「意見を言わないことが大人なのかな…」 10代がこう感じてしまう現状を、10代同士で考えてみた

春名風花さんと今井紀明さんをゲストに、「10代が意見を言うこと」を考えるイベントを開きました【イベントレポート】
ゲストの今井紀明さん、春名風花さん、総合司会の竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(左から)
ゲストの今井紀明さん、春名風花さん、総合司会の竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(左から)
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

ハフポスト日本版では「10代が意見を言ったらダメですか?」というタイトルで11月、声優・俳優の春名風花さんと認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長の今井紀明さんをゲストに、弁護士の徐東輝さんの特別サポートを受け、10代向けのイベントを開催しました

イベントではまず、複数のトークテーマについて春名さんと今井さんが対談をしました。その後、参加者たちは4人ほどに分かれてグループワークをしました。春名さんと今井さんもテーブルを回って参加し、グループワーク後に参加者から各テーブルで出た意見の発表がありました。

参加者たちからは「無意味な校則」の理由を説明しない先生への疑問や、意見を言うことに対して感じる「意識高いね」という周りの視線への戸惑い、そして、大切な人を守るために「意見を言わないことが大人なのかな」と感じることさえあるという声も聞こえてきました。

参加者は、同世代や春名さん、今井さんとの交流を通じて、何を感じたのでしょうか? その内容を振り返ります。


トークテーマ:なぜ「子ども」が意見を言うと、批判されるの?

春名風花さん
春名風花さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

9歳ごろからTwitterを始め、社会問題にも意見をしてきた春名さん。「子どもらしくない」「大人が代筆しているんじゃないか?」「自分の意思なんか持ってない」などと批判を受けたことを振り返りました。

春名さん:僕にとっては「本人が言っている」と思ってもらえなかったのが、一番辛かったです。「大人に話させられている」と思われているから、周りの大人に対して批判が向けられ、実家も特定されたりして結構な目にあいました。殺害予告も受けました。警察に相談に行っても当時は、「SNSをしなければいいんじゃないか」などと言われてしまった。もともと色んな方から「女性と子どもと芸能人は(周りに批判をされやすいから)意見を言わない方がいい」と聞いたことがあって、僕はそれを全部揃えてしまって…(苦笑)。

(こういった経験から)僕は子どもが意見を言うことに関してマイナスなイメージがあります。嫌な思いは、しない方がいいと思っています。これは、「意見を言うな」ってことではなくて、本当にうまいやり方をしないと、どんどん辛くなって行くから。意見を言っても守られる社会になったら、どんどん発信して欲しいと思っています。

今井さん:若い人が意見を言うことが守られる仕組みは必要だと僕も思っています。例えば、18歳選挙権が導入されたのに、議員になれる年齢は25歳や30歳からですよね。18歳でも選挙に出られる仕組みになっていけば、意見が尊重されるようになっていくんじゃないかと思う。10代も議員になったら、10代がより政治に関心を持って、状況が変わると思います。

10代の意見ってメッセージ性が高いというか、大人に考えつかないものもあるから、みなさんが持っている価値観を大人側は聞かないといけないと僕は思うんですよ。

トークテーマ:「自己責任」と「生きづらさ」

今井紀明さん
今井紀明さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

今井さんは高校生の時に、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立しました。2004年、18歳の時に活動のためにイラクへ入国し、武装勢力の人質に。帰国後、激しい「自己責任バッシング」を社会から受け、「自作自演」などと虚偽の批判も受け、家族が仕事を失ったことなどを今井さんは説明しました。その上で、今の社会に感じていることを参加者に伝えました。

今井さん:今、自己責任という言葉を使いながら、相手を叩く傾向がありますよね。生活保護受給者への批判でもそういう状況になりましたよね。

自己責任って言葉が他人を切り捨てるワードとして使われている。お互いを切り捨ててしまうと、本当に生きづらい社会になってしまうんじゃないかと思っています。他人の生きている姿を否定することで、生きづらさを蔓延させてしまう悪循環のループみたいなものができてしまう。

春名さん:自己責任って言われたことは僕もあるし、自分でも発信する時には責任を持つようにと心がけています。ただ、自己責任という言葉にある「正義」を振りかざして、他人に「暴力」を加えようとする人がたくさんいることが問題だなと感じています。

トークテーマ:今の「若者」をとりまく社会の空気は?

