カナダやヨーロッパで進む「グリーン・リカバリー」 環境やサステナビリティに重点を置いた新型コロナからの復興

新型コロナウイルス危機の教訓を生かすには、地球規模の連帯が求められる。
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カナダやEU(欧州連合)では、環境や社会の持続可能性に重点を置いた復興計画「グリーン・リカバリー」が進んでいる。カナダは大企業緊急融資制度(LEEFF)を設立し、融資の条件として、気候関連財務情報を開示することを義務化した。EUも持続可能性を前面に出したポストコロナの復興計画を発表している。新型コロナウイルスからの経済再建で、グリーン・リカバリーは一段と重要な施策になりつつある。

カナダ、緊急融資申し込みに気候関連財務情報の開示義務付け

カナダでは5月11日、ジャスティン・トルドー首相が新型コロナウイルスによって影響を受け、救済資金を求める国内企業に対し、気候変動に及ぼす影響に関する情報開示と環境の持続可能性の実現に継続的に努めることを求めると発表した。政府は、大企業や中堅企業で働く数百万人の中流階級の雇用を守るために、同国の企業が不況を乗り切り、さらに将来性のある企業の倒産を可能な限り回避できるよう支援する目的で大企業緊急融資制度(LEEFF)を創設。同20日から申請の受付が始まった。

カナダ政府は当初、救済措置を受ける条件の一つとして、年間売上高が3億カナダドル(約234億円)以上の企業は金融安定理事会の「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に沿った気候関連の情報を開示する報告書を毎年発行することを挙げていた。しかし20日に発表された内容によると、企業は融資を受ける間、コーポレート・ガバナンスや戦略、方針、実務が気候変動に伴うリスク・機会の管理にどのように役立っているかに重点を置いた気候関連の財務情報を開示する年次報告書を発行し、パリ協定の下でカナダが掲げる公約に加え、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標の達成に貢献する必要があるという。

ビル・モルノー財務大臣はCBCニュースに対し「救済措置を受ける条件には、自社株買いや配当、過剰な役員報酬がないことを確認するだけでなく、企業が気候への影響に関する財務情報を開示し、それが国の長期的なサステナビリティ目標の一環であることを確認することも含まれている」と語っている。

しかしE&Eニュースが指摘する通り、この制度では、航空会社や石油会社といった気候変動リスクの高い産業の一部企業も、原則に従う限り、6000万カナダドル(約46億円)以上の融資を申請することができる。

多くの国と同じく、エネルギー政策はカナダの国論の大部分を占める。気候変動対策の必要性が指摘されているにも関わらず、「トルドー政権は産業界のロビイストに屈している」とNGOから批判されている。

トルドー首相は5月11日、オタワで行われた記者会見で「人々は今後、企業に投資する際、パンデミック・リスクを低減するためにどのような戦略をとっているかを問うだろう。しかし、企業が抱えるリスクはそれだけにとどまらない。われわれは気候変動が企業の収益に重大なリスクをもたらすことも認識している」と語った。

EU、気候変動対策を促進する89兆円の復興基金案を発表

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27日、欧州委員会のウルスラ・フォンデアライエン委員長は欧州議会の演説で、7年間で1兆1000億ユーロ(約130兆円)に上る長期予算案と7500億ユーロ(約89兆円)の復興基金案「ネクスト・ジェネレーションEU(次世代EU)」を発表した。この復興計画は、新型コロナウイルスによる壊滅的被害からの復興だけでなく、欧州のレジリエントな未来を構築する道筋として、持続可能性とデジタルへの移行に重点を置く。EUは、経済を立て直すということは危機以前の状態に戻るということではなく、より前進することだとし、危機によって生じた短期的ダメージを修復しながらも長期的な未来への投資を行っていかなければならないと表明している。

フォンデアライエン委員長は「このたびの復興計画は、われわれが直面している非常に大きな課題をチャンスに変えるものであり、復興を支援するだけではなく未来への投資でもある」とし、「サステナビリティを推進する欧州グリーン・ディールとデジタル化は、雇用や成長、社会のレジリエンス(回復力)、環境の健全性を高めるものだ。いまこそ欧州が立ち上がる時。われわれにはすべての人が直面している課題に応えるために動く意志がある。『ネクスト・ジェネレーションEU』はその課題への野心的解決策だ」と述べた。

この財政支出は持続可能な金融分類システム(EUタクソノミー)に基づいており、事前に定義されている6つの環境目標のうち少なくとも1つに貢献する技術やソリューションに民間投資を促すことを目的にしている。6つの目標は「気候変動の緩和」「気候変動への適応」「水と海洋資源の持続可能な利用と保全」「循環型経済への移行」「汚染防止規制」「生物多様性と生態系の保全・回復」で構成されている。

EUタクソノミーでは、6つの環境目標のうちの1つに実質的に貢献していることや、「他の環境目的に重大な害を及ぼさない」(DNSH:do no significant harm)など、経済活動のしきい値が設定されており、理論上、石炭やその他の汚染度の高い化石燃料を使用した電源への投資を防ぐことができる。承認された投資は、「OECD多国籍企業行動指針」や国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」など最低限のセーフガードも満たさなければならない。

マロシュ・シェフチョビッチ副委員長は「復興には強力な政策の方向性が必要。新たな現実を反映した今回の計画は、われわれが危機を克服し、経済を活性化させ、EUをレジリエントで持続可能、そして公正な回復の道にしっかり乗せていくことにすべての行動を集中させるもの。これは、われわれがより強く立ち直るのに役立つだろう」と話している。

長期的視点に立ちどのような具体策を実行できるかが、各国のみならず世界の人々の明暗を分けることになるだろう。今回のウイルスのような危機はボーダレスに地球規模で発生する。一部の地域や国が最善の策を打ったとしても、他国が短期的視点で経済・社会の復興を遂げようとすれば歪みが生じ、新たな危機の回避は困難となる。37万人(6月1日時点)の死者を出した新型コロナウイルス危機の教訓を生かすには、地球規模の連帯が求められる。

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