ビジネスが作る未来
2019年08月29日 10時14分 JST | 更新 2019年08月30日 18時03分 JST

実は「旅人」が企業に求められている? 世界一周した起業家、“21世紀型グローバル人材”を語る

「旅で世界を変える」取り組みが注目を集めている。

Kaori Sasagawa
「旅人採用」

 

閉塞感が漂う日本のビジネスに風穴をあけるのは、旅人なのかもしれない。 

世界中を旅した若者たちが立ち上げた会社による、「旅で世界を変える」取り組みが注目を集めている。リーダーは、株式会社TABIPPO代表取締役の清水直哉さんだ。

旅人の就活・転職サービス「旅人採用」も運用開始から1年以上が経ち、旅の経験と人間性を重視して採用を決めた企業は150社を超えた。 

 

6月に、一年間の「21世紀型グローバル人材育成プログラム・POOLO」もスタート。8月には、「世界を、旅して働く」をコンセプトに定額で世界中に住み放題できるサービス「HafH (ハフ)」とパートナー提携も開始、新たな挑戦を続けている。

9月21日の国際平和デーに、幕張海浜公園で日本最大の野外フェス「PEACE DAY19」を単独開催。ライブには、つんく♂さんや伊勢谷友介さんなどの豪華ゲストも出演も決まっているという。

TABIPPOは、どんな社会を目指しているのだろうか? 成功や金儲けとは距離を置く、これからのグローバル人材とは? 清水さんに聞いた。 

 

世界一周の旅が人生の転機に 

Kaori Sasagawa
株式会社TABIPPO代表取締役の清水直哉さん
――清水さんが最初に旅の魅力に目覚めたのはいつですか。

大学時代はサッカーしかやっていなくて、本場のヨーロッパでサッカー観戦したいと思ったんです。そのため大学2年の時に休学して、4カ月間バイトしてお金を貯めて、サッカー観戦ついでに1カ月間ヨーロッパを旅しました。 

建築家の両親も若い頃はバックパッカーで、その頃の写真を見せてもらっていたので、海外に関心があったのはその影響もベースにあると思います。ただ、一人で海外を旅して面白いと思ったのはその大学2年の時がはじめてでした。

恥ずかしながらそれまでは、ヨーロッパは全部同じだと思っていたんですが、イタリア、フランス、ドイツと、国が変われば言語も文化も価値観も違う。当たり前といえば当たり前ですが、実際にその現実を目の辺りにする毎日は驚きの連続で、世界を旅したらもっといろんな違いがわかって楽しそうだなと思ったんです。 

その後、就職活動で挫折して人生に悩んだこともあって、何か夢が見つかるかもしれないと思い、大学4年時にバイトで70万円貯めて3カ月で世界一周を旅しました。

――その旅の途中で出会った仲間たちと起業したんですよね。何か夢が見つかったのでしょうか。

夢というほどではないですが、やりたいことをやろうと思いましたね。

世界一周した中で一番衝撃を受けたのはインドで、自分の常識や価値観をぶっ壊されたことも大きかった(笑)。着いた初日に詐欺に遭って4万円とられましたから。インドでは、あとで警察もタクシー運転手も旅行会社の人にも騙されたことを知って、人間不信になりましたけど、いろいろ考えさせられたことも多かった。

たとえば、貧しさゆえに勉強もやりたいこともできない人が多い中、日々小さな幸せを見つけて楽しく生きている人もたくさんいたことです。 

他の国でも、生き方、働き方について考えさせられて帰国した時、JR山手線に乗っているサラリーマンの疲れた暗い表情を見たらげんなりしてしまって、自分はこうはなりたくないな……と。

義務教育をちゃんと受けられて、住む家にも食べ物にも困らないこの国で、やりたいことがやれないなんてありえない。むしろ、やりたいことをやって自分も周りも幸せになる努力をしないいといけない気がしたんですね。

