これからの経済
2019年08月01日 07時44分 JST

中国のSNS「微博」で大人気の日本情報アカウント。彼らは今、「日本の地方住み」を求めている。

東京ー大阪の“ゴールデンルート”はもう普通。「地方の魅力を知りたい」にどう応えるか?が対中国マーケティングのトレンドに。

出せばバズる。そういっても、おそらく過言ではない。

中国版Twitterと言われるウェイボーで、「日本流行毎日速報」は日本情報を発信するアカウントの中でもトップクラスの人気を誇る。ファン数は316万人。

ウェイボーより
「日本流行毎日速報」のウェイボー

本家Twitterでバズったネタや日本の風景などを中国語で逐一発信し、1万を超えるリツイートやコメントがつくことも珍しくない。

こうした「日本情報」アカウントを、同時に多数運営しているのが上海に拠点を置くメディア・速報醤(そくほうじゃん)だ。人気アカウントの影響力を利用して観光地や商品を宣伝したい企業などとインフルエンサーを繋いでいる。

「流行速報」などのインフルエンサーを利用したマーケティングの今と、これからの戦略について、速報醤の賀詞(が・し)社長に話を聞いた。

Fumiya Takahashi
速報醤の賀詞社長

 ■「中の人」は会社

速報醤が保有しているインフルエンサー・アカウントは100を超える。

これらは大まかに2つに分けることができる。1つは「流行速報」のように速報醤が直接「中の人」となって運営しているインフルエンサーだ。

インフルエンサーを使った広告宣伝を仲介する会社は他にもあるが、「自分自身も1つのメディアであることが差別化要素。100以上あるインフルエンサーアカウントのうち、15くらいが自社で運営するメディアです。特に『流行速報』は、中国人にとって日本を覗く窓のような存在になっていると自負しています」と賀さんは話す。

日本情報を発信し続けるわけだが、その方法も独特だ。

賀さんは元々、日本のIT企業でシステム開発を手がけていた。日本のネット空間から流行している情報やワードを自動で抽出するシステムを自社開発することで、およそ15のアカウントが「ネタ切れ」になるのを防いでいるという。

そこに契約しているインフルエンサーが加わる。速報醤はインフルエンサーに動画制作のノウハウなど提供すると同時に、日本の企業や自治体の宣伝案件を仲介する関係にある。

ファンが多ければ誰でも良いというわけではない。美容や化粧品など、日本商品の評判が高いジャンルから、旅行や音楽・アニメなど、インフルエンサーによって得意分野を持たせている。

例えば、143万人のフォロワーを持つ「日本潮流少女志」は10~20代女性がコア・ターゲット。Instagramなどに投稿されている流行りの髪型や小物などの情報を日々投稿している。

ウェイボーより
「日本潮流少女志」のウェイボー

「速報醤」としては案件ごとにこうしたアカウントを使い分け、「刺さる」層に確実に宣伝する狙いがある。

賀さんは「自社のシステムで、少ない人数で大量のアカウントを管理しています。将来的にはもっと低コストで高効率なインフルエンサー運用を行っていけると思います」と自信をのぞかせる。

■東京の話は「普通の内容」

とはいえ、ネット空間の情報だけで、日本について発信するのにも限界がある。中国人の若者にとって、インフルエンサーとして食べていくのは憧れのライフスタイルの一つ。日本に住む中国人が「地の利」を活かして日本情報系インフルエンサーを目指す例も多い。

追い打ちをかけるのが、中国人の「需要」の変化だ。

「爆買い」が流行語となった2015年ごろは、日本といえば東京ー大阪間のゴールデンルートや、中国で流行った映画のロケ地になった北海道だった。

時事通信社
中国人観光客(2016年)

しかし、日本リピーターや個人旅行がだんだんと主流になると、伊豆半島や北陸など、従来のルートを外れた行き先がブームに。かつての常識が通用しなくなったのだ。

「日本に関する情報がまだ少なかった時代は、東京や大阪など、大都市の情報が必要とされていました。

しかし今は、こうした『普通の内容』には詳しくなってしまった。大都市の情報というのはこれ以上必要なくなってしまったんですね。特色のある小規模都市や秘境が、今の中国のネットユーザーからの注目を浴びています。

これでは以前と同じ方法では手が回らないわけです。(拠点の)上海から日本に何度も取材に行くわけにはいきませんから。低コスト高効率の運営もできなくなります」(賀さん)

時事通信社
熊本・阿蘇山を訪れる中国人観光客(2019年)

■ブリ大根作ってみた

インフルエンサーにも「地方」要素を入れなければ、需要の変化に対応しきれない。速報醤は2019年の6月に日中間のウェブマーケティングを担うクロスシー(台東区)と提携することを決めた。

この提携で、日本側のクライアントとの調整業務をクロスシーに任せ、コンテンツ制作などに集中できる環境も整った。だが、最大の狙いはクロスシーの持つ「地方特派員」と呼ばれるリソースだ。

クロスシーは、1000名を超える在日中国人を「特派員」として組織し、全国47都道府県を網羅している。彼らに地方のクライアントの案件を「取材」させ、速報醤の持つ拡散力で宣伝することができるようになった。

地方在住の中国人インフルエンサーも発展途上にある。例えば「姗姗爱拍照(シャンシャンは写真好き)」は富山県に住むアカウントだ。

ウェイボーより
「シャンシャンは写真好き」の投稿

美容に関する投稿も多いが、ブリ大根を作って中国ユーザーに紹介する動画をアップするなど地方色も取り入れ、ファンは1万人を突破した。

ウェイボーより
完成したブリ大根

「今までのインフルエンサーマーケティングは『経済力のある顧客に高品質な宣伝』を提案するのが主だった。地方自治体や中小企業では中国向けの広告を出しづらい予算感だった。2者が協力することで、(地方の案件でも)広告のコストを下げられる」と賀さんは振り返る。

中国人の情報ニーズが「地方寄り」になってきた中で、インフルエンサーを利用した宣伝も、大都市のキラキラしたものだけではそれに応えきれない。

速報醤は新しい体制のもと、年間300件の受注と1億円の売り上げを目指す。動画撮影のためのスタジオを日本にもオープンさせる計画だ。