衆院選2021
2021年10月07日 10時00分 JST | 更新 2021年10月07日 10時32分 JST

菅政権の総括はどこへ? 自民党総裁選から岸田政権誕生までの「違和感」の理由を考えてみた

自民党総裁選で新総裁に選出された岸田文雄氏が10月4日、第100代の首相に就任した。総裁選の間から、候補者たちの論戦を聞きながら感じた“モヤモヤ”の理由について考えてみた。

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日本記者クラブ主催の自民党総裁選討論会を前に、記念撮影をする(左から)河野太郎規制改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行=9月18日、東京都千代田区、代表撮影

新総裁に選出された岸田文雄氏「生まれ変わった自民党を国民に示す」

自民党総裁選は9月17日に告示され、9月29日に投開票された。岸田文雄・前政調会長(64)が決選投票で257票を獲得し、170票だった河野太郎・規制改革担当大臣(58)を破り、新総裁に選出された。

総裁選に立候補していたのは、岸田氏、河野氏のほか、高市早苗・前総務大臣(60)、野田聖子・幹事長代行(61)の計4人。

岸田氏は新総裁に選出された後、こう強調した。

「私たちは生まれ変わった自民党をしっかりと国民のみなさんに示し、支持を訴えていかなければなりません。総裁選は終わりました。ノーサイドです。全員野球で、自民党が一丸となって衆院選、参院選に臨んでいこうではありませんか」

戦いが終われば「ノーサイド」。自民党の“結束”をアピールした形だ。だが、総裁選の論戦やその後岸田文雄内閣が発足する様子を見ながら、私は「違和感」をぬぐえなかった。その理由を考えてみた。

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自民党総裁選挙を終え、万歳する菅義偉首相(左)と岸田文雄新総裁=9月29日、東京都港区、代表撮影

総裁選を通じて感じた“モヤモヤ”の理由

総裁選の期間中、共同記者会見や日本記者クラブ主催の公開討論会、党青年局・女性局主催の公開討論会のほか、一般の人からの質問に候補者がオンラインで直接答えるタウンミーティングなどが連日行われてきた。

目立ったのは、テレビ局への出演だ。

立憲民主党の安住淳国会対策委員長がテレビの情報番組や報道番組の報道ぶりについて、「自民党一色になっている」と苦言を呈したという報道もあった

総裁選告示前の9月7日、立憲民主党は次期衆院選での政権公約の第1弾として、「#政権取ってこれをやる」を掲げて政権発足後に初閣議で直ちに決定する7項目を発表

その後も順次、選択的夫婦別姓の実現、子ども・子育て政策、エネルギー政策、経済政策などを発表している。

一方で自民党総裁選は、国会で過半数を占める政党のトップを決める選挙なので、実質的に「次期首相選び」だ。だからこそ、その候補者の主張や考え、発言をしっかりとウォッチして報道することは重要なことであるのは間違いない。

それよりも、私が“モヤモヤ“を感じたのは、テレビが総裁選を長い時間を割いて伝えたことではなく、総裁選に立候補しなかった菅義偉前首相の政権運営への総括や検証、反省が論戦の中でほとんどみられないことだった。

「私が首相になったらこれをやる」「私が首相だったら…」

総裁選の論戦では、候補者たちのそんなポジティブな発信ばかりで、1年間に及んだ菅政権への反省や検証がされないまま、「次の首相」が選ばれていく様子を見せられているように感じた。

同じ自民党だから。政権内で閣僚をやっていたから。党の要職を担っていたから。

菅政権への批判的な発言をしない理由は浮かぶ。菅政権を含む自民党への審判は次の衆院選で行われるものだという意見もわかる。

だが、10月19日公示、31日投開票となる次期衆院選では岸田氏が“選挙の顔”となる。「菅政権は過去のもの」としてポジティブな発信がされていくのであれば、総裁選の時からきちんと前政権への総括や検証をどう考えているのか問われるべきだったのではないだろうか。

安倍・菅政権の総括とは 新型コロナ対策で目立った「見通しの甘さ」

菅氏は2020年9月、「安倍政権の継承」を掲げて首相となった。

菅政権の新型コロナウイルス対策は、「見通しの甘さ」が目立った。

菅政権発足の2ヶ月前に始まった政府の観光支援策「GoToトラベル」は、当時官房長官だった菅氏が旗を振ってきたものだ。昨年10月には対象を東京都にも拡大したが、感染状況は悪化。「第3波」が到来し、結局12月には全国での一斉停止を表明した。

今年1月には2度目の緊急事態宣言を発出した。宣言は延長され、3月まで続いた。宣言はたびたび延長され、多くの人が振り回された。

東京都に4度目の緊急事態宣言が発出される中、東京オリンピック・パラリンピックも開催。菅氏は「安心安全の大会を実現していく」と強調していたが、7月23日の東京オリンピック開幕後、東京都の新規感染者数は増え続けた。医療崩壊を防ぐため、8月2日には感染者が急増する地域では入院を制限し、中等症や軽症の患者は自宅療養を原則とする新たな方針を決定。この方針には自民党、公明党からも撤回を求める声が上がった。

