「お辞儀の練習と言って体を触る」就活セクハラ、深刻な被害の実態は

厚労省の調査では、就活やインターンをした学生の4人に1人がセクハラを受けたというデータも。被害の実態と対策、相談窓口について聞きました。

就職活動やインターンをしている学生に対するセクシャルハラスメント(就活セクハラ)が問題化している。

厚生労働省は3月、被害にあった学生へのヒアリングを新たに実施することや、社員がセクハラをした企業に対する指導の強化を含む対策を発表した

就活やインターンをした学生の4人に1人がセクハラを受けたという国の調査結果もある。被害の実態と対策について労働問題に詳しい弁護士に聞いた。

Yuki Takada/ハフポスト日本版

就活セクハラとは

厚労省は2021年3月、2017年〜2019年度に大学などを卒業し、就活やインターンシップをした男女1000人を対象に就活セクハラに関する調査を実施した。

調査によると、回答者のうち4人に1人(25.5%)が被害の経験があると答えた。

被害の内容は「性的な冗談やからかい」(40.4%)が最も多く、「食事やデートへの執拗な誘い」(27.5%)、「性的な事実に関する質問」(26.3%)と続いた。「性的な言動に対して拒否・抵抗したことによる不利益な取り扱いをされた」(11.0%)という事例や「性的な関係の強要」(9.4%)といった非常に深刻な被害を受けた人もいた。

心身への影響としては、「怒りや不満、不安などを感じた」(44.7%)が最も高く、「就職活動に対する意欲が減退した」(36.9%)が続いた。

また、具体的な相談には必ずしもつながっていない傾向も明らかに。

セクハラを受けた後の行動については、「何もしなかった」(24.7%)が最も多く、大学のキャリアセンター、家族・友人、大学の指導教授などに相談した人はいずれも2割に満たなかった。「就活自体をやめた」(7.8%)という人もいた。

面接で結婚の予定を聞かれる…具体例は

「性的な冗談やからかい」や「食事やデートへの執拗な誘い」――厚労省調査からこうしたハラスメントが起きていることが明らかになっているが、具体的にはどのような状況で起きているのか。

労働問題に詳しい長谷川悠美弁護士に、日本労働弁護団が2021年から22年に実施したLINE相談会で寄せられた事例を踏まえ、傾向を聞いた。

長谷川さんによると、相談の中で多かったというのが、選考の場での不適切な言動。中でも、結婚予定の有無を聞かれたという女性からの相談が複数あったという。

・就活の際に彼氏の有無、結婚の可能性の有無を聞かれた。

・履歴書の配偶者の有無欄の「無」に◯をつけているにも関わらず、面接官から「結婚の予定は無いの?」「相手いそうなのにね」と言われた。

男女雇用機会均等法に照らして、女性に対してのみ結婚予定の有無を聞くことは就職差別につながるおそれのある不適切な質問だ。

男子学生に対する被害も明らかになっている。前述の厚労省調査では、被害の経験があると答えた男性は26.0%で、女性(25.1%)よりも多かった。

日本労働弁護団の相談会では、男子学生から以下のような相談が寄せられた。

・選考でプレゼンテーションを終えると、面接官から「君のプレゼンはマスターベーションみたいなものだよね?」と言われた。ショッキングな言葉に動揺したからか、ほとんど記憶にない。

オンライン面接で不用意な発言も

コロナ禍で広がったオンライン面接で、以下のような言葉を投げかけられた学生もいた。

・オンラインの面談で、人事担当者から「見た目が完璧過ぎて緊張する」と言われた。

オンラインの就活が広がり、学生が自宅で面接を受けることも多い中で、外見やプライベートな領域に不用意に踏み込んだと捉えられかねない言動だ。

また、関心のある企業や業界の社員を学生が訪問し、性被害にあう深刻な事例も寄せられた。

・OB訪問マッチングサイトを利用して会った男に、カラオケ店で「お辞儀の仕方」と称し、お辞儀の練習をさせられ、体を触られた。

深刻な就活セクハラ、背景と必要な対策は

就活の場でセクハラが起きる背景には、何があるのか。

長谷川弁護士によると、一般的にハラスメントは立場の弱い人が被害にあいやすい。その中でも特に就活中の学生は、「誘いを断ったら内定を取れないかもしれない」という考えになりやすいという。

また、男女雇用機会均等法に基づいて、企業はセクハラの相談窓口を設けるといった対策を義務付けられているが、対象は雇用している労働者にとどまっている。

企業や国は、どんな対策をとるべきなのか。

長谷川さんは第一に、企業に対する周知や指導が必要、と語る。

面接で結婚の予定を聞くといった不適切な質問をすることがないよう、まずは面接担当者などへの社内教育の強化を求めた。

また、学生が万一ハラスメントにあった場合に、相談しやすい窓口を企業が設置することも重要だと指摘する。

2020年6月から国のハラスメント防止対策が強化され、就活生ら雇用関係がない人に対するハラスメントについても、企業が行ってはならない旨を明確化することや相談があれば適切な対応を取ることが「望ましい」としている。

長谷川さんはこの動きについて「第一歩」とした上で、就活生らへの対応も法的義務に位置付けるべきだと指摘している。

厚労省は3月、就活セクハラの対策を強化すると発表

大学でハラスメントの防止や対策について解説する「出前講座」や被害にあった学生へのヒアリングを新たに実施し、社員がセクハラを起こした企業に対する指導を強化することを盛り込んだ。

個室や酒席での面会に注意を

もしも学生が被害にあってしまった場合には、日本労働弁護団や各都道府県の労働局、大学のキャリアセンターなどの相談窓口に相談してほしいと、長谷川さんは呼びかけている。

事前に防ぐ手立ての一例として、先輩の社員を訪問する場合には、カラオケなどの個室や、お酒を飲む場で会うことは避けてほしい、と長谷川さんはアドバイスする。

「例えばファミレスなど、人がたくさんいる場で会うと良いと思います。無理にそうではないところに連れ出そうとする場合は、毅然と断ってほしい」。

厚労省もリーフレットを作成し、都道府県労働局の相談窓口を掲載。「オンライン面接の時に全身を見せてと言われた」「恋人がいるか聞かれた」などの事例を挙げ、『これってハラスメントかも?』と思ったらどんなことでも相談を」と呼びかけている

日本労働弁護団でも電話相談窓口で、就活セクハラの相談も受け付けている。

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