「まさか心を癒すための場所で…」。怖いことに巻き込まれた私は、“泣き寝入り”しなかった【最終回】

最も信頼できる人のもとへ行き、女性は「命を守る」ことができた。ある機関から、公認心理師との面談を行うと返信があった【「私が巻き込まれた陰謀論」⑤】

トラウマ克服のため通っていた都内のカウンセリングオフィスで、公認心理師から陰謀論を聞かされたという女性に取材しました。

「誰でも巻き込まれる可能性がある」。そう語る女性の証言や記録をもとに、シリーズ「私が巻き込まれた陰謀論」を全5回でお届けしています。

「“命の危険”を感じる」

そう思った私は、最も信頼のおける知人の女性に会いに行った。

いつも優しく話を聞いてくれ、暖かく包み込んでくれる。そこだけが、私にとっての「安全な場所」だった。

「ありえないことが起きて…」

こう切り出した瞬間から、涙が止まらなくなった。号泣しながら、これまでの経緯を全て話した。

公認心理師に“洗脳”されそうになったこと。私のほうに問題があるかのように言われたこと。助けを求めた機関に冷たくあしらわれたことーー。

最後に震える声で絞り出した。

「やっぱり私が全部悪かったのかな。なにもかもが怖い」

すると、知人の女性は静かに首を横に振った。

「そんなことはない。あなたがおかしいわけではない。大丈夫だからね、大丈夫」

最も信頼する人からの言葉に、少しずつ心がほぐれていく感じがした。今このタイミングで同じ時間を共有できたことも大きかった。

「あのまま1人でいなくてよかった」

後から聞くと、知人の女性は私の目に生気がなかったことから、ただ事ではないと思っていたようだ。

涙は出し切った。同時に、同じような思いを他の誰にもしてほしくないという気持ちも大きくなってきた。

「もう我慢しなくていい。あそこにはもう通わないのだから」

女性が公認心理師から話された「アドレノクロム」について言及する投稿(※画像を一部編集しています)
女性が公認心理師から話された「アドレノクロム」について言及する投稿(※画像を一部編集しています)
Xから

唯一、希望が持てたのは、日本臨床心理士資格認定協会への相談だった。

公認心理師は、民間の「臨床心理士」の資格も持っていた。

「倫理申立ならできますよ」。2025年5月、受話器の向こうで、担当者が淡々と言った。

鬱々とした気持ちは晴れなかったが、それでも書類を送ってもらうことはできた。

私は自分の身に起きたことを一つひとつ書き出し、証拠をまとめて郵便局から送付した。

《能登は人工地震だった。珠洲市がスマートシティだったから狙われた》

NHKDSからお金をもらっている》

《三浦春馬と竹内結子はアドレノクロムを知って殺された》

心の傷を癒したい。過去のトラウマを克服したい。こう願って通った場所で、こんな話をされるとは思わなかった。

まさか「心を壊す場所」になるなんて、思ってもみなかった。

日本臨床心理士資格認定協会からは、同月中に「申立書を受け取った」という書面が届いた。

それからしばらく連絡はなかったが、9月中旬にようやく同会の倫理委員会の委員長名で一通の文書が届いた。

「本委員会で対応すべき案件と判断し、面談調査を行う」

つまり、公認心理師に話を聞くということだ。

しかし、その面談調査の日程は「2026年2月の予定」だという。既存案件の処理が滞っているためとの説明だった。

長い。あまりにも長い。

ようやく“誰かが見てくれた”という実感はあったものの、本当に調査してくれるのか、有耶無耶にされないか、不安は消えなかった。

ただ、長い時間止まっていた時計の針が、少しだけ動いたような気はした。

「心を守るための専門家が、心を壊すような言葉を投げていいはずがない。次の“被害”が生じる前に、しっかり反省してもらいたい」

私はぎりぎりのところで踏みとどまれた。結果的に洗脳もされなかった。周囲に話を聞いてくれる人がいたことで、自分の命を守ることができた。

でも、まさか心を癒すための場所で、心を開放する場所で、こんな“怖いこと”に巻き込まれるとは思わなかった。

関係機関に“たらい回し”にされるとも思わなかった。

もし、あの言葉をセラピーだと信じて受け入れていたら。信頼のおける知人の女性が近くにいなかったら……。

私はどこまで引きずり込まれていただろう。今頃、どんな顔をしていただろう。

そう思った瞬間、背中に冷たいものが走った。

氷の塊が、首元をつたって落ちていくようだった。(取材・文:相本啓太)

注目記事