幻の“問題映画”の完成版が存在か。45年ぶりに『道化師が泣いた日』のコピーがあると俳優が明かす

ホロコーストを描いた映画『道化師が泣いた日』の完成版は存在しないと考えられていた。
監督を務める映画『The Day the Clown Cried(道化師が泣いた日)』の撮影現場で、スウェーデンの俳優と話すジェリー・ルイス(左)(1972年4月14日)
監督を務める映画『The Day the Clown Cried(道化師が泣いた日)』の撮影現場で、スウェーデンの俳優と話すジェリー・ルイス(左)(1972年4月14日)
Express Newspapers via Getty Images

映画史上、最も物議を醸すであろう作品の一つと言われている未公開映画『The Day The Clown Cried(道化師が泣いた日)』の完成版が存在する可能性があることがわかった。

『道化師が泣いた日』はアメリカのコメディアン、ジェリー・ルイスさんが主演・監督を務めて1972年に製作された。

同作で、ルイスさんは第二次世界大戦中にヒトラーを馬鹿にしてナチスに収容所に送られたサーカスの道化師、ヘルムート・ドークを演じている。ドークはアウシュヴィッツに収容された子どもたちを笑わせる役目を担うものの、最終的には子どもたちのガス室送りを手伝うことになる。この作品は正式には公開されず、未完成と考えられていた。

しかし、スウェーデンの俳優ハンス・クリスピンさんが5月、1980年にヨーロッパフィルム社のスタジオからこの作品のフィルムを盗み、VHSにコピーしたとスウェーデンのテレビ局SVTの取材に述べたとAVクラブが報じている。

スウェーデン・ヘラルドによると、クリスピンさんが盗んだとされる映像は、冒頭のパリで撮影された部分が含まれていなかった。しかしクリスピンさんが他の部分を持っていることに気づいた元同僚が、その部分を送ってきたという。

ルイスさんは亡くなる2年前の2015年に『道化師が泣いた日』の未完成映像5時間分をアメリカ議会図書館に寄贈。その際に2024年までは閲覧できないという条件をつけた。

一方、クリスピンさんは映画の完成版のコピーとオリジナル原稿を銀行の金庫に保管していると主張しており、ルイスさんの映像と同じ様にアメリカ議会図書館のアーカイブに加えられることを望んでいるという。

『道化師が泣いた日』の映像を見たことのある人は限られており、映画ファンの間で伝説的な存在となっている。

視聴したことがあるというコメディアンのハリー・シェアラーさんは「この映画はあまりにも根本的に間違っていて、哀しみと笑いがあまりにも的外れなんです。でもそれがあまりにも完璧で、『こうかもしれない』と想像しても、実物には敵わないんです。『なんてことだ!』としか言えませんよ」と1992年のスパイマガジンのインタビューで語っている。

シェアラーさんは「言葉にするとすれば、(メキシコの)ティファナに行って、突然黒いベルベットに描かれたアウシュビッツの絵を目にしたような感じだった」とも表現している。

「なんてことだ、ちょっと待ってよ!と言いたくなるんです。面白くもないし、出来がいいわけでもない。誰かが強く抱いている感情を、まったく的外れな方法で必死に伝えようとしている、そんな感じでした」

『道化師が泣いた日』は、その内容だけではなく予算や権利をめぐる問題から公開に至らなかった。

ルイスさんは2013年、作品について「全部がひどかったんです。その理由は、私が“特別な力”を失ってしまったからです」とロイターのインタビューで述べている。

「誰もこの映画を見ることはないし、今後誰にも見せません。なぜなら出来の悪さが恥ずかしいからです」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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