オードリー・タンが心に余裕を持つ秘訣 【インタビュー全文:その④完】

「体がリラックスすると、異なるアイディアをすぐに批判したり、これは良くてこれは悪いと決めつけずに受け入れられます」なぜおおらかになることが大事なのか。
オードリー・タン台湾デジタル担当大臣
オードリー・タン台湾デジタル担当大臣
SAM YEH via Getty Images

デジタルの力を使い、革新的な施策をすすめる台湾のデジタル担当大臣・オードリー・タンさん。反対意見や怒りを感じることに直面すると「お茶を淹れる」という。それは、体をリラックスさせ、異なるアイデアを批判せずに、前向きな新しい未来のため、建設的なエネルギーを生み出すための所作でもあるようだ。

デジタル格差、どうすれば解決できますか?

――日本では多くの高齢者がコンピューターやテクノロジーを使うことを好まない一方で、ミレニアル世代はテクノロジーを使いこなします。こういったデジタル格差をどうやって乗り越えればいいでしょうか?

タン:テクノロジーとは情報テクノロジーのことだけではなく、民主主義や総統選挙なども含まれます。

私たちが生まれつき持っているものは人間の特性、そして生まれた後に教わるものはテクノロジーです。

私たちの祖父母世代は、テクノロジーである民主主義に参加したいと願っています。彼らが闘って手に入れたものだからです。

私たちの世代のために、祖父母や両親の世代が、民主主義の社会を作りました。彼らは、国民投票などにもとても熱心で意見を持っています。

私の祖母は、私にとって一番の政治アドバイザーです。私は祖母に毎週電話し、2週間に1度は祖母の家を訪れています。ちょうど昨日電話した時には、日本のマイナンバーカードに当たるEIVの、事前の本人同意の重要性について話してくれました。とても良い議論でした。

高齢者の知恵はとても貴重です。若い世代である私たちがやらなければいけないことは、彼らがテクノロジーに従ってくれとお願いする事ではなく、テクノロジーを彼らにとって使いやすくする事です。

祖母は、全民健康保険カードを使って、コンビニエンスストアでマスクを事前予約したり、振興三倍券をもらったりできます。なぜならコンビニエンスストアには若い人が働いていて、手助けしてくれるからです。

やり方ががわかれば、祖母は友人に教えられます。社会とは、そうやって機能すべきものです。祖母はiPadも使えますし、バーチャルリアリティーも使いこなせます。ただし、キーボードやマウス、小さな画面は使いにくいという問題があります。

だからこそ、私たちは大きなiPadを使うなどして、デジタルサービスをより使いやすくしなければなりません。そうすれば、祖母や彼女の77歳の“若い”友人は、大きなiPadを使ってコンビニエンスストアでバーコードやQRコードをスキャンできます。

最適なテクノロジーとは、技術に従ってくれとお願いすることではなく、技術を人々が使いやすいものにすることです。

なぜ、台湾は投票率が高いのですか?

左から、竹下隆一郎編集長、オードリー・タン台湾デジタル担当大臣・入山章栄教授
左から、竹下隆一郎編集長、オードリー・タン台湾デジタル担当大臣・入山章栄教授
Huffpost japan

――台湾では前回の総統選の投票率は、74.9%でした。日本に比べるととても高いのですが、なぜ台湾の人々は選挙に行くのでしょうか?

タン:2つの要素があると思います。

まず最初に個人的な話をすると、20歳になって初めて選挙で、私は休みを1日とって住民登録地まで戻りました。それは行政区長を選ぶ選挙だったと思うのですが、とても小規模な選挙でした。そして、私が投票した候補が1票差で勝ったのです。この一票の力が、私に刻み込まれました。

もし私が帰省して投票していなければ、応援していた候補は当選しなかったかもしれない。この時に、自分の選択には大きな力があるということを気づきました

他にも、小学校や、生活協同組合などで様々な選挙があります。一つ一つのスケールは小さいかもしれませんが、たくさんの選挙に参加すればするほど、全ての投票が重要なものだということが刻み込まれます。それが、投票率を高くするための鍵だと思います。