今井紀明さん
今井紀明さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

今井さんは現在、認定NPO法人D×Pの理事長として、「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望がもてる社会」を目指して活動しています。活動のきっかけは、通信制・定時制高校に通う若者たちが親や先生から否定された経験を知り、自身のバッシングされた経験と重なったことだったといいます。

今井さん:僕たちが出会う高校生の中には、親にお金を払わないといけない状況だったり、引きこもっていたりする子もいます。定時制高校に通っている生徒には、日中働いている生徒も多いです。政治に関心を持つ余裕はなく、こういった場所にもなかなか来られないと思います。

ちなみに、会場に来ている10代にマイクを向けてみると、普段からディスカッションなどに取り組んでいる人も複数いました。高校の現代社会の授業で死刑制度や憲法について議論をしていたり、数学の授業でホワイトボードを使ってみんなで考えたりする学校に通う生徒も。大学生からは、Twitterのハッシュタグを活用して授業を進めているという話も出ました。

春名さん:そういった授業があるから、こういう場所に来やすいんじゃないかなと思いました。学校って、友達同士で深い話をする機会がなかったり、「真面目ちゃん」ってからかわれちゃう雰囲気があったり、そもそも自分がしたい話題に参加すらしてもらえないんですね。1人でも味方がいると、意見は言いやすいんですけど…。

なので、10代が情報発信をする時には「仲間を作るといい」というのが僕の持論なんですよ。「高校生たち」というくくりで発言すると、個人への批判が集中してしまうのも避けやすい。だからなるべく外の世界に出て、今井さんのように1人の人間同士で対話をしたいという人に出会って欲しい。ただし、政治や宗教のために子どもを利用しようとする怪しい大人が近づいてくることがあるので、気をつけて欲しいです。

トークテーマ:アンケート結果について

ハフポスト日本版では、イベントの前に「10代が社会に関心を持ち、意見を言うこと」についてのWEBアンケートを実施しました。その自由記述の内容などについても話をしました。

アンケートの自由記述から
アンケートの自由記述から

春名さん:「10代は往々にして食い物にされるだけだと思うので、裏表把握したうえで発信しなければ傷つくだけだと思う」(30代・女性)という回答がありますね。このイベントの打ち合わせの時に、成人女性の自由記述にはこういった「心配メッセージ」が多かったと聞きました。先ほど言った「女性・子ども・芸能人は意見を言うな」という社会の雰囲気を体感しているからだと思います。

このスライドには、「責任をもて」「意見を言うのは良いが…」という意見もありますね。「意見を言っていいけど…でも」というのを「YES, BUT」って言うんですよね。今の社会では、意見を聞いてもらうために、相手と自分、現在の社会と理想の社会のグレーゾーンをちゃんと探っていかなければならないんだなと思いました。

10代が置かれた現状と意見

グループワークの卓上
グループワークの卓上
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

2人のトークを聞いた後、参加者は4人程度のグループで、トークテーマに関連した議論をしました。各学校の状況などお互いが直面していることについて共有し、意見を交わしたテーブルが多かったようです。各テーブルでどんな議論がされたのでしょうか。テーブルの代表者の発表から一部抜粋します。

無意味な校則について先生に「なんで、こんな校則があるんですか?」と聞いても、ちゃんとした理由を説明してくれない。

(意見を言うと)同世代から「意識高いね」と言われちゃうこともあるし、親は子どもを守りたいがゆえに、「あまり意見を言わないようにしなさい」と言うこともある。だから、子どもはどんどん意見を言わないようになっちゃってると思う。親が「意見を言ってもいいよ。私が守るから」と言うようにしたらいいんじゃないか。

