男子は実験、女子は片付け? 小学校で女子が「お世話役」になる理由

「台所で、母の手伝いをする。」「ぼくは、カブトムシの研究をしている。」…小学4年生の漢字テキストの例文です。子どもたちはもともと思い込みや偏見をもたないのに、もしかしたら教師が学校生活を通じて、無自覚にジェンダー規範を植え付けてしまっているのかもしれません。
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子どもたちはいつから「男のくせに」「女なのに」という感覚を身につけるのでしょうか。学校の中で自然に身についていくジェンダーの影響について、多様性教育を実践する小学校教師に聞きました。

小学4年生の漢字テキストの例文には、性別役割分担を固定化させかねない表現があった
小学4年生の漢字テキストの例文には、性別役割分担を固定化させかねない表現があった
OTEMOTO提供

「台所で、母の手伝いをする。」

「ぼくは、カブトムシの研究をしている。」

これは、小学4年生の漢字テキストの例文です。

東京都の私立桐朋小学校で多様性教育を実践してきた星野俊樹さんは、20年ほど前に原型がつくられたこの小学校のテキストに、次々と赤字を入れていきました。

テキストの改訂時期がきたため校正を手伝っていたところ、料理は母親がやるものだ、昆虫が好きなのは男の子だといった、性別に基づく固定観念につながりかねない例文が少なからず見つかったからです。

「子どもたちはもともと思い込みや偏見をもたないのに、もしかしたら教師が学校生活を通じて、無自覚にジェンダー規範を植え付けてしまっているのかもしれません」

※ジェンダー規範 = 男性と女性がどのようにあるべきで、どう行動し、どのような外見をすべきか、という考えのこと。(出典:UN Women東京事務所

意図せず子どもに影響

このテキストがつくられた当時と比べ、今は共働き世帯が増えて約6割となり、夫婦の家事分担が進んでいます。理系に進む女性が増え、女性の研究者も右肩上がりに増えています。

この例文は「台所で、父の手伝いをする。」「わたしは、カブトムシの研究をしている。」という表現であってもいいですし、そもそも男女を分けて表現する必要があるのかどうかも最近は問われるようになっています。

社会の変化に学校が追いついておらず、これまでと同じ指導を続けてしまったり、教師の価値観をそのまま子どもに教えてしまったりすることが学校では少なからず起きている、と星野さんは指摘します。

「学校のほうも、この漢字テキストによって固定的な性別役割分担を子どもに教えたかったわけではなく、単に改訂していなかっただけです。しかし、その間にこの例文が多くの子どもたちに与えた影響は、思いのほか大きいのではないでしょうか」

星野俊樹(ほしの・としき) / 1977年生まれ。桐朋小学校教諭。大学卒業後、出版社勤務を経て小学校教員に転職。東京都内の公立小学校に6年間勤務した後、学園法人桐朋学園桐朋小学校に着任。社会的排除に向き合う人権教育に関心がある。
星野俊樹(ほしの・としき) / 1977年生まれ。桐朋小学校教諭。大学卒業後、出版社勤務を経て小学校教員に転職。東京都内の公立小学校に6年間勤務した後、学園法人桐朋学園桐朋小学校に着任。社会的排除に向き合う人権教育に関心がある。
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女子が男子の「お世話係」に

学校教育には「隠れたカリキュラム」という言葉があります。学校や教師が、暗黙のうちに子どもたちに伝えてしまっている価値や規範、行動の様式などを意味します。

社会学者の村松泰子さんは、この「隠れたカリキュラム」によって学校生活のさまざまな場面で、子どもたちがジェンダー規範を取り入れることになっていると指摘しています。

多くの学校では、男子と女子を二分する場面がよくあります。

星野さんがよく目にしてきたのは、教師が「女子は残って」「男子はこっちに来て」などと、男女2つの性別グループを利用して、集団を動かす指導です。

「時間に追われてゆとりのない教育現場で、多くの子どもたちを動かすためには、男女別に2つのグループに分けるのは効率がいいのです」

「しかしそうすると、人間を分ける最も基本的で自然な基準が性別であるというメッセージを、子どもに伝えてしまいます」

このように、指導のやりやすさのためにジェンダーが使われているケースは少なくありません。

「男女混合のグループでは、教師が女子に『お世話係』の役割を期待していることもあります」

例えば、理科の実験で男女を混合の班にすると、男子が実験をやり、女子が記録や後片付けをするといった、性別役割分担が自然にできてしまう傾向があるといいます。

「女子がサポート役を買って出てくれると学級を円滑に運営できるので、教師がこの構造を利用したり、調整せずに見過ごしたりしていることがあります」

女子は発言しても聞いてもらえない

こうした「隠れたカリキュラム」によるジェンダー規範の刷り込みによる影響は、小学校の中学年くらいから顕著に見られるようになる、と星野さんは実感しています。

子ども同士で「男のくせに」「女なのに」という言い方をするようになったり、男子が女子の発言を冷やかすようになったり。集団生活の中で、男子は「弱みを見せてはならない」、女子は「自分は発言しても聞いてもらえない」という意識にとらわれていく様子を、星野さんはどうにかしたいと考えてきました。

差別について考えた授業の板書
差別について考えた授業の板書
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星野さんは、5年生の担任をしていた2017年から「生と性の授業」と題して、多様性教育を実践しました。5年生ではジェンダー・バイアスについて、6年生では性の多様性について扱いながら、「”ふつう”とは何か」「自分らしさとは何か」を2年かけて子どもたちと考え続けました。

世の中は、男か女かの二種類の人だけで構成されているわけではないこと。肌の色や性別、障害など自分ではどうにもならないことで不利益な扱いをされている人がいること。

小学生には難しい内容かもしれないと思いながら慎重に進めていたところ、やがて「『女子力』っておかしくない?」という疑問や、「LGBT」という言葉が子どもたちから発せられるようになり、星野さんは驚きます。

「女子の関係はドロドロ」は本当か

星野さんは、「生と性の授業」を通して改めて、大人が子どもにジェンダー規範の刷り込みをしてはいけない、と感じたといいます。ジェンダー規範は無意識に行動に現れ、周囲との関係性にも影響するからです。

「教師の間で、小学校高学年の男子のトラブルはけんかや暴力、女子のトラブルは人間関係のドロドロ、といわれ、男子は行動に、女子は内面にフォーカスした指導になりがちです。しかし、本当にそうなのでしょうか」

「もともと男子の内面にある繊細さや優しさに、大人は寄り添ってきたのでしょうか。耳を傾けようとしてきたのでしょうか。彼らが弱い感情をさらけ出せる環境をつくってあげたのでしょうか」

それは、子ども時代の星野さん自身の叫びでもありました。

(取材・文:小林明子)

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