「うちは肉屋なのに…」伊藤ハムが挑んだ代替肉。葛藤から始まった開発の裏側は

30年後、食卓からお肉が消える…?大手食肉メーカーが相次いで代替肉市場に参入しています。
伊藤ハムの「まるでお肉!」シリーズのハンバーグ(左)/ 同社で商品開発を手がける弥冨紀子さん
伊藤ハムの「まるでお肉!」シリーズのハンバーグ(左)/ 同社で商品開発を手がける弥冨紀子さん
Huffpost Japan

「代替肉を使った新商品の開発を」

会社からそんな指令を受けたとき、伊藤ハムで商品企画をする弥冨紀子(いやどみ・のりこ)さんは心の内でこう思った。

“困ったな、うちは肉屋なのに…”

近年、環境や健康への意識の高まりを背景に、大手食肉メーカーが代替肉市場に続々と参入している。伊藤ハムも2020年、大豆ミートを使った同社初の家庭向け代替肉商品「まるでお肉!」シリーズを発売した。

食肉メーカーが挑んだ代替肉。その試行錯誤とはーー。

30年後、食卓からお肉が消える?商品開発の裏にあった食肉メーカーの危機感

代替肉市場への参入の背景には、食肉メーカーが“目を背けたくとも背けられない”地球規模の課題がある。

一つは人口増加だ。世界の人口は2050年までに97億人となると推計されている。膨らむ人口に肉の供給が追いつかず、肉が食卓にのぼることが「贅沢」となる未来が懸念されている。

また、畜産は、大量の水や飼料となる穀物を必要とするほか、世界の温室効果ガス排出量の約15%を占めるなど、環境負荷も大きい。

こうした背景から、肉の大量消費からの脱却「ミートレス」が唱えられるようになっており、肉を大豆など植物性の原料に置き換えた「代替肉」が注目を集めているのだ。

当初は、代替肉を手がけることに対して、「本業を否定してしまうのではないか」という反発も感じた弥冨さんだが、同時に、腹落ちする感覚もあったという。自身も、2005年に入社して以降、肉を安定的に仕入れ続けることへの難しさを肌身に感じていたからだ。

「肉の価格が近年、どんどん上がってきているというのは実感してきました。冬場は鳥インフルエンザが流行し、国内の鶏肉の供給が急に滞ることも。不測の事態がいつ起こるかわからないという不安は常に感じていましたね」

弥冨紀子さん
弥冨紀子さん
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「大豆ミート=美味しくなさそう」から始まった開発

しかし、開発にあたっては「食肉メーカーとして培ってきた技術を使ってどんな商品が作れるか」と頭をひねる日々が続いた。

実は、大豆ミートに対してはかねてから「あんまり美味しくなさそう」とネガティブな印象を抱いていたという弥冨さん。

実際に、売られている大豆ミートの商品も片っ端から食べてみたが、大豆特有の風味が強く、淡白で、「肉」とは程遠いものが多かった。

「一度あまり美味しくなかったら、もう次は買わないじゃないですか。大豆ミートを広げて定着させるためには、味のこだわりというのは絶対という気持ちで開発を続けました」

発売を決めたのは、ハンバーグや唐揚げなど食卓で定番の8種。(現在は14種を販売)

大豆の風味を抑えながら、それぞれの料理の香りや味、食感を追求した。試作は、多いものでは20回以上に及んだという。味付けや成形、“揚げ”や“焼き”などの加工には、「食肉加工のスペシャリスト」としてのノウハウや製造ラインが活きた。

「まるでお肉!」シリーズの人気商品「ナゲット」「ハムカツ」「肉だんご」
「まるでお肉!」シリーズの人気商品「ナゲット」「ハムカツ」「肉だんご」
伊藤ハム

ターゲットは、菜食主義者ではなく、肉を食べる消費者に向けた。肉を否定するのではなく、大豆ミートを肉と魚に次ぐタンパク源の新たな選択肢として、幅広い層に提案をしたいという考えからだ。

だからこそ、価格も肉製品と同程度にすることにこだわった。

「大豆ミートは自然食品を売っているような高級スーパーに並んでいることも多く、主婦目線で『高くて普段使いは難しいな』と感じていました。食べたいけれども手が出ない存在では浸透しないと思ったんです」

「大豆ミートがコミュニケーションツールになってくれたら嬉しい」

発売前は社内から「あまり売れないのでは」という声も聞こえたが、蓋を開けてみると、2020年度の売り上げは予想の2倍を達成。2021年度も前年度比を上回る見込みだ。コロナ禍で在宅時間が増え、健康意識が高まったことも後押しになった。

購買層の中心は50代女性だ。「大豆とは言わずに食卓に出したけど、気づかれなかった」「お肉を使ってないと信じられないくらいに美味しい」などの声が寄せられた。お弁当に使う家庭も多い。

「友だちや同僚とお弁当を食べながら、『このナゲットは、実は大豆でできていて…』みたいなコミュニケーションツールになってくれたら嬉しいですね。そうやって代替肉が楽しく広がってくれることを願っています」(弥冨さん)

大豆ミートの国内市場規模、10年後には2倍以上に

食肉業界では近年、競合メーカーも相次いで、家庭向けの代替肉商品に手を伸ばしている。

丸大食品は2017年、大豆ミートを使用した「お豆のちから畑のバーグ」などを発売。日本ハムは2020年、大豆やこんにゃくなど植物由来の原料を使用した新ブランド「ナチュミート」を立ち上げた。

植物由来の代替肉の市場は今後、さらに拡大していく見込みだ。調査会社のシード・プランニングによると、2020年の国内市場規模は346億円だったが、10年後には2倍以上の780億円に達する見込みだという。

また、政府が発行する「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」は2021年、「代替肉」を「食の一つの選択肢」として初めて取り上げた「見た目や食感も肉に近い代替食材が開発されるようになり、より身近な存在になることが期待されています」としている。

「疲れたから夕飯を作るのめんどくさい」

「手抜き料理って思われるかも」

「もっと食べたいけど、ダイエットや健康が気になる」

「環境にも身体にも良い食べ物って美味しくなさそう」

「ヴィーガンをはじめたいけど、周りに言いづらい」

人は、食べることなくして、生きられない。

それなのに、食をめぐってはたくさんの我慢や罪悪感、課題があります。

もっとおいしくて、ラクで、栄養がとれて。食品ロスや環境破壊など、食をめぐる社会問題にもきちんと気を遣いたい。

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Yuki Takada / Huffpost Japan