「女性活躍」だけでは格差は縮まらない。労働分野のジェンダーギャップ解消に必要なこと

「ジェンダーギャップ指数2022」で、政治分野に次いで低迷する経済分野。首藤若菜教授は、女性たちの仕事が「きちんと評価され、報酬や労働条件に反映されることが必要」と語ります。

男女格差の大きさを国別に比較した、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」が7月13日、発表された。

日本は調査対象となった146カ国のうち116位だった。4つの評価項目のうち、政治分野に次いで低迷するのが経済分野で、管理職や収入での男女格差が大きかった。

従業員が300人を超える企業に男女の賃金格差の公表を義務づけるなど、働く場のジェンダーギャップ解消に向けた動きは進んでいるものの、性別役割分業の意識は根強く、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が女性の働きやすさや成長の可能性をさまたげているという見方もある。

労働分野の格差解消に必要な視点とはーー。立教大学経済学部の首藤若菜教授(女性労働論)に聞いた。

ジェンダーギャップ・レポート2022より作成
ジェンダーギャップ・レポート2022より作成
Yuki Takada/ハフポスト日本版

「配慮」が「排除」になることもある

ーー「ジェンダーギャップ指数」で日本は低迷が続いています。どのように見ていますか。

法制度上の平等は進んでも、格差は縮小しないっていうのが日本社会の実態なのかなと私は思っています。

ーーそれは、どういう意味でしょう。

つまり、制度上や法律上の機会の均等は進展してきたと思います。男女雇用機会均等法(1985年)が施行・改正され、「女性だから」採用しない・賃金を低くする、といった直接的な性差別は相当減ったと思います。育児介護休業制度もかなり充実したものになり、女性の取得は進みました。

しかし、格差はあまり縮小していません。働く場における格差を議論するとき、一番わかりやすいのが賃金です。学歴や職種、企業規模、勤続年数などにより一般的に賃金には格差があります。

ですので、同じ学歴、同じ職種、同じ企業規模……と条件をそろえて比較していくと、男女の賃金格差は縮まっていきます。

むろんそれでも、格差はあります。

例えば同じ正社員同士で、同じ職種で働いているように見えても、配置や教育の中で少しずつ差がついている現実があります。

以前、ある営業職の職場を調査したことがあります。男性が多い職場ですが、女性も働いています。

入ったばかりの社員には上司がお客さんを引き継ぐのですが、男性と女性とでは引き継がれる数が違っていました。仕事上、お客さんの家に訪問することもあって「女性は大変だから」と「配慮」される。

そうすると、やはり売れる数が違ってきて、男性の方が、歩合で受け取る分の賃金が高くなる。そのうち女性は営業を補助するような仕事に配置が変わることもある。

同じようなことは、他の職場でも起きているのではないでしょうか。

こうした職場におけるさまざまな「配慮」が、ときに「排除」になってしまう場合もあります。

「女性には大変な仕事を割り当てない方が良い」といった配慮は、学問的には一種の差別だと言われています。「女性は能力が低い」などという明らかなものは「敵対的差別」と呼ばれますが、大変な仕事を割り当てないといった配慮も「好意的差別」と呼ばれます。

背景にある、男性の働き方の問題

ーー男女の賃金格差でよく目にするOECDの調査は、男性を100としたとき女性は77・5%となっています。これはフルタイム同士の比較ですね(*1)。

雇われて働く労働者全体でみると、100対50くらいになります。

短時間労働者を含めて全雇用者の平均賃金が出る「毎月勤労統計」を見ると、この半世紀、女性の賃金水準は男性の50%ぐらいで推移しています(*2)。

この統計にはパートも含まれます。パートで働く女性は多いので、労働時間が短く、就労日数が少ない分、女性の賃金が低くなるのは当然のことではあります。

問題なのは賃金格差の要因、つまり賃金の低い方に女性がたくさんいるということなんですね。この構造的な問題に切り込まなければ、格差は縮小しないと私は思っています。

大きく2つの方法があると思っています。

一つは、フルタイムで働き、より賃金の高い職種に、女性ももっと就けるようにすること。格差を縮小するためには、より賃金の高い仕事に、誰もが就けるような働き方に変えなければいけないと思います。

もう一つは、介護や医療など女性が多い職種の賃金をあげていくことです。

〈*1 経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の女性の賃金(中央値)は男性の77・5%となり、43カ国・地域で下から3番目となっている〉

〈*2 2021年の毎月勤労統計(1ヶ月分の平均)の現金給与総額は男性40万7616円、女性22万265円で、女性は男性の54%だった〉

ーー構造的な問題とは何でしょうか?

