
東京・明治神宮外苑に建設予定の「新秩父宮ラグビー場」の公聴会が10月23日に都庁で開かれた。
公聴会では「もっと多くの人が参加できる形で開催してほしい」と求めた市民と、応じなかった東京都職員の間で、一部のやり取りが紛糾。
すべての公述人(意見を述べる人)が陳述できていないまま、都が公聴会の終了を宣言したものの、市民は開始から丸一日たった24日午後も、都に改善を求め続けている。
公聴会で市民が求めたもの
神宮外苑では、再開発で現在の秩父宮ラグビー場を取り壊し、新国立競技場の横に「新秩父宮ラグビー場」が建設される。
新ラグビー場は高さが48メートルあり、建築のために多くの樹木が伐採される。

神宮外苑の環境を大きく変える建築計画だが、23日の公聴会期日を知らせる「公示」が行われたのは10月15日と、開催の約1週間前だった。
さらに、公聴会で意見を述べたい場合は、開催3日前までに都に意見書を提出するよう求められた。
このスケジュールに対し、公聴会では「1週間しかなかったため、会があることを知らない人や意見書を出せなかった人、休みを取れずに意見書を出しても出席できなかった人がいる」という声が複数人からあがった。
実際、会場には、意見書を提出した37人の公述人の席が用意されていたが、半数以上が空席で、出席できなかった人たちがいた。
意見を述べた住民の一人は、「1週間は短すぎるので、出席できなかった人のために第2回を開催してほしい」と要求。しかし都は応じる姿勢を見せず、1時間以上にわたるやり取りが続いた。
都は最終的に、陳述を続けたこの公述人に退場するよう求めたが、公述人は「第2回の開催が確約されるまでは退出しない」と拒否した。
その後、都はまだ意見を述べていなかった残りの公述人らに陳述を促したが、大半が「私たちも2回目を実施してほしいので、開催が約束された後に公述する」として、東京都の回答を待った。

それでも都の職員は態度を変えず、開始から4時間30分ほど経った18時半ごろに、複数人の公述が終わっていない状態で、「意見を述べられないようであれば本日の公聴会は終了します 」と宣言した。
これに対し、公述人や参加者は「公述が終わっていないのだから終了は認められない」と反論し、会場に残って訴えを続けた。
求められる「市民の声を聞く」姿勢
公述人や参加者が求めたのは「より多くの人が参加できるようにするための、2度目の公聴会の開催」の1点だ。
しかし都の職員は頑なに態度を崩さず、終了宣言後に、会場から次々に上がった「多くの意見を聞くことが目的なのだから、もう一回公聴会をやってほしい」「そもそも開催自体を知らない人もいる、何のための公聴会なのか」「これでは公聴会の体をなしていない」という声に対し、「公聴会は終わらせていただいているので、退出を願います」という言葉を何度も繰り返した。

東京都の規則では、公聴会は期日の1週間前までに公示すると定められている。
しかし、公聴会に参加した環境アセスメントの専門家で東京科学大学名誉教授の原科幸彦氏は、「1週間は最低限の条件であり、通常は1カ月近くの期間がある」とハフポスト日本版に話した。
また原科氏によると、1回目の公聴会でまとまらなかった場合、2回目を開催することは可能だ。
神宮外苑再開発を巡っては、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が2024年に、広く市民や関係者の意見を募る「パブリックコンサルテーション」が不十分で、「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」と懸念を表明している。
原科氏は、都の姿勢はまさに国連で指摘された「市民の声を聞かない」ことであり、それが繰り返されているのが大きな問題だと述べた。
意見陳述ができなかった公述人の一人、東京大学名誉教授の石川幹子氏は、「公述をしたいと何度も伝えたにも関わらず、都からは『したくないと言われた』という誤った発言もあった上、公聴会が同意なく終了された。これは市民の基本的な権利の剥奪になる」とハフポスト日本版に述べた。
ハフポストは東京都都市整備局の担当者に、第2回公聴会の開催などについて質問を送り、回答を求めている。