同時に、たまたま日本人に生まれた幸運な自分は、世界に貢献することや人のためになる仕事を役割として与えられているんだと考えて、その考えに賛同してくれた旅の仲間たちと旅を広める活動を始めました。

世界一周の旅が自分の転機になったので、もっと多くの若者たちに同じような経験をしてほしいのと、世界を見た上で本当にやりたいことをやってほしいと思ったからです。

――パスポートを持っている日本人は、実は4人に1人と、意外と少ないんですよね。

そうなんです。ですから最初は、旅の魅力を伝えるイベントを行うなどして、旅する若者を増やすための活動からスタートしました。

ただ、旅して満足するだけで終わってしまったら意味がないので、ここ数年は、旅した若者が社会で活躍できるように旅の価値を高める活動や、旅の経験を社会に還元してもらうための事業に積極的に取り組んでいます。

旅好きたちの間で盛り上げてきた野外フェス「PEACE DAY」、旅人の経験を仕事に活かす人をサポートする「旅人採用」、グローバル人材をアップデートする「POOLO」などがまさにそうですね。

 

「21世紀型グローバル人材」とは

Kaori Sasagawa
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――「21世紀型グローバル人材育成プログラム・POOLO」のホームページに書かれているように、海外との競争力を高める視点での「従来型のグローバル人材に対する違和感」に共感しました。清水さんたちが目指しているのは、競争意識より共創意識が強く、自国や自身のキャリアよりも、他国への理解と愛情、多様性を重視する「21世紀型のグローバル人材」ですね。

僕自身が世界を旅したことで、自分の成功や金儲けよりも大切なことに気づいたように、旅好きの若者には、競争主義ではなく利他主義の人間が多いと実感しているんですね。 

僕たちは、自分が旅した国でテロや戦争が起きると、ただニュースで見て終わるのではなく自分事として考えます。また、偏ったイメージがある国に実際に行ってみると、みんな同じ人間だということがよくわかっています。そういう経験が多ければ多いほど、世界や他者を見る目も理解の仕方も変わってくると思うのです。 

――旅人に限らず、30代半ばぐらいまでの若い世代には、それより上の世代と違う価値観の人が増えていると感じます。

それはありますね。僕らの世代は、金やモノや地位より良好な人間関係が大事ですし、仕事は頑張るよりも楽しみたい。やりがいを感じるのも、自分が何かを達成するためではなく、何かのため、誰かのためにやる、自分が正しいと思える仕事です。

世の中の流れもそういう風に変わってきていると感じています。旅人採用を希望する企業も、「持続可能な社会を創るために自分の会社は何に貢献できるのか?」という意識が高まってきていますから。 

トラブルやリスクを覚悟してでも世界中を旅して、世界中の人と触れ合う人は、多種多様な文化や価値観に柔軟に対応して、臨機応変に行動を起こせる人が多いので、人材としてすごく魅力的なんです。

――先日、「POOLO」のキックオフパーティも見学しましたが、参加者のみなさんもすごくいい笑顔をされていて、とても和やかで居心地のいい空間でした。

旅好きには本当にいい奴が多いんですよ。 

そういえば僕の大親友に、LGBTの啓蒙活動をしている男がいるんですが、彼が大学の友達以外にはじめて同性愛者であることをカミングアウトしたのは、まだ2、3回しか会ったことがなかったうちの会社のメンバーなんです。

後で「何で話してくれたの?」と聞いたら、「世界中を旅している人はいろんな価値観を受け入れる度量があって、だから何でも話せると思ったから」と言うんです。自分もまったく同感で、「日本人にLGBTの理解を広めたいなら、旅を広めたほうが早いよ」と言ったら彼も共感してくれましたね。

 

ライフスタイルや学び、新しい旅の選択肢 

d3sign via Getty Images
Rear view of woman traveller enjoying her time in Hong Kong, taking a deep breath with hands raised against Victoria Harbour and city skyline

