ゲイの CEO、テック業界のステレオタイプな「男性的文化」と戦う【コラム】

従業員が、性別、人種、性的指向、さらには服や音楽の趣味といった付随的な属性に関係なく、十分に満足していられる文化を作るにはどうすればいいだろうか。
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TechCrunch Japan

「ゲーム」と呼んでいるものを始めたのは4歳のときだった。学校でコスプレの時間があり、衣装箱に駆け寄った私の肩を先生が掴んだ。先生は私の顔を見てこう言った。「これは女の子の衣装。男の子の衣装はあっちだよ」。

私は何が悪いのかわからず困惑した。ただ「ああ、世の中にはルールがあるんだな」と思ったのを覚えている。その瞬間から、私は多くの人が参加しているゲームのルールに従うようになった。学校や職場、社会全体で何が許容され、どのように振る舞うべきかを規律する、不文律のゲームだ。

私はこのゲームに従い、自分の「ゲイらしさ」を抑えてきた。20代でカミングアウトした後でさえも。仕事を始めたばかりの時は特にそうだった。初めて参加する会議やビジネスの取引があるたびに、どの部分が「OK」で、どの部分が人を遠ざけるのか、線引きはどこなのかを常に先読みしていた。

そういう意味では、私が拠り所とするテック業界に蔓延しているステレオタイプの男性的な「ブログラマー」文化は、私にとって大きな驚きではない。誰もが自分の核となるアイデンティティを隠そうとして、集団の型に合うように必死でエッジを削っていれば、少数派の声がかき消されるのは必然だ。この図式から得られる結果はこうだ……大きな変革を起こす者が集うはずの、イノベーションの艦隊であるはずのシリコンバレーは委縮していく。

プライド月間と先日行われた祭典は、ブログラマー覇権主義に対する解毒剤になる。虹を象徴とするプライドは、自由であり、真実であり、何にも縛られないすべての者の豊穣の角(豊かさの象徴)である。プライド月間が終わりに近づいた今、私の最大の希望は、プライド月間だけが持つ偏見のないエネルギーで、さらに意義のある変化を引き起こすことである。

まず自分のチームのために行動する

私はプライドとそれにともなう意義深い行動を心から愛しているが、一部のブランドが形だけの行動をしていることは否めない。企業がマーケティングのためにレインボーフラッグを利用し、必ずしも自分たちの身近なところで具体的な変化を起こさないという「パフォーマティブ・アクティビズム(流行に合わせて表面だけのアクティビズムを行うこと)」が増加している。口先ではプライドを支持しながら、裏では反トランスジェンダー法案を推進する政治家を支援する企業も増えている。

もしあなたが職場の多様性に真剣に取り組むリーダーであれば、まず自分のチームを支援できるように内部に目を向けよう。従業員が、性別、人種、性的指向、さらには服や音楽の趣味といった付随的な属性に関係なく、十分に満足していられる文化を作るにはどうすればいいだろうか。

2019年に行われたイェール大学公衆衛生大学院の調査によると、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルを自認している人のうち、推定83%が日々の生活で自分の性的指向をすべての他人、またはほとんどの他人に秘密にしているという。

この抑圧は職場ではさらにひどくなる。テック業界では特に顕著で、無数の差別的行動が日常茶飯事となっている。職場向けの匿名チャットアプリ「Blind」の調査によると、LGBTQの技術系社員の約40%が、職場で同性愛者差別やハラスメントを目撃したことがあると回答している。

多様性に関する年次報告書によると、大手テック企業では、他の業界に比べて女性や過小評価グループ(ある集団において、全世界における人口比よりも小さな割合しかもたないグループ)の雇用が非常に少ないこともわかっている。#SiliconValleySoWhiteというハッシュタグで共有されている何千何万もの個人的な体験談にもあるように、この業界では日常的に、文化的に少数派のグループに属する人を「ダイバーシティ採用」と称して、給与や昇進などあらゆる面で差別を行っている。さらに、Bloomberg Technologyのキャスターであり、著書「Brotopia」でシリコンバレーの男性優位主義の文化を暴いたEmily Chang(エミリー・チャン)は、この業界は女性を疎外するように仕組まれていると話す。

これらの問題は簡単に解決できるものではないが、私は「自分らしさ」がその解決に重要な役割を果たすと信じている。私の「ゲーム」を終了するときが来たのだ。人からの評価を気にせず、自分の好きなように仕事ができることを知ったとき、私はその自由をとても甘美なものに感じた。何年にもわたって、自分でもよく理解せずに、絶え間ないループの中で疲弊しながら自分を偽ってきた後、私はCEOになり、私は自分がなりたいと思っていた人物になることができた。カリフォルニアのテック業界に精通し、出世すればするほど、私は私であることに自信を持てるようになった。

しかし、自分の会社を所有しなければ、自分自身を完全に表現することはできないと思う必要はない。調査によると、自分を表現しないことによる代償は、個人の自由だけでは済まないことがわかっている。近年では多様性に関する意味のある対話が行われるようになったとはいえ、私たちが働く世界は圧倒的に画一的(一面的)だ。自分の本来の姿を明らかにすることができない、あるいはしようとしない人々であふれている。

他者の理解と「弱さの共有」の力

技術系のリーダーである私たちが、本腰を入れて自分らしさの表現の問題を掘り下げることができなければ、私たちの業界に蔓延している「ブログラマー」文化を排除することは不可能だ。