担任の先生が、「(学校内の納得がいかないルールなどについて)自分の意見を言っていいんだぞ」と言ってくれている。でも、その自分たちの大好きな先生が自分たちが声をあげたせいで(職員室で)文句を言われたら、すごく嫌じゃないですか。だからその先生のために「大人になんなきゃいけないのかな」「意見を言わないことが大人なのかな」って思った(経験があった)。

発言する参加者
発言する参加者
Jun Tsuboike / HuffPost Japan
どういう状況だったら意見を言えるようになるかというのを考えたんですけど、周りの環境が大事なんじゃないか。味方を増やすことが一番大事で、同世代もそうだけど、上の世代を味方につけるのが、今の社会では一番有効。あと、「意見を言っても信用されない/批判されちゃう」などと考えていると意見が言いにくいから、そういうことを考えずに思い切って意見を言っちゃう方がいいとも思った。

「何かがこうだ」っていうことを決定づけるのではなく、こうやって考える場所、悩む場所(が大切)。結論を出す・到達する、のではなく進み続けるというのが一番大事なんじゃないか

バブルチャートから見えたこと

会場では立命館大学の服部宏充准教授の協力の下、参加者の意見をバブルチャート図で可視化する取り組みもしました。複数の参加者に「10代が意見を言いにくいのは何でだろう?」という題で自身の意見をマイクに向かって話してもらい、その総合を可視化しました。

バブルチャートの核周辺
バブルチャートの核周辺
協力:立命館大学 服部宏充准教授

この仕組みを研究している立命館大学大学院の吉添衛さんは、会場で図についてこう説明しました。

「核になったのが『雰囲気』という言葉でした。最も使われた言葉という意味ではなく、話の中でハブとなった言葉です。『10代が意見を言いにくいのは何でだろう?』という問題の核が、『雰囲気』であるとするなら、雰囲気を変えればこの問題は良くなると思います。『雰囲気』につながっている言葉として、『社会』や『上の(世代)』があります。雰囲気を変えるために、周りを巻き込みながら変えられる所を少しずつ変えて行くと、最終的に『雰囲気』や『社会』を変えられるのかなっていうのが、この図を見て僕なりに考えたことです」



参加者から

ゲストの話に耳を傾ける参加者たち
ゲストの話に耳を傾ける参加者たち
Jun Tsuboike / HuffPost Japan


終了後、参加者にイベントについてのアンケートにご協力いただきました。以下のような声が寄せられました。

・学校から出てみると、自分たちと同じような仲間や協力してくれる大人がいることがわかって、とてもうれしかった

・同じことを考えているんだ、同じことに問題意識を感じているんだと実感できて、とても安心したし楽しかった。

・話し合うこと、その話を理解してくれる人がいると知れた

・日本はYES,BUTが多いというのは、確かになと思いました

・悩むことが大切と気づけた

・グループで自分と全然違った生活の中にいる人たちの様々な意見が聞けて良かったです。

・色々な人の意見を聞くことで、自分の意見を深められたこと。やっぱり人は色々な意見を持っているのだと再認識しました。

・自分が社会に対して思っていること、感じていることを共有できる人たちがいることがうれしかったです。色々な意見を聞けたので、この意見を周りの人にも話したいです。

生活の中ではなかなか意見が言えず、こういった場所で、共有ができること、共感ができること、対話ができることが嬉しいという思いが伝わってきました。

ハフポスト日本版では、今後も10代を含め様々な人の対話につながる記事やイベントを企画していきます。イベントにご参加・ご協力くださった皆さま、誠にありがとうございました。

イベントの内容をまとめたグラレコ(グラフィックレコーディング)
イベントの内容をまとめたグラレコ(グラフィックレコーディング)
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

(写真・坪池順 @juntsuboike、グラレコ・ゆぴ @milkprincess17 )

表現のこれから
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