女性の心と体の健康問題は「自己責任」なの? 「女性用ショーツ」が社会に問うこと

「しきりに『活躍』は叫ばれるけど、社会は手を差し伸べてくれない。もっと選択肢があれば」。「おかえりショーツ」を開発した江連千佳さんはその意図を語る。

「ショーツの締めつけで脚の付け根が痛い」「蒸れてデリケートゾーンがかゆい」――。

これまで「不快だけれどしかたない」と思われてきた女性たちの悩みに答えるのが、クラウドファンディングでの資金調達を経て、2021年3月から発売中の「“おかえり”ショーツ」だ。部屋着とショーツが一体になった、腰回りに余裕のあるデザイン。ウエスト部分はリボンでサイズ調節できるので、体型変化も気にせず履ける。

考案したのは、津田塾大学3年の20歳、江連千佳さん。プロダクトに込めた思いを聞いた。

「おかえりショーツ」を持つ江連さん
「おかえりショーツ」を持つ江連さん

幼いころから慣れ親しんできた、フロント部分がV字型になった女性用ショーツ。多くの人は、痛みやかゆみなど、ちょっとした不快感を抱いた経験があるのではないか。コロナ禍のリモートワークなどで座っている時間が長くなれば、なおさらだ。

「そもそも女性用のショーツって、どうしてこんな形なの?」

江連さんが疑問を抱いたきっかけは、YouTubeでたまたま見かけたCMだった。

「コンプレックスを刺激して脱毛を勧める広告で、『ショーツから毛がはみ出ていたせいで、彼氏に嫌われた』というストーリーでした。嫌な広告だなとムカムカしながら眺めていて、ふと頭に浮かんだのが『私たちが、ショーツのほうに毛の生え方を合わせないといけないって、おかしくない?』ということ。ショーツのほうが大きくなれば快適なのにな、と考えるようになりました」

もっとリラックスできる形のショーツを販売する予定はないか、大手下着メーカーに問い合わせてみたこともある。だが、前向きな返事はもらえなかった。すでに市場に出回っていたトランクス型の商品なども試してみたが、生地の感触や履き心地がしっくりこない。

「自分が起業するなんてそれまでは考えたこともなかったのですが、欲しいものが世の中にないなら、作ってみるしかないか、と」

そのアイデアは、江連さんのかねてからの関心分野とも合致するものだった。女性のウェルネス――つまり、女性の心や体の健康と、社会との関わりだ。「女性が活躍する社会へ」という言葉を何度も聞いて育ってきた江連さんは高校時代、留学先のニュージーランドで、自分の中の「ゆがみ」に気付いたという。

「ちょうど、アーダーン首相の産休取得が話題になっていた時期だったのですが、『首相が産休? そんなのありえないでしょ』と思っている自分自身がいて。次の瞬間、私は『女性が自由に選択をすることが許されない日本社会で生きてきたから、反射的にこう感じてしまうのだろうな』と気付きました」

出産後、退院するニュージーランドのアーダーン首相、2018年撮影
出産後、退院するニュージーランドのアーダーン首相、2018年撮影

「しきりに『活躍』は叫ばれるけど、社会は手を差し伸べてくれない。女性がその心や体に抱えるつらさの多くは、『あなた自身の問題でしょう』と言われてしまう。もう少し情報が与えられたら、選択肢があったら、経験しなくてもよいものかもしれないのに」

ショーツにまつわる違和感についても、どこか「自分だけの悩みではないのでは」という思いがあった。開発に当たり、20~30代の女性300人にアンケート調査を実施すると、その予感は的中した。調査対象者の約半数が、ショーツの締めつけ、かゆみや蒸れのトラブルに悩んだ経験があると回答したのだ。

「ショーツを選ぶときに何を基準にしていたかを聞くと、アウターに響かないかとか、異性のパートナーに素敵だと思ってもらえるかといった答えが返ってきました。その気持ちも分かりますが、自分のデリケートな部分に触れるものなのに『他人からどう見えるか』という軸しかないのはおかしいと感じました」

独自のブランド「I _ for ME」を立ち上げ、女性たち自身にとって心地よいショーツを開発する試みは、ここから始まった。

開発過程では、生産を引き受けてくれる縫製工場がなかなか見つからず、苦労したという。大学の授業の合間に電話をかけ続けては、取りつくしまもなく断られる日々。数十件以上のアプローチを重ねた結果、運よく、江連さんの事業にかける思いに耳を傾けてくれる取引先が見つかった。

実現への手応えがなかなか感じられない状況も乗り越え、発売までこぎつけられたのは、プロダクトが形になるにつれて、クラウドファンディングの支援者などからさまざまな「声」が聞こえてきたことが大きい。

おかえりショーツ
おかえりショーツ

「“おかえり”ショーツ」のサンプルを一緒に手作りしてくれた祖母からの反応も、印象的だったという。

「私は幼少期から裁縫が趣味なのですが、それを教えてくれたのはおばあちゃんなんです。一緒にお裁縫しようよ、というくらいの感覚でサンプルづくりを手伝ってもらっていたのですが、形になったらうれしそうに使ってくれています。それから、自分の体に関する話も自然にしてくれるようになりました。『おばあちゃんは若いころ、生理痛がつらくても誰にも言えなかったのだけれど、こういう商品があったら、みんながいろいろな悩みを話しやすくなっていいね』と言ってもらえたときは感動しました」

蒸れを軽減する通気性のよい生地や、おしりの部分に縫い目が当たらない配慮など、試作段階から細部のつくりにはこだわっているが、発売後もユーザーの声を受けて改良を加えているという。「“おかえり”ショーツ」は、これまで「もっとこうあってほしい」という声が可視化されにくかった分野で、会話を生み出すきっかけになっている。

「おかえりショーツ」を囲んで
「おかえりショーツ」を囲んで

女性からの反響があったのはもちろんのこと、クラウドファンディングの支援者の約20%は20~30代の男性だった。

「初めは驚いたのですが、身近にいる女性へのプレゼントとして購入する人が多いんです。ECサイトの売上は、いまだに2割を男性が占めています。くわしくヒアリングしてみると、『妊娠中の妻の体に、少しでもやさしいものを贈りたかった』『彼女の下着の跡を見て、つらそうだなと気になったことがあった』といった声がたくさん聞こえてきました」

「こうしたフェムテック分野のプロダクトをめぐっては、ともすれば『男性は当事者ではないのだから、触れてはいけない』という雰囲気が生まれてしまいがちです。もちろん、当事者でなければ分からない痛みや苦しみもあります。でも、その傾向が極端になっていくと、男女間のパートナーシップや、その中で生まれる相互理解の可能性が置き去りにされてしまうと思います。『“おかえり”ショーツ』は、男性から女性にプレゼントしてもいいし、女性から女性へプレゼントしてもいい。それぞれが体について考えたり、話したりしてみるきっかけになったらうれしいです」