――従来、旅といえば観光やビジネスが主流でした。このところ、社会課題解決や現場体験をテーマにした“学ぶための旅”も増えています。被災地を訪れたり、農家民泊する修学旅行も増えつつありますが、そういった状況はどう見ていますか。

いい傾向だとは思いますが、旅はレジャーの領域だと考えている人がまだ大半ですよね。アメリカやヨーロッパでは、大学卒業後に進学や就職をしないで自由に過ごす「ギャップイヤー」を利用して、自分の価値観の幅を広げるために世界中を旅する若者が少なくありません。

また海外には、キャリアやライフスタイルや教育など、レジャーとは違う観点で旅の価値を重視する文化があります。日本にもっとそういう考え方を浸透させていく必要があると思います。

――子どもの貧困も社会的な問題となる中、旅をしたくてもお金がない若者もいるでしょう。清水さんのようにバイトをしてお金を貯めることもできますが、SNSや動画を見ていれば、あえて旅に出る必要性を感じない人もいるかもしれません。

おっしゃる通りで、僕らもその問題をどうにかしなきゃいけないと思っているんです。 

僕自身もめちゃくちゃ貧乏だったので大学は奨学金で入りましたし、バイトも頑張って少ないお金をやりくりしながら世界を旅しました。そこから人間的成長がはじまったと思っているんですが、今はお金がなくてもバイトしない子は少なくないですよね。

それはやはり、無料のSNS、動画、YouTubeやNetflixといった動画など、お金をかけずに一日楽しめるエンターテイメントやコンテンツが増えてきた影響も大きいと思います。

でも、スマホやタブレットに依存する生活が日常になりやすいからこそ、非日常の世界を体験する旅の価値はますます高まっていくと思う。そういう価値を、国も旅行業界も教育業界も本気で若者たちに伝えていかないと、日本はますますドメスティックになってしまいます。

――確かに、「グローバル」とか「ダイバーシティ」といった言葉は一般的になりましたが、人材育成が追いついていないように感じます。でもその一方で、海外渡航3ヵ国以上が条件の「POOLO」の募集には、700人以上の若者が応募したんですね。

生き方も働き方も多様になり、SNSで個人が活躍できるようになったことで、選択肢が増えたからでしょうね。選択肢が増えると人は悩むんですよ。 

今の自分でいいのか、自分の選択が間違っていないのか、価値観も考え方もごちゃごちゃになってわからなくなる。だから旅をして自分探しをしたくなるし、「これが正しい」と自分が思えることを見つけたくなるんです。

「POOLO」はきっとそのひとつの選択肢なんですよ。僕は、キャリア形成は「V・S・O・P」だと思っているんです。20代は何でも体験して多種多様に価値観を広げるバラエティ、30代は好きなことを見つけるスペシャリティ、40代は好きなことの独自性を高めるオリジナリティ、50代は人格的にも尊敬されるパーソナリティが大事なんですよね。 

「POOLO」では、「V」(バラエティ)と「S」(スペシャリティ)を特に重視しています。ここでは、「旅好き」という軸で目指す方向が同じ仲間たちと、共に学び、共に遊び、共に語り合いながら、自分がやりたいことを見つけられる。だから、共感してくれたんだと思います。応募理由で一番多かったのも、コミュニティを重視する意見でしたから。

――一年間、共に学び合う中で、いろいろな化学反応も起きそうですね。

そうなるといいですね。ただ、「POOLO」の第一期募集は締め切ったので、旅に興味ある方は9月21日の野外フェス「PEACE DAY19」や「旅大学」にぜひ参加いただいていて、旅好きの人たちとつながってほしいです。 

まだ旅の醍醐味を知らない人には、ぜひ世界を旅してほしい。日本がいかに小さい国で、これまでの自分の考え方がいかに狭く偏っているか、肌感覚で実感できますから。

 

(取材・文:樺山美夏/フリーライター、編集:笹川かおり)