ジェンダーギャップ指数、13年連続トップはアイスランド。北欧諸国がとった政策と理念

アイスランドをはじめとする北欧諸国のターニングポイントとなった出来事や政策を専門家に聞きました

世界各国の男女格差を比較したジェンダーギャップ指数。世界経済フォーラムが7月13日に2022年版の調査を発表、日本は調査対象146カ国中116位となった。

一方で今回も上位に並んだのは、トップのアイスランドをはじめとする北欧の国々だ。

北欧のジェンダー政策に詳しい立命館大学政策科学部の大塚陽子教授に、北欧諸国が歩んだ道のりを取材。日本にとって参考になる視点はあるのか、ヒントを探った。

アイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相(2019年)
アイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相(2019年)
NurPhoto via Getty Images

今回のジェンダーギャップ指数2022で1位となったのはアイスランドで、13年連続で「世界で最もジェンダー平等が進んでいる」と評価された。

2位以降はフィンランド、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデンが続いた。上位5カ国の顔ぶれは前回と同じだった。

アイスランドの画期的な法律

北欧諸国で男女の格差が縮んできた背景には、いくつかターニングポイントとなった出来事があった。

アイスランドでは2010年、経済的機会の平等を進める上で重要な法律ができた。

従業員50人以上の企業に対し、男女いずれかの性がもう一方の性の4割を下回らないようにすることを義務付ける法律だ。また、従業員25人以上の企業に対し、男女別の従業員数と管理職数を公表することも制度化した。

背景には、2008年に起きたリーマン・ショックがある。

経営危機に陥った金融企業に公的な財政支援をすることが議論になったとき、国民からの反発は大きかった。そこで注目されたのが、女性経営者が舵取りを担っていた企業に、危機を乗り越えた事例があったことだ。

同質的な組織よりも、意思決定層にさまざまなバックグラウンドや属性の人がいる方が変化に対応しやすく、リスクを回避できるという傾向は、さまざまなデータから明らかになっている

当時のアイスランドでも金融企業のトップ層は男性が多かった。そんな中で女性がトップ層にいる意味や意思決定の場の多様性が着目された。

こうした政策を引っ張ったのは、2009年に就任したヨハンナ・シグルザルドッティル首相。アイスランドで初めての女性首相だった。

ヨハンナ・シグルザルドッティル氏(2010年)
ヨハンナ・シグルザルドッティル氏(2010年)
AFP via Getty Images

2018年には、男女の賃金格差にアプローチする法律ができる。

従業員25人以上の企業に対し、同一労働をしている男女の同一賃金の証明を義務付けたものだ。

性別を理由とした差別的な慣行を禁じ、同一労働にたずさわる場合には同じ賃金・同じ雇用条件を求めた。

罰則規定が含まれており、従業員である当事者が声を上げなければならないのではなく国が企業に直接介入するという点で「画期的だった」と大塚教授は解説する。

世界に先駆けてこうした法律ができた背景には、2016年に起きた大規模なストライキがある。

女性たちは午後2時すぎに仕事を切り上げて国会前でストライキを行った。女性の平均所得が男性よりも3割程度少なかったことを踏まえて、労働時間の7割程度のタイミングで仕事を切り上げて、その格差を可視化したものだ。

この法律も、当時就任して間もない女性首相のカトリーン・ヤコブスドッティル氏がリードしてできた。

政治が動くきっかけとなったストライキは、1975年の「女性の休日」を起源としている。

男女の賃金格差や性別役割分担に抗議し、多くの女性たちがストライキを実施。当時、国内の女性の約9割が参加したともいわれている。同様のストライキは1985年、2005年、2010年、2016年、2018年にも起きた。

北欧の戦略的なジェンダー平等政策

アイスランドを例に振り返ったが、大塚教授は「北欧諸国は北欧共通の福祉モデルを理念的基礎としながら戦略的にジェンダー平等を進めてきた」と指摘する。

第2次世界大戦以降、北欧諸国では、人々の生活やビジネス上の交流が盛んになった。いずれの国に滞在しても適用可能な老齢年金や疾病手当などの互換制度が拡大した。同時に相互に比較可能なデータが蓄積された。

時には良きライバルとしてそれぞれ個性を打ち出しつつも、良い政策があれば取り入れることもよくあるという。

1960年代から70年代、女性が男性と平等な権利を求めて世界的に巻き起こった「ウーマン・リブ」を大きな転換点として、さらに女性の社会進出に大きく舵を切ることになった。

1970年代にオイルショックが起きると、経済的な困難を乗り切るために教育や福祉といった「公共部門」で女性の雇用を増やしていく政策が採られた。

だが、この政策には批判も起きたという。

公共部門で女性の雇用が増えた一方で、民間部門には男性が多く、就ける仕事に偏りがあったためだ。「国と女性との間で雇用契約が結ばれただけで、男女平等とは異なるのではないか」という見方もあったという。

そこで、男性の働き方を含めて社会全体が変わっていくべきだという考えが深まっていった。1990年代以降は、男性が育休を取得しやすくするための制度が広がった。

制度の詳細は各国で異なるが、今では「育休は個人の権利」という考えが、北欧諸国では男性たちにも浸透しているという。1995年の北京女性会議(国連の第4回世界女性会議)以後は、さらに足並みを揃えてジェンダー平等を進めていった。

参考になる視点とは

北欧諸国は経済的な危機を乗り越える戦略として、ジェンダー平等を進めてきたことがうかがえる。

日本にとって参考になる視点はあるだろうか。

日本では4月から男性が育休をとりやすくするための新制度が順次始まった。企業に対し、従業員に育休の制度を周知し、取得の意向を確認することを義務付ける。

さらに男女の賃金格差の是正に向けた具体的な取り組みも進んでいる。

厚生労働省は7月8日、従業員が301人以上の企業に対し、男女間の賃金格差の開示を義務付ける「女性活躍推進法」の省令改正を施行した。

大塚教授はこうした情報開示の取り組みに一定の評価を示した上で、低賃金で不安定になりがちな非正規雇用のあり方を見直し、同一労働同一賃金の徹底を目指すとともに、女性の管理職比率を増やすことにより目を向けるべきだと語る。

女性の就業率は7割となっているが、非正規雇用の比率が54%と、男性の22%に比べて高い。大塚教授によると、例えばアイスランドでは短時間労働の雇用形態はあるものの、正規・非正規という雇用形態の区分けはないという。

そして、日本が参考にできる視点としては「理念」がまず先にあるべき、と指摘する。

北欧諸国では危機を乗り越えるための戦略として男女の平等を進めてきた面もあるが、ベースには「個人の権利や生き方を尊重するという明確な理念がある」といい、「個別の政策がどんな効果をもたらし、最終的にどういう方向性を目指すのか。まずはそこを定めることが重要ではないでしょうか」と話す。