税金を滞納するなどした場合に、外国人の永住許可を取り消せる規定を盛り込んだ入管難民法の改正案(6月に参院本会議で可決、成立)について、国連人種差別撤廃委員会(CERD)が日本政府に対し、改正法の見直しや廃止措置などに関する回答を求める緊急の書簡を提出したことを受け、日本で暮らす永住者や外国人支援の団体が7月22日、衆議院議員会館(東京)で記者会見を開いた。
資格の取り消し事由を拡大
入管庁の統計によると、永住者は約89万人(2023年末時点)。
法案には、永住許可を得ている外国人が故意に税を納付しなかったり、拘禁刑に処されたりした場合、永住資格を取り消すとの内容が盛り込まれた。在留カードの常時携帯など入管法上の義務を順守しない場合も、取り消しの対象となる。
従来の制度でも、永住者が虚偽の申請をしたり、1年を超える懲役や禁錮刑に処され強制退去となったりした場合などは、永住資格を失う。改正法は、そうした資格取り消しの対象を拡大するものだ。
国会審議では、永住者全体における税などの未納件数や割合を示す調査結果を入管庁が示さず、一部の野党議員から「立法事実が確認できない」などと批判の声が上がっていたが、6月の参院本会議で自民、公明、日本維新の会、国民民主など各党の賛成多数で可決、成立した。
「不均衡な影響を憂慮」と表明
NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)は、「早期警戒・緊急措置手続き」(early warning and urgent action procedure)に基づき、CERDに対して永住資格の取り消しをめぐる法改正の動きを報告した。
CERDは6月25日付で日本政府宛てに書簡を送付。この中で、永住資格の取り消し制度に関して「人種差別撤廃条約の下で保護される諸権利に及ぼしうる不均衡な影響を憂慮する」などと指摘。
加えて、「市民ではない人に対する差別に関する一般的勧告」を踏まえ、改正法が市民ではない人に差別的な影響を及ぼさないことや、国外退去命令への異議申し立てなどの救済措置を実際に利用できるようにすることなどを日本政府に求めた。
移住連の丸山由紀弁護士は、記者会見で「永住者が公租公課の未納や軽微な刑事事件を起こした場合にも、督促や現在の法律上の処分で日本国籍者と同じように対応すれば十分なはず。それにもかかわらず、在留資格を不安定にさせる法案は非常に差別的だ」と指摘。
その上で、「人種差別撤廃委員会も差別的な法案だとして受け止めたことは重要」だと強調した。
日本も批准する自由権規約12条4項は、「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と定めている。
在日コリアン弁護士協会代表の金哲敏弁護士は、この規定が「『特別な関係を有する国に戻る・その前提としてとどまることができる権利』を保障している」と説明。「(改正法は)不合理な差別であり、自由権規約に違反して許されないものであることは明らか」だと指摘した。
「日本政府には報告の義務がある」
会見には、日本で暮らす永住者たちも出席し、永住資格の取り消し事由の拡大に反対の声を上げた。
華僑2世の陳隆進さん(日本華僑華人聯合総会・会長)は「日本で生まれ、日本語しかわからず、日本でのみ生活基盤を持つ永住者は数多くいます。この法案は、永住者たちの平穏に生きる権利を著しく脅かすものだと認識し、関連条文を削除するよう日本政府に強く求めます」と訴えた。
民団中央本部・副議長の權清志さんは、資格取り消し制度は「絵に描いたような差別」だと批判。「当事者の永住者たちに十分なヒアリングもせず、法案が通ってしまった。悔しさ、虚しさしかない」と現在の心境を明かした。
「横浜華僑総会」顧問で中国籍の曽徳深さんは、資格取り消しの拡大に反対する永住者たちに向けられる「帰化すれば良い」という声に対し、「帰化は、日本政府が求める『何か』になりなさいと言われているようで、それは私にとっては受け入れ難いこと。アイデンティティを失いたくないというのが(帰化をしない)主要な理由です」と述べた。
国連人種差別撤廃委員会は日本政府に、8月2日までに回答するよう求めている。
移住連の藤本伸樹さんは「日本政府は、国連人権機関から勧告を受けるたびに、『国連勧告には法的拘束力がない』と決まり文句のように主張してきました。ですがCERDが出した書簡に対しては、人種差別撤廃条約9条に基づき、締約国である日本政府に報告の義務がある。スルーすることはできない」として、回答するよう要求した。
【取材・執筆=國﨑万智(@machiruda0702)】