台湾の同性婚実現を、若い人はどう思っているの? 当事者の若者二人に聞いた

「台湾の人間の進歩だと思う」。二十代のふたりは、喜びとジェネレーションギャップを感じていました

台湾で5月17日、同性の相手と結婚できる法律がアジアで初めて成立した

結婚登録がスタートした24日には、526組のカップルが婚姻届を提出。望む相手と結婚できる社会になったことを、多くの人が喜び祝った。

24日に、婚姻届を提出したカップル
伴侶盟 / SATOKO YASUDA
24日に、婚姻届を提出したカップル

若い世代の多くは、これから結婚し家族を作る。彼らはこの変化をどう感じているのだろうか。

同性のパートナーがいる二人の若者に、アジア初の同性婚実現について気持ちを聞いた。

■ 結婚の自由の実現。それは「人間の進歩だと思う」

「嬉しいです」。大学を1年前に卒業した22歳の呉さんと、教師をしている24歳の林さんはともに喜びを口にした。

「やっと、みんなが同じ権利を共有できるようになったのが嬉しい。自由、そして民主的であるということは、台湾にとって大切なテーマです。それを前進させるための、大きな一歩になりました」と呉さんは語る。

林さんも、セクシュアルマイノリティの人たちの権利が保障されたことを喜ぶ。

「誰もが好きな人と結婚できるようになったことが、とても嬉しい。全ての人の権利を、平等に保障する法律ができたことは、台湾の人間の進歩だと思います」

同性婚実現したことをどう思っている? 気持ちを語ってくれた呉さん(左)と林さん
satoko yasuda
同性婚実現したことをどう思っている? 気持ちを語ってくれた呉さん(左)と林さん

■若い世代は、LGBTフレンドリー

呉さんと林さんには、ともに同性のパートナーがいる。

呉さんが自分をバイセクシュアルだと感じるようになったのは、中学生の時。自然な流れで男の子も女の子も好きになり、バイセクシュアルなんだなと認識した。

一方、林さんは自分を“ゲイ”という言葉で表現しない。

「ゲイという言葉の中に、自分自身を定義したくないんです。自分は一人の人間。タグはいらないと思っています」

「高校時代に女性が好きになったこともあります。だが現段階では女性より男性のほうが好きということをはっきり意識しています。今のパートナーに出会えてから、より男性が好きだと確信しました」

呉さんも林さんも、友人に自分のセクシュアリティをオープンにしている。

呉さんは高校や大学生の頃から、好きな女の子のことを友人に話し、時には相談にのってもらっていた。

台湾の若い世代のほとんどがLGBTに寛容で同性婚に賛成している、と呉さんは話す。

「友達の中にも、LGBTの人たちはたくさんいます。LGBTフレンドリーな雰囲気があるので、話しやすいし居心地よく過ごせています」

「私たちの世代は、物事を受け入れる力が強いと思う。カミングアウトするかどうかに関わらず、自分らしく生きやすい空気があると感じています」

■ 親世代とのジェネレーションギャップ

同じ世代は居心地が良いと話す一方で、呉さんや林さんが感じているのが親世代とのジェネレーションギャップだ。

友達には気兼ねなく恋人の相談をする呉さんも、親には同性パートナーがいることを話していない。

「親の世代はLGBTを受け入れられていない、と感じています」

「親や高齢の世代はLGBTの人と接触する機会が少なくて、身近にいると思っていない。だから受け入れられないんだと思います」

「それにその世代には、『お父さんとお母さんと子ども』という伝統的な家族像があって、同性婚やLGBTを受け入れられない面もある。必ずしも反対していない親でも、うちの子は違う、という考え方をする人が多いですね」

林さんも親には話していない。

「親の世代はLGBTの人は身近にいないと思っていて、(自由な結婚を認める)法律もいらないと思っています。同性婚に反対している人に対して話すのは、難しいですね」

■教師として感じている、親の世代との違い

親たちの根強い反対は、学校でもLGBTへの理解妨げになっている。

台湾では2004年に「ジェンダー平等教育法」が採択されて、学校でLGBT教育を実施することになった。しかし、自分の子どもにはLGBT教育をして欲しくないという親も少なくない。

師範大学(教員を養成する大学)を1年前に卒業した呉さんは、学生の時にインターンをした学校で、LGBT教育に反対する親を見てきた。

「親の中には、私の子どもには絶対話さないでください、という人もいました。そういう反対する親を気にしてか、私を担当していた先生は、『LGBTについてはあまり深く話さないで』と言っていました。先生によって方針は違うと思いますが、その先生はLGBTのコンセプトだけしか教えていませんでした」

教師がLGBT教育をできるかどうかは、学校側の対応で左右される一面もあるようだ。

教師の林さんは、知り合いの学校の教師が親から「LGBTのことを書いてある教科書を選ばないで」言われたという話を聞いた。

ただ、現在自分が教えている学校ではそういった制約はない。

「もしかしたら文句を言っている親もいるのかもしれません。だけど、うちの学校ではそれが現場の教師まで伝わってくることはありません。校長先生や責任のある立場の先生が対応して、教師まで伝えないようにしているのかもしれません」

