言をSNS上で見かけたときは、「傍観者として通り過ぎないでほしい」とも呼びかけた。

「ネット上に蓄積されてしまうという問題があるので、次の世代のためにも明るい言葉、ポジティブな言葉で埋めていってほしい」

「ツイートを通報したり、ポジティブな言葉で埋めていくことだったり、周りができることがある。その人を一人にしないでほしいという思いです」

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