もう一つ重要なことは、選挙が社会の団結を示すということです。台湾では開票プロセスを全ての人に公開しています。人々は投票ブースにやってきて開票作業を見ることができます。

録画も許されていて、ユーチューバーも開票作業を見にやってきます。こういったプロセスを通して、選挙の透明性と公平性を示すだけでなく、開票作業を社会全体が祝うことができます。

開票作業は社会全体が楽しむものであり、社会的なセレモニーです。それがとても重要だと思います。

オードリーさんのビジョンを教えてください

――透明性と民主主義を達成するために市民にビジョンを伝えることが大切だと思いますが、オードリーさんはどんなビジョンをお持ちなのでしょうか?

タン:私のビジョンはTwitterにピン留めされています。なので、Twitterを見ていただけるとわかると思います。そしてこれは私の仕事の内容でもあります。

とても短いので、読みあげます。

モノのインターネットを見たら、ヒトのインターネットにしよう。

仮想現実を見たら、共有の現実にしよう。

機械学習を見たら、共同学習にしよう。

ユーザー体験を見たら、人間体験にしよう。

シンギュラリティ(特異点)が近いと聞いたらプルーラリティ(複数の可能性)がここにあると思い出そう。

どうやったら、あなたのように心に余裕が持てますか?

――自分や他者の違いを理解して受け入れるために、ある程度心の余裕が必要だと思います。どうやったらあなたのようにリラックスして、心に余裕を持つことができるのでしょうか。

タン:もちろん、私には様々な面があり、異なる意見を受け入れるためには努力も必要です。

賛成できない、もしくは受け入れられない考えや意見を聞いた時、私は必ずお茶を淹れ、2つのフレーバーを合わせます。時には機械が作った、新しい音楽をかけることもあります。

そして、視覚を刺激したり、読書したり、ポッドキャストで聴覚を刺激したりして新しいアイディアが浮かんだら、それをお茶の味や匂いや音楽によって生み出された、穏やかな気持ちと掛け合わせます

そうすると心の中に、私が「スピリチュアルメッセージ」と呼ぶものが作り出されます。

肩をマッサージしてもらったら、痛みを感じますがそれはその人があなたを痛めようとしているからではなくて、あなたの体が抵抗力を感じているからです。

マッサージと同じように、いい香りの香水を身につけるなどして体がリラックスすると、異なるアイディアをすぐに批判したり、「これは良くてこれは悪い」と決めつけずに受け入れられます。

私は大抵7〜8時間は寝るのですが、リラックスした後に夜ぐっすり寝ると、起きた時に長期記憶の中に残っている、お茶の香りや音楽を思い出すことができます。

そうすると、落ち着いた気持ちで「この意見は、共通の価値観を持つ他のアイディアとうまくいくだろうか」と考えることができます。

日本はどう変わればいいでしょうか?

オードリー・タン台湾デジタル担当大臣
オードリー・タン台湾デジタル担当大臣
Huffpost Japan

――最後に、日本はどうすれば、もっと多様でイノベーティブになれるでしょうか?

タン: その質問には、レナード・コーエンの詩でお答えしたいと思います。

「まだ音の鳴るベルを鳴らそう / あなたの完璧な申し出のことは忘れて / 全てのものにはヒビがある / そこから光が差し込む」

この詩を通して私が言いたいのは、不正義や何かに注目が集まっていないことに対して怒りを感じている時には、その怒りを建設的なエネルギーに注ぎ込もうということです。

その時に問いかけるべきなのは「この不正義が二度と起こらないために、私たちは社会としてどんな行動ができるだろう?」という問いです。

その問いを、怒りに対して抱き続けることで、怒りは建設的なエネルギーになります。

そして、誰かを攻撃したり何かを非難したりせずに、前向きな新しい未来のための原型を作る道に止まることができます。

あなたが見つけたヒビに他の人たちが参加し、そこから光が差し込みます。

(英語訳・執筆:安田聡子 中国語訳:高橋史弥・月川雄 編集:井上未雪 協力:坪池順)

▶︎番組はアーカイブでハフポストLIVEのYouTubeチャンネルから視聴できます

URL:https://youtu.be/l3H0ZmUNlQ

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