「ブログラマー」文化が蔓延した環境では、誰もが恐怖、疲労、不安を抱くだけではなく、収益にも影響が生じる。幸福感を持つ従業員は生産性が高く、多様性のある経営陣を擁する企業では、収益性、創造性、問題解決能力が高いという事実は、研究で明らかになっている。仕事中に本来の自分でいられるという自由は、成功と達成感につながる。

それでは、技術系のCEOや経営陣は、どうすればこれを実現できるだろうか?私は、二面的なアプローチが必要だと考える。まず、自分らしさの表現に向けた取り組みを、ポリシーとして制定する。リーダーはチームに、従業員が自分らしさを最大限に発揮して仕事を行えるようにするという責任を持たせる。つまり、従業員全員に、組織内のすべての声を聞くという責任を与えるのだ。

GumGum(ガムガム)では、STRIDE(Seeking Talent Representation Inclusion Diversity & Equity:包括性、多様性、平等性を持つ自己表現の追求)評議会を設置している。評議会のメンバーは、社内のすべての部門、拠点、職責から構成されていて、日々の業務の一環(有給)として、社内の多様性と包括性を向上させるための具体的な提案を行っている。

職場における自分らしさの表現を可能にするには、無意識の偏見に関するトレーニングも不可欠だ。私がキラキラしたショートパンツとクロップトップを着て街を歩いていたら、周りの人は好意的かどうかにかかわらず、私の選んだ服装に何らかの反応を示すだろう。このような潜在的な判断を意識することは、偏見を抑制するための第一歩であり、職場での意思決定に偏見がどのように影響するのかを理解することにつながる。

第二に、ビジネスの真正性を追求するのはCEOや上級管理職の役割であり、彼らが模範となる能力を持つことだ。今日のキャンセルカルチャー(ボイコットの形式の1つ。ある人物を仲間や仕事上の仲間から追放すること)によって、リーダーたちは、自分たちの行動を律し、プロとしてミスのないようにすることに過敏になっているように思われる。

もちろん、時と場所に応じたプロフェッショナリズムは必要だが、私は常に、CEOとして可能な限りオープンであることを心がけている。自分の個性のあらゆる要素、他人にジャッジされ、好ましくないと思われるような要素にも光を当てるのだ。私がかつてアイデンティティを隠そうとして苦慮していたが故の決断である。かつて私が抱えていた、ゲイであることの恐怖は、今では本当の自分を見せるための起爆剤となっている。私は、私の周りの人にも同じことをしてもらいたいと考えている。

ある種の人たちだけが活躍できるテック企業のブロカルチャーを醸成したいと思う人はいないだろう。しかし、それを口にするだけでは十分ではない。まずは、人と違っていてもいい、どのような違いがあってもいい、ということを表すことから始める必要がある。例えば私は派手なファッションが好きなので、Zoomのミーティングに空色の帽子をかぶって出席することを躊躇わない。これがCEOとしての私の表現方法だ。

このような姿を見せることに恐怖心があるなら、恐怖をオープンにすることも重要だと思う。私たちはCEOとして、自分の弱さ、アイデンティティへの苦悩、隠しておきたい自分の秘密の部分を共有すべきだ。失敗を認めることも同様だ。CEOもただの人間であり、自分らしさの表現を目指すのであれば、その人間性も晒すべきだ。

「自分の弱さを批判されることなく話を聞いてもらえる」という土壌を作ることも必要だ。面接や新しいプロジェクトに取り組む際、私が社員に尋ねるお気に入りの質問に「何に対して恐怖を感じているか?」という質問がある。

恐怖心は誰にでもある。この質問に対する答えで、その人の傷つきやすい部分に触れることができる。その人は、失敗したり、間違った決断をしたり、何かの拍子に問題を引き起こしたりすることを恐れているかもしれない。そのような感情に触れることは、自分らしさを完全に表現することを認める良い方法である。

テック企業の転換点

プライド月間は、受容と存在の自由をめぐる幅広いストーリーの一部である。この価値観を十分に実践せずに、周りがやっているからといってレインボーフラッグを掲げる企業は、偽善的であるだけでなく、自らを損なっている。プライドは収益の機会ではないし、たとえそうであったとしても、中身のないメッセージを発信するだけのブランドはチャンスを逃がしている。

体よく飾られたLGBTQ+プライドの下には、プライド運動が支持する価値観を緊急に必要としているたくさんの職場環境がある。その価値観を日々の仕事で実現していくことは、並大抵のことではない。しかし、職場での「あるべき姿」から脱却できるようにすることは、(遅きに失した)変化のための重要な出発点となる。

私は、本当の自分を隠すことは恥ずべきことだと考え、他の人がそのような経験をしないように努力している。私は今、若い頃には考えられなかったほど自分らしく仕事をしていて、その小さな行動が、同僚たちにも影響を与えている。際限ない駆け引きを止め、本当の仕事を始めることができるとすれば、それはビジネスにおける自分らしさの在り方をともに探究し始めたときだけだ。

編集部注:本稿の著者Phil Schraeder(フィル・シュレーダー)氏はコンテクストインテリジェンスに特化したグローバルテクノロジー&メディア企業であるGumGumのCEO。

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