『アナと雪の女王2』は「前作を上回るヒット」にならなかった。それでも、大人たちを惹きつける理由【考察】

一大ブームとなった前作と比べ、数字だけで見れば「前作を上回るヒット」にならず、「大人向け」とも評価された『アナ雪2』。それでも、強く推したい理由がある。いよいよテレビ初放送です。
ディズニーアニメーション『アナと雪の女王2』(2019年公開)
ディズニーアニメーション『アナと雪の女王2』(2019年公開)
©️2019 Disney All Rights Reserved.

2019年に公開され大ヒットを記録した『アナと雪の女王2』が11月19日、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)でテレビ初放送される。

振り返れば約2年前、劇場で映画が公開された当時、SNS上で寄せられた感想は「2は前作よりも大人向けだった」というものが多かった。人々はなぜ、そのように受け取ったのか。

その1つの“答え”は近年のディズニー作品に見られる“裏にあるテーマ”が深く関係しているように思う。テレビ初放送を前に、続編としての『アナ雪2』が作品を通じて伝えたかったメッセージについて考えてみた。

『アナ雪2』は「前作を上回るヒット」ならず。その要因を考えた

物語について深く考える前に、まず、数字としての『アナ雪2』を振り返っておく。

2021年9月時点での日本での歴代興行収入で、『アナ雪2』は133.7億円で18位となっている。「大ヒット」と言って間違いないが、2014年に公開された『アナと雪の女王』は255億円の4位で数字だけで見れば、続編として「前作を上回るヒット」にはならなかった。

続編がいかに前作を超えることが難しいかを物語っている。理由は様々あると考えられるが、1つには「歌」の存在があったと、まず筆者は考えている。

2014年に公開された『アナと雪の女王』では、作品全体や登場するキャラクターのみならず、物語のハイライトでエルサが歌う劇中歌『レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜』が大きな反響を呼んだ。

この曲は「触れた物を凍らせる」という不思議な力を持つがゆえに妹を傷つけ、周囲を怖がらせ、終いには自らの存在意義も分からなくなるというエルサの“生きづらさ”を象徴した歌でもあった。

当時、世界の様々な言語で歌われる動画がSNS上で拡散し、子どもたちを巻き込んだアナ雪ブームの火付け役となり、同じく劇中のアナとハンス王子のデュエット曲『とびら開けて』やアナが歌う『雪だるまつくろう』も人気曲となった。

一方、『アナ雪2』では『イントゥ・ジ・アンノウン 心のままに』という曲が物語のハイライトでエルサによって歌われるものの、前作のようには浸透しなかった。

子どもたちに絶大な人気を誇るディズニーアニメーション。『レット・イット・ゴーでは「ありの〜ままの〜」という歌詞が人気となったが、たとえ意味を知らずとも、子どもでも口ずさみやすい印象があった。

これと比べ、アナ雪2の『イントゥ・ジ・アンノウン』のサビには「未知の旅へ〜」という歌詞があるが、口ずさんでいる子どもは明らかに前作より少なかった。幼い子どもに意味を伝えようとしたら、正直少し難しいと思う部分もある。

このように、楽曲がもたらした影響は大きかったのかもしれない。Twitterでは実際に「アナ雪2の曲はちょっと複雑で難しい」との声も出ていた。

それでも、アナ雪2を推したい理由

数字上では前作に及ばなかった『アナ雪2』。だがそれでも、この作品を強く“推したい”理由がある。

それは、『アナ雪2』は姉妹愛を描くことだけで物語が終わらないからだ。

『アナ雪2』はハッピーエンドで幕を閉じた前作の3年後が舞台。物語の最大のテーマは「なぜ、エルサは力を与えられたのか」。その謎に迫っていくという展開だ。

自らが治めるアレンデール王国で平穏に暮らすエルサはある日、不思議な歌声を聴き、その歌声に自身の力の謎を解くカギがあると感じ、妹のアナや仲間と共に旅に出る。

ディズニーアニメーション『アナと雪の女王2』(2019年公開)
ディズニーアニメーション『アナと雪の女王2』(2019年公開)
©️2019 Disney All Rights Reserved.

前作では「抱え続けてきた生きづらさはプリンスとの幻想的な恋(従来からディズニーが描いてきた最も得意とする手法)ではもはや解決できない」というメッセージを強く打ち出した。

だからこそ、エルサにとってはアナという妹の存在や姉妹の愛が必要で、人々はそれに共感した。

これを前提に、続編では「自分は何者なのか」というルーツに迫っていく。『アナ雪2』はエルサという主人公が前作以上に自らの存在を顧みる物語でもあるのだ。

劇中のエルサのセリフに、こんな言葉がある。

「なぜ人と違うのか、知るのが怖いの」

このエルサが抱く恐れは、幼い子どもたちよりも、これまで生きてきた時間が長い大人たちの方がおそらく共感できるのかもしれない。

『アナ雪2』が公開された2019年のディズニー作品を分析してみると、主人公を通して、人生における生きづらさを描いた物語が多い。

実はこの生きづらさの描写が、昨今のディズニー作品が伝えている“裏テーマ”の一つだと言って良い。

2019年は顕著で、少なくとも『アラジン』(同年6月公開)や『トイ・ストーリー4』(同年7月公開)、『マレフィセント2』(同年10月公開)がそうだった。

“ファミリーエンターテイメント”かつアニメーションである以上、子どもたちが楽しめるように作られてはいるが、最近のディズニー作品には、ある程度の年月を生きて、“生きづらさ“を抱えた大人こそ、物語の主人公に感情移入できるようになっている気もする。

他にも、続編では「ある民族」の描写を通じて、迫害や強制排除といった「民族浄化」の問題を丁寧に描き、多様性を尊重したものとなっている。

このような点も、「大人向け」という感想が溢れた理由ではないだろうか。Twitterでも「アナ雪2の方が好き」との声も多いのは納得できる。

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11月26日には記念すべきディズニーアニメーション60作品目となる『ミラベルと魔法だらけの家』が公開予定となっている。作品を通じて届けられるディズニーのヒロイン像がどのように今後も変わっていくのか、注目したい。

(文・小笠原 遥/Twitter: @ogaharu_421

ディズニーアニメーション『アナと雪の女王2』(2019年公開)
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