「人権外交」4候補の見解分かれる。「中国共産党の非難決議」や「日本を世界の太陽に」【自民党総裁選】

「人権侵害制裁法(日本版マグニツキー法)」への立場については、河野太郎氏を除く3氏が賛成。河野氏は明確な回答を避けた。

9月29日に投開票される自民党総裁選挙で、立候補している4候補に対し、人権侵害をきっかけに制裁を発動できる「人権侵害制裁法(日本版マグニツキー法)」に対する賛否や、人権の観点を盛り込んだ外交について国際人権NGOなどが共同で質問した。

4候補が全員回答し、河野氏を除く3人が賛同の立場を表明した。外交施策については、中国共産党を牽制するものや、日本の自国内の人権問題解決を優先する意見などがあり、見解が分かれた。

色紙を手に撮影に応じる(左から)河野太郎規制改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行
色紙を手に撮影に応じる(左から)河野太郎規制改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行
時事通信社

■3候補が賛同

9月29日に投開票される自民党総裁選挙には、届け出順で河野太郎・規制改革担当大臣、岸田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務大臣、野田聖子・幹事長代行の4人が立候補している。

国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」やIPAC(対中政策に関する列国議員連盟)など3団体と4個人は共同で、この4候補に、人権侵害をきっかけに資産凍結や入国拒否などの強力な制裁を発動できる人権侵害制裁法(日本版マグニツキー法)への賛否や、人権外交推進策について質問し、24日までに回答を得た。

河野氏は人権侵害制裁法については「人権侵害は許すべきではない」とした一方で、「国会において審議されるものについての評価は差し控えたい」と回答を避けた。

人権外交については「独裁や監視を強めようとする国々に対して、自由、⺠主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった共通の価値を大切にする国々と積極的に連携して対抗していくことは日本外交の重要な柱の一つ」と指摘した。

岸田氏は制裁法に賛同する立場を明確にした。「人権侵害に対して厳格に対応することは重要。既に超党派での議論が進んでいるものと承知しており、具体的な法案の内容を含めた超党派での議論をしっかりと見守っていく」とした。

人権外交については「人権問題担当官ポスト(総理補佐官)の新設など人権問題への対応強化を進めます」と回答した。

高市氏も制裁法に賛同した。人権外交について、自身が自民党の「南モンゴルを支援する議員連盟」の会長を務めていることをあげ、「中国共産党政府による、南モンゴルや新疆ウイグル自治区などでの人権侵害行為への非難決議を国会で採択するべく、尽力する」と答えた。

その上で、「中国共産党政府は『内政干渉』だと批判するのが常だが、人権侵害行為は国際問題。日本は『主権国家』として、自由・人権・民主主義・法の支配による国際社会の構築と、国内外の方々の安全を守っていくための貢献を行うべき」だと指摘した。

野田氏も制裁法について「支持します」と回答した。一方で「原則として、『力による解決』より『話し合いによる解決』を優先している。すでに人権侵害制裁法をもつG7各国と協調し、人権侵害を容認しないと抗議し、人権に関する理念や価値観を共有するよう強く求める」と訴えた。

人権外交については「実際にはG7各国ですら自国内に様々な人権問題を抱え、時折大きな問題を起こしながら、それを棚に上げて他国に指をさしている状況だ」と指摘。日本についても「ダブルスタンダードと批判されないよう、まずは自国内の人権問題を積極的に解決しなければならない」とし、解決すべき課題として、貧困や格差、性的マイノリティの人々や障がい者、それに外国人への差別などを挙げた。

その上で「日本を範として世界各国が人権問題に取り組むよう促したい。『北風と太陽』にならって、日本は世界の太陽を目指したい」とした。

■人権侵害制裁法(日本版マグニツキー法)とは

この法律は、政府高官の汚職を告発した直後に拘束され、2009年に獄中死したロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキー氏の名前を冠した「マグニツキー法」がベース。アメリカで2012年に制定されたのをきっかけに、カナダやイギリス、EUなどで類似の法律が作られた。G7(主要7か国)では日本だけが制定していない。

法律の内容は国ごとに異なる。日本の場合、制定を目指す「人権外交を超党派で考える議員連盟」が5月14日に開いた会合で素案が示されている

それによると、人権侵害の疑いが生じた場合、国会が政府に対して「調査」を要求することができ、その結果必要であれば、政府が制裁措置を講じるという設計になっている。

制裁メニューとしては資産凍結や輸出入規制、それに入国拒否などがある。人権問題への対応が外交関係に影響することを危惧する政府の「背中を押す」機能とされる。

しかし5月の会合では、出席した議員から、国会が主導権を握って政府に調査をさせることに対して「国会ルートが強すぎると政府の外交にとって問題だ」とする懸念の声もあがったという。

■日本で成立目指す経緯

人権侵害をきっかけに資産凍結などの制裁を科せるようにする法律は、2020年からJPAC(対中政策に関する国会議員連盟)で検討が進んでいた。しかし、JPAC自体が香港問題をきっかけに設立されたことから、中国を念頭に置いているのではという指摘もされ、公明党と共産党からは参加議員がいなかった。

各政党の賛同を得るため、特定の国を名指ししない「人権外交を超党派で考える議員連盟」が2021年4月に発足。公式サイトによると公明党と共産党を含めた衆・参合わせて83人が参加している。

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