「禁錮5年」はどのようにして決まったか。東京地裁判決の認定は 【池袋暴走事故】

検察側は禁錮7年、弁護側は無罪をそれぞれ主張していた。過失の認定や、反省の念、飯塚被告に有利な事情は。

2019年に東京・池袋で車を暴走させて母子2人を死亡させ、他9人に重軽傷を負わせたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)に対し、東京地裁は9月2日、禁錮5年の判決を言い渡した。

検察側は禁錮7年、弁護側は無罪をそれぞれ主張していた。裁判所による「禁錮5年」はどのように導かれたのか。

東京地裁 2021年9月2日撮影
東京地裁 2021年9月2日撮影
Jun Tsuboike

■過失認定

判決ではこの事故について「約10秒間にもわたってブレーキペダルと間違えてアクセスペダルを踏み続けた」と認定し「めまぐるしく展開する想定外の事態に狼狽していたという面があったにせよ、踏み間違いに気付かないまま自車を加速させ続けた被告人の過失は重大」とした。

また、被害者に落ち度はなく「被告人の一方的な過失によるもの」とした。

■遺族らの処罰感情

事故では、松永真菜さん(当時31)と娘の莉子ちゃん(同3)の2人の命が失われたほか、9人が重軽傷を負った。

判決は、命を奪われた2人について「突如として将来への希望や期待を断たれ、愛する家族と永遠に別れなければならなかったものであり、その無念は察するに余りある」と言及した。

真菜さんの夫で遺族の松永拓也さんと、父親の上原義教さんは、被害者参加制度を使って裁判に参加してきた。家族を失った2人について判決は「その悲しみは非常に深く、その喪失感はいまだに全く埋められていない」とし、その上で「被告人が本件事故に真摯に向き合っていないこともあり、遺族らは一様に被告人に対する峻烈な処罰感情を有している」と指摘した。

重軽傷を負った被害者についても「厳しい処罰感情を有している」とした。

東京・池袋で2019年4月、車を暴走させて母子2人を死亡させるなどの罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三被告(90)の判決公判を前に、東京地裁に入廷する遺族ら=2021年9月2日撮影
東京・池袋で2019年4月、車を暴走させて母子2人を死亡させるなどの罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三被告(90)の判決公判を前に、東京地裁に入廷する遺族ら=2021年9月2日撮影
Jun Tsuboike

■反省の念

飯塚被告の反省の態度について判決は、「申し訳なく思っているなどと述べて謝罪の言葉を口にしているが、他方で、アクセルとブレーキを踏み間違えた記憶は全くないと述べ、自らの過失を否定する態度に終始しているのであるから、被告人が本件事故に真摯に向き合い、自分の過失に対する深い反省の念を有しているとはいえない」と認定した。

■有利に考慮すべき事情

判決は飯塚被告に有利に考慮すべき事情も挙げた。まずは、対人無制限の任意保険により、傷害を負った被害者5人に損害賠償が完了している点に触れ、そのほかの被害者や遺族にも「いずれ適正額の損害賠償がなされると見込まれる」とした。

さらに、飯塚被告が運転免許の取り消し処分を受けたことや、90歳と高齢である点を挙げた。検察側は、衰えを認識していたにも関わらず運転を続けたことなどから、過度に斟酌すべきではないとしたが、「認知能力等の衰えゆえに被告人が踏み間違いに気づかなかったのか否かについては証拠上明らかとはいえない」などと退けた。

加えて、この事故が広く報道されたことにより、飯塚被告が社会から厳しい非難に晒されたうえ、「脅迫状が届けられたり自宅付近でいわゆる街宣活動が展開されたりするなどの苛烈な社会的制裁」などがあったと弁護側が主張したことについても検討した。

これに対し、「厳しい社会的非難を受けること自体はやむを得ない面もあると考えられるが、過度の社会的制裁が加えられている点は、本件に伴って被告人が受けた不利益として被告人に有利に考慮すべき事情の一つと言える」と認定。その一方で「考慮する程度は自ずと限定されるといわざるを得ない」と付け添えた。

■総合的な判断は

判決ではこれらの点を考慮し「被告人の過失は悪質」とした一方で、「酒気帯び運転等の悪質な運転行為に伴うものではないことから、禁錮刑をもって処断するのが相当」と指摘した。

そして「被告人に有利に考慮すべき事情を踏まえても、被告人については長期の実刑は免れない」とした。

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