マッサンをあわてさせた「パパ、私アメリカに行ってもいい?」(若松千枝加 留学ジャーナリスト)

今でも多くの留学希望者が、周囲の反対にあいます。反対の主は親とは限らず、祖父母、兄弟、あるいは友人、恋人、学校の先生、など多岐に渡ります。
Four students sitting on the grass in a park, with some buildings in the background. Two female and two male students
Four students sitting on the grass in a park, with some buildings in the background. Two female and two male students
Henrik Sorensen via Getty Images

「パパ、私、アメリカに行ってもいい?」

これはつい先日、大好評のうちに幕を閉じたNHK朝の連続ドラマ「マッサン」の、3月16日放送の一シーン(一字一句この通りのセリフではありませんでしたが)。マッサンとエリーの愛娘エマが、進駐軍に同行してアメリカに渡る通訳職の試験を「受けてもいい?」と許可を求めた場面です。

■「しょせん、留学は"逃げ"だ。」

時は戦後まもなく。戦勝国のアメリカに日本人が行くことは、ましてや若い女性が行くには、人並み外れた勇気を必要としたことでしょう。マッサンは自身がスコットランドへの単身留学経験がある人です。ましてや、スコットランド人女性を日本までお嫁に来させたマッサン。そんなマッサンであっても、あの難しい時代です。愛娘を外へ出す決断を即座に下せなくても無理はありません。ドラマではエリーが「エマの人生はエマのもの。私たち(親)はそれを反対しない。」と発言したので最初は「おいおい」という表情だったマッサンも賛成の空気になりました。

当時とは大きく変わった現代。海外渡航をめぐる事情は大きく変わったけれども、今でも多くの留学希望者が、周囲の反対にあいます。反対の主は親とは限らず、祖父母、兄弟、あるいは友人、恋人、学校の先生、など多岐に渡ります。

反対理由で目立つのは、例えばこのような声です。

「そんな短期間行ったって意味がない(語学力が伸びない)」

「たいした目的もないのに行ってどうする」

「いい歳してバカなこと言わず、早く落ち着け」

「危ない」

「夢みたいなこと言うな」

「人のまねしても仕方がない(友人などが行っている場合)」

「会社を辞めるなんて(安定した生活を捨ててはならない)」

「周囲の人(同僚など)に迷惑をかけるのか」

「遊びに行くつもりだろう」

「おまえの留学は"逃げ"だ。」

金銭的な理由で反対されるケースはあまり聞きません。むしろ、精神的な理由や周囲との比較や人間関係においての内容が目立ちます。

■「俺を置いていくのか」と泣きつく恋人

留学を反対された場合、選択肢は3つ。説得する、反対されたまま行く、あきらめる、のどれかです。親のなかには、わざと反対して本人の決意の固さを知ろうとする人もいるため「説得する」という選択肢は比較的有効です。この話し合いをきっかけに、普段はなかなか真剣に話し合う場のない家族の新しいステップになることもあります。

しかし、従順に育ってきた人や自分の意見を口にするのが苦手な人、あるいは反対主との人間関係がそれまであまりにも良好だった人(例:仲良し母子で母親に泣いて反対されるケース、恋人に「置いていくのか」と泣きつかれるケース)は、相手を傷つけるのを恐れるがあまり、二度と『留学』の二文字を口にできない場合もあります。

反対の理由を、言葉どおりに受け取れないこともあります。本音は「とにかく漠然と心配だから」という反対主、自分および近い人々の経験事例以外は認められない反対主(学位をとる留学以外は意味がない等)、向上や変化よりも安定を重んじる反対主もいます。悲しいことではありますが「ねたみ」が存在する場合も。

■行きたくない人をその気にさせるよりも。

いま日本では、文科省主導の「トビタテ!留学JAPAN」をはじめ、2020年までに海外留学する日本人を倍増させるための施策を行っています。新しい啓蒙活動も良いけれど、私は、この「反対」の声を逆転するだけで、倍増くらいなら簡単に到達するのではないかと見ています。というのも、正確な統計ではないものの、留学会社の声や大学関係者などに聞く話、自身の職業上のヒアリングを通しての話等を総合すると、一度も反対されたことのない留学希望者は10人に1人程度ではないかと推測されるからです。反対のひとつやふたつ、克服できないで留学を志すなんて甘いというご意見もありましょうが、実際には、自分の愛する人から涙を流して反対されたら、なかなか自分の意志を押し通すのはつらいものです。

留学生倍増のため、なにも無理してやる気のない人を留学に駆り立てる必要はありません。すでに日本中に「行きたい」と考えた人たち、一度はあきらめた人たちがゴマンといるのです。もちろんなかには、なかなかもろ手を挙げて賛成しづらい留学希望者もいるでしょうし、金銭面でのバックアップを求められている場合にはなおさら、留学の成果を確認したいでしょう。

もしかしたら、今、この文章をお読みの方々の中に、明日「留学に行こうかな」と告白される方がいるかもしれません。そうなったとき、皆さまはどうされますか?

「留学に行きたい」と打ち明けるのは、誰でもドキドキするもの。もし、近しい人が留学したいと相談してきたら、まずはその意欲をゆっくり聞く環境を用意したいものです。反対ではなく、どうやったら有意義に実現できるか、家族や友人は、その方法を一緒に考えるパートナーであれたらと私は考えます。

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若松千枝加 留学ジャーナリスト

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