「女性の胸を舐めた」と乳腺外科医が準強制わいせつに問われた事件、最高裁で結審。弁護側、検察側の主張は

一審は無罪、二審では逆転有罪判決が言い渡された準強制わいせつ事件。最高裁で口頭弁論が開かれました。
最高裁判所(東京都千代田区)
最高裁判所(東京都千代田区)
時事通信社

手術後に女性患者の胸を舐めたなどとして準強制わいせつ罪に問われた男性医師の上告審弁論が1月21日、最高裁第二小法廷(三浦守裁判長)であった。医師側は改めて無罪を主張。検察側は上告棄却を求め、結審した。判決期日は後日指定される。

どんな事件なのか?

男性医師は2016年5月、働いていた東京都足立区の病院で、女性患者の手術を行った。執刀後、病室で女性の着衣をめくって左胸を舐めるなど、抗拒不能に乗じてわいせつ行為を行ったとして、準強制わいせつ罪で逮捕・起訴された。

この事件では、女性患者の左乳首付近から医師のDNAと唾液に含まれるアミラーゼが検出されており、これが物的証拠となった。

裁判では主に、女性が麻酔の影響による「せん妄」状態で性的幻覚を見た可能性があるかということと、科学捜査研究所(科捜研)が行ったアミラーゼとDNA鑑定の信用性が争点となっている。

口頭弁論の内容は?

医師の弁護側は21日の弁論で、科捜研の鑑定結果について、信憑性が低く証拠から排除すべきだと主張。DNA定量検査の経過などを記したワークシートが鉛筆で書かれ、消しゴムで書き換えた箇所があったことや、調査の元となったDNA抽出液が破棄されて再検証ができないことなどを挙げ、科学の世界での作法、常識に明らかに反していると訴えた。

また、二審で検察側証人として証言した井原裕氏(獨協医科大学埼玉医療センター教授)は「せん妄の専門家ではない」などとも指摘し、科学的根拠のない独自の見解に過ぎないとした。

女性は、わいせつ行為を受けたとされる直後に、「たすけあつ」「て」「いますぐきて」と上司にLINEメッセージを送信している。弁護側は、せん妄状態では現実世界と結びついた言動をしながら同時に幻覚を見ることが起こり得ると主張。女性がせん妄状態にあり、性的幻覚を見た可能性が高いと訴えた。

検察側は、DNA鑑定について、女性の左胸から医師のDNAしか検出されず、女性のDNAは検出されなかったことは重要だと指摘。舐めるなどの行為で女性のDNAよりも圧倒的に多い量が検出されたためだとし、「女性の証言は科学的証拠によって強力に裏付けられている」と主張した。

抽出液が廃棄されて再検証ができないとする弁護側の主張については、女性の胸を拭ったガーゼの半分は現在も常温保存で残されていると指摘した。(※弁護団は弁論で、ガーゼに微物が均一に付着していることはありえないとして、同じ条件で再検証することができないと述べている)

また、井原氏の証言については、井原氏は臨床経験が極めて豊富で、すべてをせん妄に結びつける専門家よりはるかに信用性が高いと訴えた。

さらに検察側は、「弁護人は、せん妄の可能性があり、そうであれば幻覚をみた可能性があると、可能性の上に可能性を重ねている」などと指摘。女性が誤字を修正するLINEメッセージを送っていることや、証拠を残すために胸を拭わないよう看護師に指示をしていること、女性の証言が母親や看護師、被告人である医師の証言と整合していることなどを挙げ、被害が「頭の中の出来事ではないことは明らか」だと主張した。

これまでの経緯は? 一審では無罪、控訴審で逆転有罪の判決

2019年2月、一審で東京地裁は医師に無罪を言い渡した

一審判決は、女性が「せん妄」状態だった可能性があるとして、女性の証言の信用性に疑問が残ると判断した。また、アミラーゼとDNA鑑定について、科捜研の鑑定手法に問題があり誠実性が疑われると指摘。手術前の打ち合わせで医師の唾液が飛んだり、触診で汗などが付着した可能性が否定できないなどとして、「事件があったとするには合理的な疑いを差し挟む余地がある」とした。

検察側は控訴し、2020年7月の二審判決では、医師に懲役2年の逆転有罪が言い渡された

東京高裁は、女性の状態についてカルテに「術後覚醒良好」と記載されていたことや、LINEメッセージが他の証拠から認められる状況と整合することなどから、女性がせん妄に伴う幻覚を見た可能性はなかったと判断。科学鑑定については、鑑定を担当した研究員が相応の経験などを有していることや、あえて虚偽の証言をする必要性がないことなどから、「信用性を否定すべき理由はない」とした。さらに、女性の胸から採取された医師のDNA量が、会話による唾液の飛沫実験や触診実験で付着したDNA量と比べて多量だったことから、付着したDNAは胸を舐めたことによるものと判断した。

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