政治と社会を教える林さんは、自分なりの方法で授業の中でLGBTについて教えるようにしている。

「客観的な情報を、少しずつ話しています。子どもに話さなければ、次の世代も変わりませんから」

■クリスチャンとして、同性婚をどう思うか

台湾で平等な結婚に反対する反対派の多くが、キリスト教教会の人たちだ。婚姻は男女間のものである、との考えから同性婚に強く反対してきた。

実は林さんは、自身も教会に通うクリスチャンだ。教会の中で、同性同士の婚姻に反対するメンバーを見てきた。

ただ、「それは、キリスト教の信仰が教えたからであって、その人のせいではないと思っています」と林さんは話す。

一方で、法律ができた後に若い世代のクリスチャンが少しずつ変わりつつあるのも感じている。

「もともと、同性婚に反対していた女の子がいたのですが、同性婚の法律が通ってからは『反対をやめよう』と、クリスチャンのグループに呼びかけるようになりました。彼女は自分の信仰のために反対していたのですが、『社会に住む人たちの全員が、クリスチャンではない。だから多様性を認めないといけないよね』と、言うようになったんです」

自分自身のセクシュアリティと信仰の間に葛藤はないか、と林さんに尋ねると「自分はキリスト教が同性同士の付き合いを禁止しているとは思っていない」と語った。

「聖書の面白いところは、人によって解釈が様々なことです。聖書の中には『結婚は男女間だけのものであって、同性同士はダメ』と書かれていると説明する人もいますが、一方でキリストはそんなことは言っていないという解釈もあります。キリストは全ての人を愛していると言っている。僕はそれを大切に思っています」

■若い世代の二人が感じている、自分たちの課題

アジアで初めて、同性同士の結婚を可能にした台湾。

若い世代の呉さんと林さんが、次にしなければいけないと感じているのは、反対する親世代とコミュニケーションをとることだ。

呉さんや林さんは「自分たちの世代と親世代は、LGBTの当事者や情報に触れる量や機会が違う」と話す。

台湾で、LGBT活動家・祁家威さんが同性婚を求める運動を始めたのは1986年。当時、LGBTの人たちは社会から隠された存在で、彼らに関する情報はほとんどなかった。

その後10年かけて、少しずつ祁さんに続く人たちが現れるようになった。

呉さんや林さんの世代は、当事者が少しずつ声を上げるようになるのを見ながら10代を過ごしてきた。その間に、インターネットが普及して情報も手に入りやすくなった。

「親の世代は、伝統的な家族像を大切にして生きてきました。一方で、自分を含めた若い世代は、欧米からの考え方や情報が増えて、親の世代と考え方が全然違います」と林さんは話す。

また、これまでのメディアの伝え方が、親の世代にLGBTの印象を悪くしている一面もある、と林さんは考えている。

「今の新聞やニュースは、比較的客観的にLGBTのニュースを伝えます。だけど昔はネガティブな伝え方が多かった」

「クラブでドラッグを使う事件があって、そこに同性愛者がいたら『同性愛者のドラッグクラブ』という見出しが取られた。同性愛者の恋愛関係がもつれて一人が自殺したら、記事のタイトルに『同性愛者』という言葉が使われました」

「自殺やドラッグの問題は、同性愛者だけじゃなくて、異性愛者の男女でもある。それなのに『同性愛者』と書くことで、当事者が自殺しやすい、ドラッグにハマりやすいという印象がもたれるようになりました」

同性カップル婚姻届提出のニュースが流れた日、呉さんは結婚登録したカップルの記事を親に見せて「この人たちも幸せになったんだよ」と説明した。親は良いとも悪いとも言わず、ふ〜んという感じで見ていたという。

「私がこの問題を気にかけていると知って、親は何も言わなかったのかもしれない」と話す呉さん。LGBTについて伝え続け、もっと知ってもらってから、遠くない将来に彼女がいることを話したいと思っている。

林さんの親はクリスチャン。同性パートナーがいると伝えるのはハードルが高いが、経済的に安定したら話したいと思っている。

「今はまだ、代理教師なんです。正教師の試験に合格して経済的に安定したら、話したいと思っています」

また、同性婚を認める法律ができたことで、これまで声を上げられなかった人たちも、上げやすくなるのではと林さんは考えている。

「昔は(LGBTだと)家族に言ったら、争いになって関係が壊れてしまっていたと思います。家族と喧嘩したくないと、言わずにいた人もいると思う。でも法律ができ社会で認められるようになったことで、当事者は話しやすくなった思います」

自由な婚姻の実現は、若い世代のふたりにとって希望になっている。それを他の国にも広がって欲しいと呉さんと林さんは願っている。

「アジアで最初の同性婚が可能になったことで、ほかの国の人たちも『自分たちも変えられる』と思うのではないでしょうか」と呉さんは話す。

林さんは、自分と同じように同性パートナーがいる人やLGBTの人たちに「自信を持って」と伝える。

「世界は広いです。もし周りからのプレッシャーで傷つきそうだったら、逃げてもいいと思う。今いる場所がつらかったら、他の場所に行くのもありだと思う。(LGBTの人たちは)他の人と、何も変わらない。自分自身に自信を持って欲しいです」

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