同性カップルの結婚を実現しない国の“注視”発言に「心をえぐられる」。原告が1日も早い結婚平等を訴える

違憲判決が相次いでいる「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告が、「注視する」という発言を続けている国に対する思いを語った
東京の日本記者クラブで開かれた「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告や弁護団らによる記者会見(2025年4月23日)
東京の日本記者クラブで開かれた「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告や弁護団らによる記者会見(2025年4月23日)
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結婚の平等が日本で認められていないことに対し、司法からの厳しい判断が示されている。

法律上同性カップルの結婚を認めるよう求め、性的マイノリティ当事者が国を訴えている「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、5つの高裁すべてが「結婚を認めていない民法や戸籍法の規定は違憲」という判決を言い渡した。

しかし政府は相次ぐ違憲判決について、最高裁の判断などを「注視する」と言い続け、違憲を解消するための動きを見せていない。

石破首相は1月、「同性婚は国民生活の基本に関わるものであり、国民一人一人の家族観にも密接に関わるので、国会の議論や訴訟の状況を注視する」と発言した。

林官房長官も3月、大阪で5つ目の高裁違憲判断が言い渡された後に、「最高裁判所の判断を注視していきたい」と述べた

法律上同性のパートナーとの結婚を望み続けている原告は、この「注視」をどう受け止めているのか。4月23日に東京で開かれた記者会見で、原告が次のように語った。

(左から)中谷衣里さん、小野春さん、ゆうたさん、こうぞうさん、田中昭全さん、川田有希さん
(左から)中谷衣里さん、小野春さん、ゆうたさん、こうぞうさん、田中昭全さん、川田有希さん
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北海道訴訟 中谷衣里さん

「全国5カ所の高裁で、満場一致の違憲判決が出ました。でも政府だけは頑なに注視するという発言を繰り返し、法整備の議論に取りかかる気配を全く見せていません。注視という言葉を、婚姻不平等状態という社会課題の先延ばしに使わないでほしいと思っています」

東京訴訟 小野春さん

「提訴をした2019年の3年前、私に乳がんが見つかり、抗がん剤治療や左胸全摘手術をしました。しかしがんの芽はすでに体内に広がり、いつ目覚めるのかわからない状態です」

「万が一にも私が死ぬ時に家族が家族として扱われず、残された家族の尊厳が踏みにじられるようなことがあれば、恨んでも恨み切れません。1日だって先延ばしされては困るのです。私たちを早く結婚させてください」

九州訴訟 こうぞうさん

「僕とパートナーの結婚を当たり前の幸せと言ってくれる母は、今年で83歳です。そんな母が何歳になるまで、国は中身の見えない慎重な検討を繰り返すのでしょうか。時間がないんです。家族のあり方の根幹に関わる問題だからこそ、一刻も早く同性婚の法制化を実現していただきたいと願っています」

九州訴訟 ゆうたさん

「政府はいまだに注視すると言ったり、やらない言い訳を探したり、生産性のないことばかり繰り返しています。今ある法律の文言修正で済みます。今すぐにやってもらいたいと思っています」

愛知訴訟 大野利政さん・鷹見彰一さん(いずれも仮名、弁護士が代読)

「地裁判決時から、注視しますという官房長官や国の姿勢に傷つき、いつしか違憲判決が出ても、喜びよりも、どうせまた国は注視だろうと思うようにまでなっていました」

「東京2次を除く高裁判決が出揃った時には『一歩前進した回答や動きがあるのでは』とかすかに期待しました。しかしこれまでと同様の不誠実なコメントに心をえぐられました。各高裁が、法制化の方法などに具体的に言及しているにも関わらず、注視を貫く国の姿勢は、同性愛者を認めない、結婚させないと言っているようにしか思えません」 

関西訴訟 田中昭全さん

「小学校6年ぐらいで同性愛者だと自覚してから、結婚という未来はないのかなとずっと諦めてきていました」

「生涯のパートナーが見つかった時にも結婚という制度は私たちを対象にしていないのだと改めて思わされることが度々ありました」

「それでも高裁で違憲が出て、(同性カップルに)異なる扱いをしていることが差別だと言われた時に、ようやく安心できるようになりました。もうあとは立法だけだと思っています」

関西訴訟 川田有希さん

「地裁の意見陳述で、父親が『息子には婚姻をして親を安心させてほしい』と話してくれました。それを叶えたい。僕たちがお願いしているのは、普通に結婚し、普通に暮らせる権利です。政府はいつまでも注視するという言葉を使っているけれど、ちゃんと僕たちと向き合って政治をして、法制化をしてほしいと思っています」

政党に要請文を提出

「結婚の自由をすべての人に」裁判は2019年に北海道、東京、愛知、大阪で一斉提訴が行われ、その後九州と東京2次訴訟が加わった。

地裁と高裁を合わせた11件の判決中、10件で違憲/違憲状態が示されている。特に、2024〜25年にかけて言い渡された5つの高裁判決は、すべてが明確に違憲と判断した。

大阪高裁を含めたこれまでの判決の結果
大阪高裁を含めたこれまでの判決の結果
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高裁判決の中では、同性カップルの結婚が認められていないことは「性的指向による差別」「人格的利益が著しく損なわれている」などの判断が示されている。

その一方で「結婚は子を産み育てるためのものなので、自然生殖の可能性のない同性カップルは認められる必要はない」などの国側の主張は、退けられてきた。

国側にとっては厳しい判断であるにも関わらず、政府は「注視」コメントを続けるにとどまっている。

原告らは記者会見の後、結婚の平等実現のための法整備を求める署名と要請文を各政党に手渡した。

北海道訴訟の須田布美子弁護士は、この要請文について、法制化に今すぐに着手してほしいという思いを伝えるものだと記者会見で述べた。

「裁判所が現行法の違憲性を指摘するたびに、国は慎重な検討を要する問題だと言ってきました。しかし国は実際に慎重な検討をしたでしょうか」

「全国の5つもの高裁で、民法のような基本的な法律の違憲性が指摘されるというのは、憲政史上まれに見ることです。この状況を放置することが許されるはずはありません。国が法改正を先延ばしにしている間に原告さんの一人はお亡くなりになりました。放置してよい問題ではないのです」

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