菅氏は8月6日、「オリンピックが感染拡大につながっているという考え方はしていない」と関連を否定したが、直後に実施された朝日新聞の世論調査(8月7、8日)では、「安全、安心の大会」が「できた」は32%で、「できなかった」が54%で上回った。

8月20日には全国の1日の感染者数が過去最多の2万5866人に。その5日後、政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長は、オリンピックの開催決定が国民に「矛盾したメッセージとなった」、政府が「専門家より楽観的な状況分析を行った」と述べたと報じられた

オリンピックとの因果関係は不明でも、増加する感染者への対応は後手に回り、政府の対応が正しかったとは言えないのではないだろうか。

これまでに発出された緊急事態宣言をめぐる経緯の一覧は次の通り。

 【緊急事態宣言】

1回目

2020年

4月7日 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県

4月16日 対象を全国に拡大

5月7日 期限を「5月31日まで」に延長

5月14日 対象を北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県に縮小

5月21日 対象を北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県に縮小

5月25日 緊急事態宣言を解除

2回目

2021年

1月8日 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県

1月13日 対象に栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県を追加

2月8日 栃木県は解除し、宣言を延長

3月1日 対象を埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県に縮小し、期間を「3月7日まで」とする

3月8日 期間を3月21日まで延長

3月21日 緊急事態宣言を解除

3回目

4月25日 東京都、京都府、大阪府、兵庫県

5月12日 対象に愛知県、福岡県を追加し、期間を「5月31日まで」とする

5月16日 対象に北海道、岡山県、広島県を追加

5月23日 対象に沖縄県を追加し、沖縄県の期間を「6月20日まで」とする

6月1日 他の地域の期間も「6月20日まで」に延長

6月21日 沖縄県のみ期間を「7月11日まで」に延長、その他の地域は解除

4回目

7月12日 対象に東京都を追加、期間を「8月22日まで」とする

8月2日 対象に埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府を追加し、期間を「8月31日まで」とする

8月20日 対象に茨城県、栃木県、群馬県、静岡県、京都府、兵庫県、福岡県を追加し、期間を「9月12日まで」とする

8月27日 対象に北海道、宮城県、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、岡山県、広島県を追加

9月13日 宮城県、岡山県以外の地域の期間を「9月30日まで」に延長

9月30日 緊急事態宣言を解除

内閣官房ウェブサイトより作成)

菅氏は「説明しない姿勢」をたびたび指摘され、「説明責任」も問われ続けていた。首相として臨んだ記者会見でも、質問に正面から答えなかったり、記者団から手が挙がっていても時間で打ち切ったりする姿勢が目立った。

新型コロナ対策などを議論するため、野党は7月から憲法53条に基づいて臨時国会の召集を求めていた。だが菅氏は応じず、9月末になって「10月4日召集」と野党側に通知。臨時国会で質疑に立つことなく、首相を退任した。

昨年から、菅氏、岸田氏と、自民党総裁選という国民の多くが投票できない選挙で「次の首相」が選ばれてきた。2012年末から約7年8カ月続き、「憲政史上最長」となった第2次安倍晋三政権への総括もまだされていない。

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2019年10月15日、参議院予算委員会で当時の菅義偉官房長官(左)と話す安倍晋三首相(当時)=国会内

「次の首相は誰になるか」「首相候補はどういう考えなのか」「次の内閣の顔ぶれはどうなるか」

自戒も込め、「次」につながる動きばかりが報じられ、総括や評価の視点が欠けていたように感じている。永田町の動きをウォッチし、報じることはもちろん大切だが、国民の多くが「身近」とは感じていないであろう「派閥」の論理で「次の首相」が選ばれていくことの是非を問うことなく、その動向が事細かに報じられ、国民が関与することのできない世界を見せられているように感じた。

ある野党の衆院議員はこの間、自身の選挙区の中小企業を歩いて回り、どのような政策を求めるかたずねたという。ハフポスト日本版の取材に対し、こう語った。

「地方の中小企業はコロナ禍で利益が上がらず、痛みに苦しんでいる。岸田さんは総裁就任後、『年内に数十兆円規模の経済対策を策定する』と表明したが、安倍政権で政調会長までやっておられた方。党内で声を上げて、どうしてこれまでやってこなかったのか。安倍・菅政権に異を唱えず、バラ色の政策を打ち出しても、選挙対策と見られても仕方ない」

次期衆院選は目前に迫っている。安倍・菅政権への総括という視点を忘れずに、各党の政策や主張をしっかりとウォッチし伝えていく。そして、1票を投じたい。