なぜ多くの女性がパートを選ぶのか、なぜフルタイムで働いていてもいったん仕事をやめなければならないのか、といったことです。

その背景を突き詰めていくと、女性の働き方ではなく、男性の働き方の問題に突き当たると私は考えています。

男性がワークライフバランスをきちんと取れていないと、男性が多い職域に女性が入っていく際にワークライフバランスを諦めなければ入りにくい。休んでいると、周囲に遅れを取ってしまうからです。

そういう意味で、長時間労働の是正が進んでいくことの意義は大きいのですが、もっと男性の働き方を変えていくということに踏み込まないと、この問題は解決できないと私は思います。

女性はワークライフバランスのために「早く帰っていいですよ」「育休を取ってくださいね」と言われる一方で、男性の長時間労働が変わらないとなれば、男女の間でキャリアの積み重ね方に差が生じ、賃金格差が生まれてしまいます。

同じ仕事をしていて、男性は時給二千円、女性は千円となるといった目に見える差別があるわけではもちろんありません。でも仕事や雇用形態を分けて、こちらの時給は二千円、あちらの時給は千円と分けている。

学歴が違う、職種が違う、雇用形態が違うーーと、見かけ上の理由はありますが、そこで現実的に生まれている格差をどう乗り越えていけるのか、ということだと考えています。

『女性活躍』という言葉への違和感

ーー2つの方法のうち前者の「より賃金の高い職種に女性も就きやすくする」ために、具体的にどんなことができますか。

管理職の一定割合に女性を割り当てる「クオータ制度」を取っていくことは有効だと思います。女性にも管理職の門戸は開かれていますが、現実を見ると少ない。

組織の行動様式が変わってくる割合として、「3割」という数字が設定されています。

先ほど「配慮が排除になっている」という例を話しましたが、管理職登用も目標値を決めていくと「配慮している場合ではない」と自然になっていくと思うんですよね。

――クオータ制度については「数ありきではなく能力がある人を登用するべき」という意見がよく出てきます。

能力は育てていくものですよね。女性だけに限らず、組織として人を育てようとしなければ、育ちません。企業がきちんと育てているかどうかが問われています。

同時に、一生懸命育てたとしても、途中で離職してしまう、という側面もあります。待機児童問題など社会制度とも関わり、企業だけで対応できないことは当然ある。

企業と社会が車の両輪のようにして進めていく必要があるとも思います。

政府が進めている企業に男女の賃金格差の公表を義務付けることも、一定のプレッシャーにはなると思います。

ーー後者の「女性が多い職種の賃金を上げていくこと」については、何が必要ですか?

政府の「骨太の方針」にも看護師や保育士といった職種の賃上げが盛り込まれていますが、これは重要です。

また、企業の中だけでなく、企業を超えてキャリアアップできるような取り組みも進んでほしいです。

政府が進めているデジタル人材の育成も大事ですが、現実に女性が多く働いている医療や介護の現場でも、企業の枠を超えてスキルをあげて、自分の職業人生を向上させていけるような政策がもっとあると良いなと思います。

――首藤さんが以前、「『女性活躍』という言葉に違和感がある」と指摘していたのが印象に残っています。どんな意味だったのでしょう?

「女性活躍=管理職を目指すこと」というイメージで報道されることが、ここ最近よくあったと思います。女性活躍推進法で女性管理職比率の数値目標を定めることが盛り込まれ、その部分がクローズアップされてきたのかもしれません。

組織の働き方を変えていくためにも、女性が意思決定に関わることはとても重要です。

しかし、スーパーで働いているパートの女性たちが活躍していないかといえば、決してそうではない。すごく活躍していますよね。役職が上がらないと活躍していない、というような捉え方は間違っていると考えています。

パートがいなければ回らない職場はたくさんあり、彼女たちがいなければ日本社会はやっていけないでしょう。コロナ禍ではそうした人たちへの感謝もよく言われました。

感謝だけではなく、きちんと評価され、報酬や労働条件に反映されることが必要だと思います。

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