「人は空を飛べると信じられるか?」
それは1978年の映画『スーパーマン』の象徴的なキャッチコピーだった。しかし、2025年に登場したジェームズ・ガン版『スーパーマン』が観客に問いかけるのは、その先だ。
「空を飛べる男が、たった一匹のリスを救うと信じられるか?」
新たなスーパーマン像を作り上げたガン監督は、誠実さと優しさを作品の軸に据えた。かつての“神のような存在”ではなく、「時には間違い、打たれても立ち上がり、それでも他者に優しくあろうとする人間的なヒーロー」を描くことを目指した。
その象徴ともいえるのが、瓦礫に押しつぶされそうなリスをスーパーマンが助けるシーンだ。
News York Timesによると、観客の一部から「都市全体が危機にあるのに、なぜ小動物に構うのか」と批判もあったが、ガン監督にとっては「本作の核を表現するために、絶対に必要な場面」だった。
「僕にとってこの映画は“希望”よりも“思いやり”の物語なんです」「誰かを愛し、守ること。見返りがなくても手を差し伸べること。それがこのスーパーマンの本質なんです」とガン監督は語る。
本作で描かれるカル=エル(クラーク/スーパーマン)は、過去作での暗く重苦しいイメージとは対極にある。主演のデヴィッド・コレンスウェットさんは、時代に取り残されたかのような“誠実さ”をまとっている。
終盤には、クラークの部屋に貼られた架空のポップパンクバンド「Mighty Crabjoys」のポスターが登場する。Rolling Stone India誌によると、この設定はガン監督が脚本執筆中に思いついたもので、ついにはオリジナル楽曲まで制作され、エンドクレジットに流れることとなった。Spotifyのアルゴリズムで偶然出会ったTeddybears feat. Iggy Popの「Punkrocker」とともに、映画の“誠実はパンクだ”というテーマを音楽的にも補強している。
クラークの恋人、ロイス・レインを演じたレイチェル・ブロズナハンさんも当初は「誠実すぎると思われたくない」と語ったが、ガン監督は彼女に「誠実でいることこそが今一番パンクなこと」と返したという。皮肉や防衛で武装した現代において、あえて真っ直ぐでいることは“最も尖った態度”であると、ガン監督は信じている。
本作では、スーパーマンの出生にまつわる設定も大胆に改変された。彼のクリプトン人の両親であるジョー=エルとラーラは“冷酷な選民思想”の持ち主として描かれ、主人公は“運命だから”ではなく、“自分の意志で正義を選ぶ存在”として成長していく。「この変化は絶対に覆さない。それがこの物語の核心なんです」とガン監督は断言する。
さらに今後、彼が構想するDCユニバースの広がりには、スーパーガールやバットマン、そしてテレビシリーズも含まれる。スーパーガールは「よりロックで荒々しい存在」として別のトーンで描かれ、2026年公開予定の『Woman of Tomorrow』では、また違ったスーパーヒーロー像が描かれる予定だ。
『スーパーマン』はアメリカ国内で好調な成績を収めているが、ガン監督は「この映画が刺さるには時間がかかる地域もある。特にスーパーマンがまだ知られていない国では」としながらも、世界中から寄せられる反応には手応えを感じているという。
「僕とピーター(共同CEO)が3年間水をやって育ててきた“種”がようやく芽を出した。この映画はその始まりにすぎない」とガン監督はNew York Timesに語る。
